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一緒にいたい人

ついに、連載が200回到達しました。

 居間の暖炉の前で、ソファに座りながらアサとミィレはお茶を飲んでいた。

 期待通り年末のパーティでは、ゲーム大会も開かれる。という運びになったので、彼女らはスマホ版のふよふよで対戦し、特訓していたのである。その特訓の小休止。


 あまりやり過ぎると、ティケアやシヨイの目が恐いので、そこはほどほどに抑えてはいる。ニホンの子供達も、こんな思いをしながらゲームをしているのだろうかと、彼女らは思う。同時に、自分達を子供扱いはするなとも思うが。

 ただ、仮に「子供扱いをするな」「もっとゲームをさせろ」と言ったところで、この重鎮に勝てる気はしない。それこそ、子供の頃から世話になっているので、頭が上がらないのだ。


「もうそろそろね。年末のパーティも」

「そうですね」

「ミィレは、それが終わったら、次の日には故郷に向かうのよね」

「ええ。そうなります」


「今年は例年よりも冷え込むのが早いから、雪が降らないといいんだけれどね。ミィレが帰省するのに邪魔になったら困るもの」

「多分、大丈夫ですよ。雪が降るのは毎年、年が明けてからですし。この時期は雪が降ったとしても、積もったりはしないですから」

「それも、分かっているんだけどねえ」

 軽くぼやいて、アサはお茶を啜る。


「でも、私としては、ほんの少し雪が降って欲しいとも思いますけどね」

「え? どうして?」

「雪が降ると、光で飾られた山車とか、年末年始のお祭りが一層綺麗に見えるじゃないですか。だからです」

 そう言って微笑むミィレに、アサは肩を落とした。


「何だ。そういう事ね。実は、実家に帰省するのが嫌になったんじゃないかって、驚いたじゃないの」

「ええ? そんな風に思われたんですか?」

 アサは頷いた。


「だってあなた、これまでずっと帰らなかったのよ? それでいいのかって、私達がミィレのことを心配していたの知っているでしょ? 今年は帰省するって聞いて、安心していたのよ? そりゃあ、毎年、屋敷に残ってくれるのは嬉しかったけど」

「本当に、ご心配をかけてしまって、申し訳ございません」

 ミィレは苦笑を浮かべた。


「まあ、どんな心境の変化かは分からないけれど。たまには家族に顔を見せてあげなさい。あなた達がよく手紙のやり取りをしているのは知っているけれど、実際に顔を合わせたら、手紙では書ききれなかったこととか。写真だけでは分からないこととか、色々と出てくるものと思うわよ」

「ええ、そうですね」

 ミィレも頷き、同意する。


「でも実際、どんな心境の変化なの?」

 アサの問い掛けに、ミィレは曖昧に笑みを浮かべた。

「それが、私にもよく分からないんですよ。でも、お嬢様達の気持ちが少しだけ分かったから、かも知れません」

「私達の気持ち?」


「先日、シラミネさんと年末年始のお祭りについて話をしていて。家族と一緒に過ごすとか、ニホンでもそういう習わしがあるっていう話を聞いて。でも、シラミネさんはオボンとか、ショーガツというそういう時期に仕事で帰らなかったんですよね。それを聞いて、何だか寂しいって思ったんですよ。そのとき私が感じた気持ちと。お嬢様達が感じた気持ちって同じに思えた。そういう事なのかも知れません」

「ああ、なるほどね。我が身にならないと分からないものよねえ。そういうのって」

 納得したと、アサは頷く。


「あとは、異世界とこの街が繋がって。このゲームのように、色々なものがあちらから渡ってきたりもして、どんどんと世界が変わっていくように思えるんです。そんなとき、私という人間は、何を根源として生きているのか? それを確認したいっていう思いもあるような気がします。確認しないと、流されていきそうに思えて」

