新年の挨拶
毎度おなじみ。この二人が出てきたので、章の終わりです。
アサ=ユグレイとアサ=キリユは部屋で寛いでいた。
年末年始の休暇も終わり、明日からはまた慌ただしい日々が始まる。
それを思うと、気が滅入る。だったら、なるべく考えないようにした方がいいとは思うのだが。なかなかそうも思考を切り替えられない。
虚空を見上げ、ユグレイは頭を掻いた。
「どうしようかなあ」
「何か悩み事でも?」
ちょっとした独り言のつもりだったが、ソファの隣に座るキリユに訊かれた。
「ああいや。大したことでもないんだけど。ほら? 明日からまた仕事だろ。異世界対策室の長として、みんなに向けたスピーチを話さなくちゃいけないんだけど。どうしたものかなあと。ぶっちゃけ、ネタが無い」
「あまり長くなければいいのではありませんか? 今年もみんなで頑張っていきましょうって。長ったらしい挨拶ほど、歓迎されないものはありませんよ。ほら? ティレントの方にご挨拶に伺ったときとか? 分かるでしょう?」
「ああ、あれは拷問だった」
妻の言葉にユグレイは頷く。予め、眠気覚ましをたっぷりと飲んで挑んだが、それでも睡魔を覚えさせてくる凄まじい代物だった。ジョークでも書かれているあれは、決して誇張なんかじゃない。
ティレントの人達って、あれを聞いて仕事になるのだろうか? 改めて、ユグレイはそんな心配をした。
「とはいえだ。流石に、本気で『みんな。今年も頑張ってやっていきましょう』ってだけで終わらせる度胸は僕には無いよ」
「まったく。小心者なんだから」
「せめて、常識的と言って欲しい」
辛口な妻の評価に、ユグレイは呻いた。
「じゃあ、どんな挨拶を理想としているんですか?」
「ああうん。そうだねえ?」
しばし、ユグレイは顎に手を当てて考える。
「やっぱり、久しぶりの仕事だからね。今どうなっているのか、今後どうなっていくのかは、軽く再確認しておきたい」
「悪くないと思います。それで? あなたは今の状況は覚えているんですか?」
「流石に、そこまで惚けてはいないよ。去年からの、みんなの協力によって友好的にここまでの道を歩むことが出来た。あちらの世界の技術と、こちらの魔法を組み合わせて使うことで、より社会が発展する可能性も見えてきた。今後は、互いに知恵を出し、協力して輝かしい未来を目指そうという具合だね。そのためにも、王都には一度、ニホンの人を招きたい。その為の準備をしている。今、積み上げている仕事が、その未来に向けた礎となるのだから、そういう気持ちでみんなには頑張って貰いたいな」
「じゃあ、そう言えばいいだけじゃないですか?」
「そう言われたら、そんな気もしてきた」
「まったく。あなたという人は」
呆れたと言わんばかりのキリユの声に、ユグレイは苦笑を浮かべた。
しかし、これで実際。何とかなりそうな気がした。話したいことの要点は見えてきたので、あとはこれをそれっぽく整理して話せばいいだけだ。
あとは、年末年始でも残ってくれたメンバーに対する労いの言葉を掛けておこうと思う。彼らも、少し日程をずらしてこれから休暇にはなるが。
「キリユは、今年はどんな年になると思う? いい年になると思うかい?」
「毎年言っているでしょう?」
「毎年聞きたいんだよ。君から」
そう言って、ユグレイは笑った。そして、今年はまだ聞いていない。
キリユもキリユで、承知の上で返しているのだろうが。
「きっと、いい年になりますよ。その為に、私達は頑張っているんですから」
「そうだね。うん。きっと、その通りだ」
ユグレイはこれを聞いて、ようやく少し、明日からの仕事へと気持ちを切り替えられそうな気がした。
先週は何も言わずにお休みしてすみませんでした。
無事に応募原稿は仕上げて応募出来たのですが、ちょっとそれで燃え尽きていました。
今週も短くて。いや、こっちはネタの見積もりが甘かっただけですが。
んで、来週もGWの為、休みになります。
その後は、これまで通りの投稿の予定です。