年末のパーティー
白峰達も休みを取ることが決まった数日後。
「――そういう訳で、年末の前に一度集まってパーティーをしたいと、そんな申し出がありました。ちなみに、発案者はアサさんのようです。特に、クリスマスパーティーのようなものに興味を持ったらしくて」
「好奇心旺盛な、あの人らしいと言えばあの人らしいですね」
白峰の話を聞いて、月野、佐上、海棠達は外務省用の部屋で頷く。
「クリスマスパーティーというと、プレゼント交換とか、他にもそういう催しをやろうという話でしょうか?」
「そうなります。ついでに、忘年会じゃないですが親睦も深めたいという考えのようです。忘年会の風習も、あちらには無かったようですけどね」
「それはそれで、意外やな」
「あちらでは、年末年始の風習の基本にあるのが、祖先の霊ですからね。職場の人間との縁よりも、祖先や家族の縁の方が優先ということなのでしょう」
「なるほど」
納得したと、佐上は頷く。
「これで、クリスマスや忘年会の風習も異世界に根付いたりとか、しちゃうんですかね?」
「さあ? そればっかりは、時が経ってみないと分からないと思います。でも、可能性はあるんじゃないですか?」
そうなったらそうなったで面白いと、海棠は笑みを浮かべる。
「クリスマスパーティーでやるようなゲームって、まだ売っていますかね? どうせなら、そういうものを持っていった方がいいように思えますが」
「月野さんがそう言うっていうことは、この提案には参加するということで、いいのでしょうか?」
「反対する理由がありませんからね。上には報告しますが、やはり反対はされないでしょう。親睦を深め合って損はありません。それに、佐上さんや海棠さん達も乗り気に見えましたから」
「そういうおどれはどうやねん? やりたくないんか?」
「勿論、私もやりたいです」
少し照れくさそうに、月野も笑みを浮かべる。
「それじゃあ。自分達も参加の方向で考えていると、アサさん達に返事しておきますね。クリスマスパーティー用のゲームについては、ネット通販を利用すれば購入可能だと思います。念のため、後で確認しますけど」
「本当に今の時代、便利になりましたねえ」
しみじみと呟く月野に、「お爺ちゃんか」と佐上がツッコミを入れていた。
「まあ、買えなかったら買えなかったで、テレビゲームをやろうという考えみたいですよ? あの人達。下手したら、その口実じゃないでしょうか?」
そう言って、白峰は苦笑する。
「うわぁ。もう、完全にどっぷりやな」
「初めてテレビゲームをやって、自分達と一緒にやったときの楽しさが忘れられないようです。あんな感じで、また一緒に遊びたいのだと」
「まあ、その気持ちは分かる」
うんうんと、佐上は頷いた。
「でも、節度は守っているようですけど。ほぼ毎晩、業後にゲームされているようなんですよねえ。あの人達。悪い影響が大きそうなので、私は書く気は無いですけど。これを記事にしたら、市井の人達に物凄く顰蹙を買っちゃうんじゃないですか? あの人達?」
「そうですね。何しろ、今になっても、テレビゲーム体験スペースに人が押し寄せていますからねえ」
なお、この流れは全く収まる兆しが無かったりする。
「いや、本当に記事にしないで下さいね?」
「分かってますよ。誰にも言いふらしたりはしません。これはこれで、権力者の専横であって世に暴くべきものだ。癒着だっていう思いもあるんですけど。言って、誰が幸せになるかっていうと、誰も幸せにならないような気がしますからね」
そう言って、海棠は苦笑を浮かべた。
「ちなみに、テレビゲームをやりたいということは、会場はこの施設になるんですか?」
「そうみたいですよ。元々の話が、自分と海棠さんとミィレさんが街を見て回ったときに話した話なので。あまり、堅苦しくない会を経験したいそうです。食べ物やお菓子も、街で適当に買ったものを持ち寄ってという方針だそうです」
「あ、用意するプレゼントって高いの用意しないとダメだったりします?」
海棠の質問に、白峰は首を横に振った。
「それも確認しますし、場合によっては伝えますが。そうはならない可能性高いと思いますよ? 堅苦しくない会にしたいというのがベースにあるので。数千円程度で。ちょっと高めのお茶とか、コップや皿とか。そんなのでいいんじゃないでしょうか?」
「よかったあ。こういうの、よく分からなくて悩むんですよねえ。私」
海棠は胸を撫で下ろす。
「持ち込みの都合上、用意するのは異世界のものになりますけどね」
白峰は念押しする。
「とはいえ、ちょっと不安もありますけどね」
「何がや?」
「いえ、白状すると、恥ずかしながら自分って、こういうクリスマス会とかの経験って無いんですよね。なので、ミィレさんにもほとんどイメージで言っちゃったんですけど。勿論、そこはあらかじめ言っていますよ? ただ、本当にこれでいいのかなと」
「そうなんですか? 君は確か、キリスト教圏の国で研修していたのでは?」
「知り合った人達が、特に敬虔な人達ばかりで。みんな、その日はご家族と過ごされていたんですよ」
「実は白峰さんが、嫌われていたとかじゃなく?」
「流石にそれは無いと思います」
海棠のツッコミに、白峰は唇を尖らせる。
「まあ、白峰さんが嫌われるというのは私にも想像付きませんけどね。でも、私も詳しくは知らないので、あまり力にはなれないと思います。すみません」
「海棠はんもか? 意外やな? 子供の頃とか、そういうの無かったんか?」
「世代なのか、地域的なものなのか分かりませんけど、学生時代にそういうのをしていたっていう知り合いいないんですよねえ。友達がいなかったわけじゃないんですけど、そこまで集まってどうこうするような人達じゃなかったですし」
「じゃあ、月野さんは?」
「私にそんなものがあると思いますか?」
「何で、そこでそんな自虐的に、かつ微妙に自信たっぷりに返事してくるんですか?」
皮肉気に嗤う月野に、白峰は半眼を浮かべる。佐上もまた、呆れたような顔を浮かべていた。
「となると、やっぱりこういうときに頼りになりそうなのは、佐上さんだと思うんですが」
どうでしょうか? そんな期待を視線に乗せて、白峰は佐上を見た。
数秒、佐上は頬を掻いた。
「――残念やけど、うちもよく知らんで?」
「そんなあっ!?」
「全く経験無い訳やないけど、それこそほんまにちっちゃい頃に友達の家に遊びに行ったときのおままごとみたいなもんやで? おかん同士が夜遅くまで一緒にくっちゃべっている脇で、うちらも子供同士で遊んでいたっていうだけの。あとは、会社の忘年会ぐらいか? それも、あんまり派手な真似せんしなあ。うちの会社」
がっくりと、白峰は肩を落とした。
「まあ、そこまで気を張らなくていいと思います。白峰君が色々と調べながら、どんなクリスマス会にしたいのか話し合えばいいんじゃないでしょうか? 細かいところは、ミィレさんと詰めていく感じですか?」
「ええまあ。そうですね。なので、出来るだけスムーズに話を進められるようにしたかったんですが」
「そこはそれ。最初から上手くやれるはずも無いでしょう。問題が出てきそうだったら、そのときに相談して決めればいいと思います」
「それもそうですね」
変に、格好付けようとしなくてもいいのかも知れない。月野に言われて、白峰は少しだけ気が楽になった気がした。




