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年越しのお祝いと贈り物

 白峰、海棠、ミィレは三人でルテシア市街のあちこちを見て回っていた。月野と佐上は仕事の役割の都合上、渡界管理施設に残っている。

 三人は馬車を使いながら、朝から港、商店街、大通り、教会とあちこちを見て回った。

 そして、最後に教会脇の公園にある広場へと訪れた。

 白峰と海棠は感嘆の声を上げる。


「これは、壮観ですね」

「そうですね。こんなに沢山」

 三人の目の前には、数多くの山車が並んでいる。色とりどりの山車が並ぶ様は、如何にも楽しいお祭りを予感させるものだった。


 山車は毎年作る訳ではなく、普段は各町の倉庫で保管されている。それが、こうして年末になるとこうして広場に集められるという訳だ。

 ただ、装飾については毎年飾り直しが行われ、今こうしてその作業が行われているという訳である。飾りは、色紙を貼り付けたり、光魔法を施した灯りを取り付けたりといった具合だ。毎年、飾り付けをやり直すのは、山車に生命を吹き込み、役目を終えれば休みを与えるという宗教的な意味があるというのが、ミィレの説明だった。


「思っていたんですけど。何だかクリスマスみたいですよね。白峰さんは、お盆と正月みたいだって言っていましたけど」

「ああ、確かにそうですね。特に商店街とか、電飾に彩られたクリスマスモードみたいでしたし」

「クリスマス? デンショク? 何ですか? それは?」

 隣から訊いてくるミィレに、白峰は向き直った。


「自分達の世界にある行事の一つです。主にキリスト教と呼ばれる宗教が信じられている地域で行われています。電飾は、電気の力で光る灯りで飾ることです」

「分かりました。でも、ニホンはキリスト教の国だとは聞いていないので、こういう真似はしないということなんですね?」

 ミィレの質問に、白峰と海棠は苦笑を浮かべた。


「それが、日本でもクリスマスは祝います」

「何故ですか?」

 凄く意外そうに、ミィレは目を丸くする。


「日本人って、割とお祭り好きで、あと新しい物好きな一面もあるんです。明治時代。ええと、だいたい今から150年くらい昔ですね。日本はヨーロッパの国々やアメリカなどとも広く付き合うようになりました。それで、クリスマスの風習も、日本に広く伝わるようになりました。元々、日本でももっと前から来ていた、それらの国々の人達がしてはいたんですけど。ともあれ、そうして目にする機会が増えたクリスマスを見て。面白そう。楽しそうだと当時の人達は考えた訳です。そんな具合に、クリスマスは受け入れられ、定着しました」

 そんな説明に、ミィレは半眼を浮かべた。


「いいんですか? そんな事で? 何だか、理由が不真面目な気がします」

「それについては、返す言葉も無いです。でも、ときには不要なものは捨て、場合によっては日本に合うように形を変えて、知識を取り込んで。そうして日本は日本であることを維持しつつ、また同時に変わってきたんです。それに、クリスマスが日本に定着したのも、それだけクリスマスという行事に魅力があったからだと思いますよ。でなければ、日本に根付くということもなかったでしょうから」


「そういう意味では、このイシュテンや他の国々の文化も、日本に広まる可能性も高いと思いますよ?」

「そう言われると、ニホンにも色々とこのイシュテンのことが伝わって欲しい気もしますね」

 ミィレは微笑みを浮かべた。


「では、そのクリスマスというのは、どのような習わしなのでしょうか? 教えて欲しいです。それも、先祖の霊を送り迎えするようなものなのでしょうか?」

「いいえ。そうではなく、キリスト教を最初に広めたイエス・キリストという人が生まれてきたことを祝う日です。自分達の世界の暦では12月25日がそれに当たります。ただ、実際にイエス・キリストがいつ生まれたのかは分からないので、12月25日が誕生日という訳ではないです。あと、今からだいたい1800年ぐらいの昔から行われるようになったらしいのですが、それが何を理由として始まったのかはよく分かっていないらしいです」


「なるほど、聖人を祝うお祭りなんですね」

「はい。それで、木や家をあんな具合に、灯りで飾るので。クリスマスとこちらのお祭りって似ているなあって思った訳です」

「じゃあ、そ12月25日はどんなことをするんですか?」


「家族や恋人で集まって過ごす人が多いです。あと、贈り物を交換したり。子供には、特にサンタクロースっていう聖人が贈り物を持ってきてくれるという話があるので。子供には特に楽しみな日の一つでもあります。自分も子供の頃、夜に寝て、朝起きると欲しかった玩具が枕元にあるというのは、子供心にわくわくする話でしたね」

「へえ。クリスマスにも、そういう話があるんですね」

「というと? こっちの世界にもあるんですか?」

 白峰が訊くと、ミィレは頷いた。


「はい。帰ってきた先祖の霊が、子供達に贈り物を持ってきてくれるという話があります」

「ますます以て、似ていますね。世界が変わっても、発想って似てくるっていうことでしょうか?」

 実に興味深いと、海棠が顎に手を当てる。


「だから、一年間良い子にしていないと、ご先祖様は怒って贈り物を持ってきてくれないよって。お父さんやお母さん達は子供に言い聞かせたりしますね」

「ますます以て、クリスマスですね。どこの世界も、親の考える事って同じなんですねえ」

 各自の子供の頃のことを思い出しながら、三人は笑った。


「ああ、でも今年の年越し祭では、あちこちのご家庭、贈り物で苦労しているみたいですよ?」

「どういうことですか?」

「ゲームが出来る機械が欲しいって言いだした子が、多いらしいです」

「うわぁ」

 それを聞いて、海棠は呻く。


「佐上さん。本当に罪作りな事しますね。意義も大きかったですけど」

「せめて、子供達の夢が叶う日が、一日も早く訪れるように、努力することしか出来ませんね」

 そう言って、白峰は虚空を見上げ、呻いた。

 その後は三人で、クリスマスや年越し祭の贈り物について、色々と思い出話を語り合って盛り上がった。

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