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プログラミング魔法を取り巻く状況の認識合わせ

大分この章も話が長くなってきたので、今回は状況のおさらい回です。

 大学の実験場や学者達に対する見学会。そして、テレビゲーム体験。そして、プログラミング魔法の扱いに対する説明会も何度か行うようになって。

 それから、三週間ほどが過ぎた。


 広域破壊魔法兵器拡散防止機構の人間が、ルテシア市に到着した。

 そして、彼らはルテシア市の市役所の会議室に集まっていた。参加者は白峰を始めとした各国の外交官。そして、訪れた広域破壊魔法兵器拡散防止機構の人間達だ。

 集まった目的は、お互いの認識合わせである。


 広域破壊魔法兵器拡散防止機構から派遣されてきたのは五名。自己紹介で説明された出身国を聞くに、そこは統一されていない。事前に、アサ達から説明されたとおりだ。皇帝の影響が強いとはいえ、国際機関である以上はその構成メンバーも多国に跨がっているのだと。


「――と、いう訳でして。偶然に発見されたプログラミング魔法ですが、これは今後の魔法の解明や利用においてとても重要な役割を果たせるという期待が持てる一方で、扱い方を謝れば非常に危険な技術とも成り得るというものです。また、今後、互いの世界が対等かつ友好的にお付き合いが出来る様にする為にも、我々外交官や各国の政治家も、まずは出来るだけ最善の未来というものを目指す努力をすべきだという考えで賛同が得られています」


「はい、最善の未来というものについては、私達もこちらに来る前に話は聞いています。またその為に、協力出来るところは協力していきたいと考えています。これは、皇帝陛下のご意思でもありますから」

 広域破壊魔法兵器拡散防止機構の一人。年齢は五十代半ばくらいだろうか? その男性から出た皇帝陛下という言葉に、アサ達の気配が少し変わったように白峰には思えた。元々、この場には他の仕事の時と同様に真面目な態度で出席していたのだが、それがより気持ち強くなったように思える。

 やはり、皇帝陛下という名前は相当に彼らにとって影響力が大きいようだ。


「プログラミング魔法について、現在明らかにされている話というものは、ほとんどありません。こちらも、既にご存じかも知れませんが、過日の事故未遂からはそういった実験については完全に凍結しているためです」

「事故未遂が起きた仮説については、ここに来るまで私達は聞いていなかったが、それはこの資料として配られた紙の通りであるということで、いいんですね?」

 説明している月野は頷いた。


「はい、その通りです。また、その紙にも書いてあるとおり、持ち帰りや口外は厳禁でお願いします。解散する前に、その資料は回収し、細かく切り刻んで廃棄します」

 そのために、今日は小型のシュレッダーも持ち込んでいる。


「話を戻します。仮説というものは既にいくつか立てられています。プログラムでは、インスタンスやスレッドと呼ばれる、処理を実行させるために、組んだ概念を具体化、あるいは実体化、この言葉が適切なのかは難しいところですが、そのようにする方法があります。そして、魔法では物理的に起きる事象というものが、言わばこのインスタンスやスレッドに相当するのではないか? そういう仮説が考えられています。さらに、プログラムでは繰り返し処理を仕込むことが可能なのですが。それにより、意図していないところで、魔法を短時間で繰り返し実行させるようになっていたために、事故未遂が起きたのではないか? これが、今時点で事故の原因として考えられている理由となります」


「馬鹿げたことを訊いていても笑わないで聞いて欲しいのですが。あなた達の言うIT技術、プログラミングというものでは、魔法のように光を発したり熱を生んだりという真似は無理なのですか? 例えば、タブレットというものについては、我々も説明を聞いているが、あれもIT技術によって制御され、絵などを映し出していると説明されている。つまりは、その絵は光を発することで描かれていると考えたのですが」

 月野は首を横に振った。


「それは、一見するととてもよく似ているように見えるかも知れません。しかし、全く別の話です。まず、私達の世界のIT技術というものは光を発したり熱を生み出したりという、そういう真似は出来ません。あくまでも、計算することしか出来ません。計算の結果を専用の機械に渡して、その機械に光を灯すように命令することは可能ですが。ただの石や木の板に対して、そんな真似は出来ません。それこそ、魔法はその現象を起こす力がどこから出ているのか一切が不明です。言わば、命令を与えられる干渉先の範囲も、力の取得元も全く異なる。そこが、魔法とIT技術との大きな違いです」

「なるほど、丁寧な説明ありがとう」

 月野は会釈を返す。


「事故未遂以降は、ルテシア市の人達の間でも、プログラミング魔法の研究について意見が分かれていましたし。研究の永久的な完全凍結も求められたりもしましたが。それを実行した場合の問題点や、対応方法について考えているところを繰り返し説明し、大分冷静に見て貰えるようになったというのが、私達の認識です。見学会やテレビゲーム体験などを通して行った結果というのものも大きいと考えています」

 これは、実際に大分空気が変わったという実感を白峰も感じている。買い物に行ったときに受ける周囲からの圧が、大分和らいだ。


「ここまでが、主に私達がやってきたことについての話になります。そして、皆さんには近日中に、実験場へと行って頂き、実際にプログラミング魔法についても。こう? 広域破壊兵器に使用されるような魔法では、何か特徴的な部分がありそれを遠方からでも確認する方法があると聞いているのですが。それがプログラミング魔法に対しても可能なのかと、確認して頂けると考えています。この考えで、私達の考えは一致しているでしょうか?」


「はい、考えは一致しています。私達は、その為にこちらに来ました。あと、そちらの世界から来てもらっている、国際原子力機関(IAEA)や化学兵器禁止機関(OPCW)の人達とも意見交換をさせてもらえると聞いていますが。こちらも、考えは一致していますか?」

「はい、一致しています。どのようにプログラミング魔法を管理し、付き合っていくかという方法については、彼らの方が詳しいと思うので、是非意見交換をお願いしたいと思います」

「分かりました」

「それでは、今後のスケジュールについてですが――」


 いよいよ、プログラミング魔法が本当に制御可能な方法があるのかどうかはっきりする日が近付いてきた。

 その結果がどうなるのかはまだ分からない。

 だが、紆余曲折は有ったものの、落ち着いた環境で彼らをここに迎えることが出来て良かったと、白峰はささやかに安堵を覚えた。

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