「そうね。それも、大事だと思うわ」

「この街、このお屋敷が私の故郷という感覚も、あるんですけどね」

 虚空を見上げ、ミィレは呟いた。


「ミィレ」

「はい?」

「それで、いいんじゃない? 故郷なんて、自分にとって大切な人がいるところ。そこで大切な時間を過ごしたところ。そういうところでしょ? だから、いくつあっても、いいんじゃない?」


 アサの言葉に、ミィレはしばし、きょとんと目を丸くしたが。

「それも、そうですね」

 やがて、肩の荷が下りたように彼女はしみじみと頷いた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 暁の剣魚亭にて。

『――何かいい考え、ありませんか?』

「そんな事言われても」

 必死の形相で頼み込んでくるイルを前に、白峰と月野は半眼を浮かべた。


「そりゃまあ。気持ちは分かりますよ? お祭りに気になる女性と逢い引きをしたいっていう気持ちは」

「ただ、それをどうやって誘おうかという相談を持ちかけられても?」

『そこを何とか』

 頭を下げるイルに、白峰も月野も唸る。海棠をデートに誘いたいというイルに相談を持ちかけられたのだが、答えは思い浮かばない。


「あくまでも、清い交際の範囲でですが。普通に誘えばいいんじゃないですか? 海棠さん。確か、祭を見て回りたいとか言っていましたし。案内したいとか誘えば、快く承諾してくれると思いますよ?」

「そうですね。またと無い機会だと思います。客観的に見て、断られる可能性の方が低いように思えますよ? 何がそんなにも不安なんですか? これまでも、色々と街を見て回って、海棠さんを案内してきたんでしょう?」


『それはそうだよ? でも、年末年始のお祭りを二人っきりで見て回ろうとか、こんなのは流石に、家族でなければ恋人しか許されない行為なんだよ? そんなのに誘おうとか、海棠さんに引かれないか恐いんだよ』

「そうなんですか?」

 こくこくと、イルは頷く。


「光で彩られたお祭りの会場。ロマンチックな光景。その中で行き交う男女。というか、若い恋人同士だといちゃついているんだよこん畜生! そんな中で、ここがどういう場なのか気付く海棠さん。ヤバいよ。絶対そういうつもりで誘ったんだって思われて引かれるよ」

「つもりもなにも。そういうつもりなんでしょう? ゆくゆくは恋人になりたいんですから」

『そうですけど。踏み出す一歩の間合いが、詰め寄りすぎだって言っているんです』


「大丈夫ですよ。海棠さんなら。『あ、ふーん。ここの人達にとってお祭りってそういうものなんだ』って取材して得た情報ぐらいにしか思わないでしょうから」

『それはそれで傷付くっ!?』

「じゃあ、どうなればいいんですか?」

『分かんない』


「酔ってます?」

『酔わずに言えるかあっ!』

 勘弁してくれと、白峰と月野は天を仰いだ。


『というか、さっきから聞いていれば。何だか投げやりじゃありませんか? 他人事だと思ってませんか?』

 実際、他人事なんだよなあ。というのが、白峰と月野の本音である。口に出しては言わないが。

『冷たいよ。恩知らず。プログラミング魔法が問題になっていたとき、街のみんながどう思っているのか、相談に乗ったのに』

 それを言われると弱い。また、何だかんだでこうして男同士で飲める貴重な友人でもあるので、白峰も月野も、本気でイルを無下にするつもりはない。


「でもねえ」

 実際、ここで良い考えをほいほい伝授出来たら苦労は無いのである。腕を組んで、白峰と月野は嘆息した。


 結局。

 「祭の中を女の一人歩きは物騒だそうだから、取材するなら信頼出来る男性と一緒に行くように」と海棠に促すとか。「状況的に、海棠の方から誘ってくる可能性はまだまだ残されている」とか。そんな感じのことを言って。白峰と月野はイルを宥めたのであった。

連載200回目に言うのもなんですが、来週(ひょっとしたら再来週も?)はプライベートの事情のため、休みになる可能性大です。申し訳ありません。

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