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これまでの歩みと思い出

 外交官達による年末パーティー当日。

 渡界管理施設の異世界側の会議室。業後に彼らは集まった。参加者は外交に携わる面々と、広域破壊魔法兵器監査機構のメンバー数名である。

 酒と摘まみを置いた机を部屋の後方に並べられ、前半分には大きくスペースを作っている。そのスペース中央に、アサとミィレが立っていた。


「皆様。お集まり頂き、ありがとうございます。僭越ながら、始めの挨拶と進行はこのアサ=キィリンが勤めさせて頂きます」

 アサが頭を下げる。そして、部屋に拍手が湧いた。


「時間は前もって伝えたとおりよ。まず最初に、今年一年の出来事を振り返るの。私達がこうして出会って、色々とあったわ。その中で、何が一番思い出深かったか発表。次に、互いの世界のパーティーゲームをして。最後はお待ちかねのテレビゲーム大会よ」

 「テレビゲーム」という言葉に、異世界側の外交官達から歓声が沸いた。その熱気に、白峰は微苦笑を漏らした。よっぽど楽しみなのだなと。


「発表の順番は私がクジを引いて指名します。さて、最初の人は誰になるかしらね?」

 ミィレが抱えている箱から、ミィレはクジを取り出した。

「栄えある最初の発表者は? ゴルン=ドガナッハ。よろしくお願いね」


「おっと? 私からか。そうだね。私としては、ここに来て初めて異世界の外交官達と会った、あの親睦会が思い出深いね。生涯、忘れられそうにない」

「あら? 興味深い話ね。それは、どうして?」

 うむ。と、ゴルンは深く頷く。


「それは勿論、『美味しいアルミラ料理』が出てきたからだよ。まさに、奇跡を体験したと思った。このような事が、この世に有り得るのかと」

「ちょっと待ち給え? それはどういう意味かね? 事と次第によっては、それは我が国に対する侮辱と受け取るぞ?」

 ディクスがゴルンを睨む。


「すまない。大真面目に受け取らないで欲しい。ただ、あのときあなたが作ってくれた料理は、本当に美味しかったんだよ」

 笑いながら、ゴルンがディクスに謝罪する。ディクスも、自国の料理がどういう扱いになっているのか。冗談だということは理解している。呆れたように笑いながら、彼はディクスを許した。


「確かに、あの出来事は私にも思い出深いわね。色々と有ったもの」

「ありましたねえ。本当に」

 アサとミィレが虚空を見上げしみじみとぼやく。


「君達もっ!? 外交に携わる身分なら、もう少し他国に対する敬意ってものを持つべきではないかね?」

「失礼しました」

 アサはディクスに頭を下げる。


「では続いて。ええと、次のクジは? あら? 注目のディクスね。あなたは、どうだったかしら?」

「私かね? そうだな。それはやはり、あの親睦会だな」

「ほほう? それは何故?」

「そうだな。アルミラ料理を振る舞って、喜んで貰えたからだ」

 パーティー会場に爆笑の渦が巻き起こった。


「あと、そのときにイシュテンの女性の恐ろしさというものをこの身に刻み込まれたよ。成果に結びついて良かったが。ああ、うん。あれは、生涯忘れられそうにない」

 そう言って、ディクスは遠い目を浮かべた。

「あの? ディクスさん? 本当に一体、何があったんですか?」

 気になって、白峰は思わずディクスに訊いた。

「シラミネ? それは、外交機密だ。私の口から勝手に話していい内容ではない。その資格を持つのは、あのお嬢さん方だけだ」


「アサさん?」

 白峰はアサへと向き直った。

 しかし、彼女はにっこりと、貼り付いた笑顔を浮かべて。

「外交機密よ♪」

 とだけ、言ってきた。これは、答えを聞き出すのは無理だなと白峰は判断した。


 「さてさて、次は誰かしらね?」と、アサはクジが入った箱に手を突っ込んだ。

「はい。今度はシラミネの番よ? あなたは、何が一番思い出深かったかしら?」

「自分ですか? そうですね。自分はやっぱり、この世界と繋がって、初めて来たときのことが思い出深いです」

「まあ、そう言われるとそうかも知れないわね。やっぱり、それがすべての始まりだもの。でも、それでも聞かしてくれないかしら? どうして?」

 白峰は頷く。


「そうですね。それこそ、すべての始まりがこうしてお互いの世界が繋がったことだからです。それに、自分はあれが研修を終えて初仕事だったんです。いきなりこんな大仕事に携わるとか、身が震えましたよ。一体こっちはどんな世界なのだろうかって、興味は尽きませんし。魔法とかありましたし」


「それを言ったら、私もよ。あ、進行役の権限で私の番は今やらせてもらうわね? ゲートを抜けたら、金属で出来た乗り物や、見たことも無いような巨大な建物が建ち並んだ世界なのよ? どんな仕組みなのか全然分からないような道具だらけで。どういう世界なのか? 果たして友好的に付き合っていける世界なのか? 好奇心が刺激されて止まない一日だったわ」


「こうして、若い者が立派な姿を見せてくれると、安心しますねえ」

「止めた方がいいわよライハ? そういう年寄り染みたこと言っていると、早く老けるわよ?」

「私はまだ、そんな歳ではありません」

 茶化すルウリィに、ライハが渋面を作った。


「はい。それじゃあ次に行くわよ? 次は? サガミね。サガミ? お願い」

「ええ? 今度はうちか? うちかあ。うちはそうやなあ。あんまり面白いこと言えんけど、やっぱりこうして異世界に来たことやな。ちょっと、思い立って翻訳機を外務相に売り込んだだけのつもりやったんに、気付けばあれよあれよと人生が変わったように思うわ。うち、ほんまにただの一般人やったんになあ」


「それもそうでしょうけど、プログラミング魔法はどうなんですか? あれも、佐上さんの名前を表沙汰にはしませんけど、世界を揺るがした大事件だったと思いますよ?」

 月野のツッコミ。

 全くだと。広域破壊魔法兵器監査機構のメンバーが頷く。


「あ、ああ~? うん。言われてみれば確かにその通りやな。いやでも、規模が大きすぎてなあ。もう、感覚が麻痺していてピンとこないわ」

 頬を掻いて、佐上が乾いた笑いを浮かべる。

 そういうものかもなあと、白峰も思う。正直言って、彼自身にももはや何がどれだけの影響があったのか、理解し切れていない。


「あとは、ルウリィはんの実年齢とかもなかなかに衝撃的やったな」

「それは、公表出来る話なんですか?」

「いいや? 外交機密っちゅうやつやな」

 訊く白峰に、佐上は唇の前に人差し指を立てる。


「分かりました。なら、自分の身では知るべきではない情報として、深くは聞かないことにします」

「うん。それが賢明やと思うで?」

 そんな事を話していると、ルウリィがにやぁと笑みを白峰に向けてきた。

「ちなみに、シラミネには私がどう見えているのかしら?」

 その問い掛けに、白峰は思わず呻く。そして、即座に頭をフル回転させて、回答を導き出す。


「お若く見えると思いますよ」

 にこやかな笑顔を浮かべて、彼はそう答えた。

 その答えに、くすくすとルウリィは笑う。色々と見透かされ、しかも見逃されたように白峰は感じた。

 次からはもっと、自然かつ洒落っ気に富んだ答えを返せるように、用意した方がいいかも知れない。後で、月野に相談してみようと彼は思った。

次回も同じような年末パーティネタになりそうです。

一括で書くと長いので、分割です。

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