外務省と休暇の予定
今回、ちょっと短めで申し訳ないです。区切りの都合で、どうしても。
渡界管理施設の外務省用の一室にて。
白峰は異世界の人間達が、年末年始には休暇を取りたいと言っていることを月野に報告した。
「なるほど。年末年始の休みですか。あちらの世界にも、そういう風習があったんですね」
「ええ。家族で集まって過ごすのが一般的らしいです。盆と正月を一緒にしたような感じですね」
「そう聞くと、なんや賑やかに聞こえるな。お祭りとかありそうやな」
「そうですね。お祭りみたいな真似もするようです。馬で引く山車とかの行列もあったり。教会では屋台も出るようです」
「ほほう? それはちょっと、面白そうやな」
「私も興味があります」
ふぅむ。と、しばし、月野は虚空を見上げた。
「つまりは皆さんも休みが、欲しいのでしょうか?」
「出来れば、お願いしたいです。長いこと実家に帰っていないので、たまには家族に顔も見せたいなと思ったので。このタイミングなら、ひょっとしたら何とかならないかなと」
「そうですねえ。確かに、夏もろくに長期休暇なんて無くて、秋はそのまま忙しい日々が続いていましたからね。ダメ元で、上に打診してみましょうか」
「お願いします」
白峰は月野に頭を下げた。
「せやなあ。うちらに対するほとぼりも大分冷めたみたいやしなあ。ここらで一度、帰るのもいいかも知れんなあ。もう、誰も覚えとらんやろ。うちらの顔」
「ですねえ。人の噂も七十五日っていいますからね。それよりも、プログラミング魔法の対応の方がずっとニュースになり続けていましたし」
「せやな。あれに完全に上書きされたな。うちら」
そう言って、佐上は安堵の息を吐いた。海棠も相づちを打って頷く。
「ちなみに白峰君、異世界の方達の休暇期間って、どの程度になるのか聞いていますか?」
「いえ。まだです。それはこれから話しあって決めるそうです。ただ、外交官の方達は完全にここを空けるつもりは無くて、最低でも誰か一人はいるようにするだろうという話です。ミィレさんは、実家に帰るみたいですね。ただ、範囲としては大晦日と元旦の前後一週間程度を休暇期間として考えているみたいです。その間で、各自少しずつずらして、一週間程度のお休みになるのではないかっていう話でした」
「なるほど。それくらいなんですか。期間としては結構長いですね。まあ、民間でも夏休みは七月後半から九月前半にかけて、ずらして取るって聞きますから、そんなものかも知れませんね」
月野としても、違和感は無いようだった。
「ただ、仮に休暇を得ることが出来たとしても、佐上さんや海棠さんはともかく、我々はそこまで長い休みは貰えないかも知れません。夏の時もそうでしたが、やはりここを空けることは出来ませんからね」
「そうですね。そこは、そう言われたとしても仕方ないと思います」
白峰は頷いた。
「もし、休日が貰えたら、佐上さんや海棠さん達も帰省するんですか?」
「うちか? うちは、そうやなあ。ちょっとくらいは帰省しようかと思う」
「海棠さんは?」
「私は、残ろうと思います。帰省って言っても、私の実家って都内ですから。普通に、土日とかでも顔を見せに行ったりしているんですよ。なので、今さらっていう感じです。それより、異世界の年末年始の様子の方が気になります。お祭りとか、見に行ってみたいです」
「なるほど、海棠さんらしいですね。ひょっとして、それも記事にされるつもりですか?」
「はい。勿論です。こういうネタって興味を惹きやすいので」
そう言って、海棠は頷いた。
「そう言うおどれはどうするつもりなんや?」
「私ですか? 私は特に、何をする予定も無いので、こういうときは寝正月でのんびりさせて貰いたいと思います」
月野がそう答えると、佐上が目を細めた。
「まあ、おどれがそう言うのなら、それでもええと思うけど。ほんまに、それでええんか?」
佐上の問い掛けに、月野はしばし躊躇うように視線を落とす。
「ええ。それで、いいんですよ」
しかし、月野は静かに笑った。それは、白峰には何か、諦めのように見えた。




