帰郷:ミィレ=クレナ(1)
場合によっては、後で章タイトル変更するかも。
帰郷編とか。
いやまあ、だからなんだという話かもだけど。
年末のパーティーを渡界管理施設で行った翌日。
ミィレは実家へと帰省した。ルテシア市から、朝に馬車に乗って、町には夕方に到着した。
故郷を出てから、戻って来たのは十年ぶりくらいだろうか? そう考えると、これまで生きてきた人生のほぼ半分をルテシア市で生きてきたことになる。
「流石に、少し変わったなあ」
苦笑交じりに、ミィレは呟きを漏らした。
街の風景そのものは、それ程変わっていない。けれど、古くなっていた建物が建て替えられていたり、無くなっていたりした。よく通っていたお菓子屋が無くなっていたのは、見掛けて残念に思った。通っていた当時、既に経営者が老齢だったため、それも仕方のないことだと思った。
あと、身長が伸びたことでも大分印象が違っているように思う。遊んでいた公園は、こんなにも狭かっただろうかとか。あの木はこんなにも小さかっただろうかと。
実家に近付いていくにつれて、子供の頃の思い出が蘇る。その一つ一つを味わいながら、ミィレは歩みを進める。
大通りから少し離れた、住宅街の中心。町ではこれでも、顔役として続いてきた家のため、周囲の建物よりは少し大きい。流石に、アサ家のお屋敷に比べたら遙かに小さいが。
門をくぐって、敷地の中へと入る。
「このドアノッカー、こんなにも低い位置だっただろうか?」。そんな事を思いながら、ミィレは戸を叩いた。
すぐに家の中から足音が近付いてくる。
ミィレは、息を吸った。
ドアが開く。
「た、ただいま帰りました」
出迎えた両親が、笑みをこぼした。
「お帰りなさい。クレナ」
「お前、何を緊張した声出しているんだ?」
「五月蝿いです」
からかってくる父に、彼女は唇を尖らせた。仕方ないじゃないか。本当に久しぶりなのだから。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
実家に着き、自室に荷物を置いて早々にミィレは両親と共に弟の部屋へと訪れた。
「ただいま。ルホウ。こうして顔を合わせるのは、久しぶりね」
「うん、お帰りなさい。姉さん。待っていたよ」
ベッドの上で、ルホウは上半身を起こした。手紙でも様子は聞いていたけれど、その顔色が、思ったよりも悪くないことにミィレは安堵する。
「具合はどう?」
「お陰様で、大丈夫だよ。先生の言いつけはきちんと守って安静にして、薬も飲んでいるから」
「そうみたいね。ルホウが良い子にしていて、私も嬉しいわ」
「姉さん。良い子って。俺を幾つだと思っているのさ? もう、そんな歳じゃないよ?」
「ごめんなさい。送って貰った写真とかも見ているんだけど、実感が湧かなくて」
軽くむくれる弟に、ミィレは口元に手を当てて笑いを堪える。
「でもそうね。確かに、背も伸びたみたいね」
「そうだよ」
「勉強はどう? サボったりしていない?」
「してないってば。手紙にも書いているだろ? 出された課題はきちんと出しているよ。久しぶりに帰ってきたっていうのに、母さんみたいな事言わないでよ?」
「それもそうね。ごめんなさい。でも、何を話せば良いか思い浮かばなくて」
「まあ、それはあれだ。クレナも母さんの子だということだな」
納得したように、父が頷いた。
「こっちには、結構長くいられるんだっけ? 二週間くらい?」
「うん。久しぶりに帰るんだからって、お嬢様達にそう言われたわ。なので、お言葉に甘えてそうさせて貰ったわ」
更に言えば、ここで遠慮すると、かえって彼らの心証が悪くなりそうに思えたのだった。
「そうなんだ。でも、俺の方こそ姉さんも変わったんだなって思う」
「そうかしら?」
「そうだよ。すっかり大人っぽくなって、綺麗になったと思う」
「へぇ? ルホウもそんな事言えるようになったんだ? 口が上手になったわね」
しかし、言われて悪い気はしないけど。と、ミィレは笑う。
「本心だよ。俺も写真で姉さんの様子は見ていたけどさ。こうして直に会うと、姉さんが奉公に出たときとはやっぱり違うなって。そう思う」
「そうねえ。流石は私の娘。私の若い頃にそっくりだわ」
「そうだな。母さんに似ているかはともかく、綺麗になったと思うぞ」
「あらあなた? それはどういう意味かしら?」
「クレナは俺似だ。それは譲らない」
「またそれですか」
両親の掛け合いを聞きながら、この二人は変わらないなあとミィレは思う。
「何にしても、姉さんも元気そうでよかったよ。アサ家の人達にもよくして貰っているみたいだし」
「勿論よ。みんな、いい人ばかりです」
ミィレは頷く。
「その調子だと。外交関係のお仕事も上手くいってるみたいだね」
「そうね。パソコンには最初苦労したし、今も苦労しているけれど。面白いのよ。手紙にも書いているけど、外交官の人達もみんないい人達ばかりだし」
「みたいだね。それで、一つ気になることがあるんだけれど?」
「うん? 何かしら?」
ルホウを見定めるようにミィレに鋭い視線を向けた。
一呼吸置いて。
「シラミネっていう人とはどうなの?」
「え? 何が?」
まさしく寝耳に水。と、ミィレは困惑する。
その直後、両隣に立つ両親からは、腕を掴まれた。
「はっはっはっ! 逃がさないぞ?」
「クレナ? ゆっくり、お話聞かせて頂戴?」
ちょっとおおおおおぉぉぉぉぉっ!?
ミィレは絶句した。
全く想像もしていなかった、あさっての方向に話が転がっているのをミィレは理解する。
帰省早々、ミィレはこの帰省を後悔し始めていた。