堕ちていく女達
サブタイトルからエロを期待してはいけません。
というか、これ書いている奴にエロを期待してはいけません。
絶望的に向いていない(と個人的に思っている)ので。
佐上は腕を組み、悩ましい声を上げた。というか、実際に悩ましい問題だ。
渡界管理施設の片隅で、彼女はアサとミィレに詰め寄られている。
「スマホでゲーム。ゲームなあ」
「ダメなの? スマホもあのゲーム機っていう機械も似たようなものに思えたから、出来ると思ったのだけれど」
「ああうん。それについてはな? 可能は可能なんや。つうか、うちも自分用のスマホでゲームはしとるし。家に帰ってからやけどな?」
その回答に、アサとミィレは目を輝かせた。
「いや? せやけどな? 今、外にいる人達が体験しているようなゲームそのまんまは出来んで? だいたいは、同じ会社が出している似たようなゲームは遊べるみたいやけど」
「それでもいいわ」
「お、おう」
アサの熱気に、佐上は気圧される。
「うーん。いや、しかしなあ」
「何? 何か問題でもあるの? お金の話かしら?」
「いや、そういう話やなくて」
「それとも、場所の問題?」
「そういうのとも、違うんやけど」
呻く佐上に、アサは唇を尖らせる。
どう説明したものかなと、佐上はしばし虚空を見上げた。
「強いて挙げれば、節度の問題。かなあ?」
「節度?」
うん。と、佐上は頷いた。
「いやほら? 初めてゲームをやった日とか、うちら物凄く盛り上がったやん?」
「ええ。楽しかったわ」
「今も、たびたび、仕事が早く終わったら片付けたゲーム機で遊んだりするやろ?」
「そうね」
「んで、ついつい夜遅くまで残ったりするやん?」
「まあ、そうだけど?」
佐上は半眼を浮かべた。
「最近、月野の視線がめっちゃ突き刺さるんや。『お前、何てもの持ち込んでくれたんだ』って。いや、うちの被害妄想かもしれんけどな? でも、うちが提案しておいてなんやけど。流石に、みんな熱狂し過ぎというか。見ていてちょっと恐くなるで?」
「仕方ないじゃない! 面白いんだもの!」
そうだそうだと、ミィレも激しく首を縦に振る。
「だから、邪魔にならないように、スマホでゲームを出来る様にした方がいいんじゃないかって、私達は考えたんです」
「うん。その気持ち物凄くよく分かる。というか、実際、うちらも通ってきた道や。もう何十年も前の、ゲームが出始めてきたばかりの時代の話やけど。遠い街からわざわざゲームのある店にやってきて、ギャンブルでもやっているんかとばかりに硬貨を積み上げてゲームしていた人もいるっちゅう話やし? しかもそれ、みんながやっているものよりもずっと単純で、今となっては見向きもされないようなゲームでやで?」
「硬貨を積み上げて? って、どういうこと?」
「ああそうか、そこの説明が足りんかったか。昔は、個人が所有出来るゲーム機なんて無くてな? テレビを上に向けた机みたいな機械で遊んでいたんや。しかも、一種類のゲームしか出来んしかなり高い。とても、個人で買える代物やない。だから、そういうゲーム機を客寄せにお店に置いていた喫茶店とかあったんや。そして、実際にそれ目当てでやって来たお客さんがいて。ゲーム機は一回100円で遊べる仕組みになっていたから。何度もプレイするために、遊びに来たお客さんは何十枚も100円硬貨をゲーム機に積み上げて、何度も遊んでいたっちゅうこと」
「つまり相当に、当時のニホンの人達ものめり込んでいたっていう事ね?」
「そういうことやな。そんな、何十年も前の時代のゲームでそうなるんやから、今の時代のゲームとなると、そりゃあ初めて見た人、熱狂するわなと」
まさか、ここまでの反響になるとはと。佐上は少し後悔している。
それこそ、噂を聞きつけてルテシア市から遠く離れた街から来ている人もいるらしい。
「それでや。遊ぶのはいいんやけど。仕事に支障が出てこないか心配になるくらいに遊ぶとか。そういうことにならないか、心配やなあって」
「大丈夫よ。流石に、そこはちゃんと節度を守って遊ぶようにするわ」
「ねえ?」「はい」と、アサとミィレは互いに頷き合う。
そんな二人を見ながら、佐上は子供にゲーム機を買い与えることになった親の不安って、こんなものなのだろうか? などと思った。あと、子供の頃に誕生日プレゼントにゲーム機をお願いしたとき、親が悩ましい表情を浮かべていた理由がよく分かった気がする。
「ああうん。分かった。大の大人に、そこまで干渉するのも変な話やし。そもそも、うちがあれこれ言うような筋合いでもないから、そこは好きにせえと思うけど」
更に言えば、佐上自身もゲーム目的のために異世界でスマホを使えるように、外務省に頼み込んだ身の上な訳で。ちょっと、後ろめたくて強くは言えない。
「ただ、それならそれで、ゲームするのなら、きちんと仕事用のものとは別のスマホを買った方がええで? 特に、パソコンでも同じようなゲームは出来るけど、間違ってもミィレはんが使っているパソコンでゲームとかしたらあかんで?」
「どうして?」
「仕事と遊びの区別が付いていないって疑われて、仕事に対する信用無くすからや。実際、仕事中に誘惑に負けて仕事とは関係の無いサイトに行ったりして、お客や会社に怒られたり、処分される人間もたまにおる。せやから、そういう誘惑の元になるようなものは、ちゃんと区切っておきっていう話」
「なるほど。それもその通りね。参考にさせて貰うわ」
納得したと、アサは頷く。
「ちなみに、サガミさんはどんなゲームをしているんですか? 何か、この前に教えて貰って以外のゲームでお薦めってありますか?」
「えっ!?」
そう来るかあと、佐上は再び呻いた。
「え~と、それは。やな?」
「何? 難しいゲームなのかしら」
「いや、別に? そういう訳でも無いんやけど」
こういうとき、ぱっと嘘が思いつけるほど、頭の出来がよろしくないことが恨めしい。
十秒ほど悩んで、佐上は覚悟を決めた。
「うちは、こういうのをやっているんやわ」
佐上は、恐る恐る私物のスマホを取り出した。皇剣乱ブレードの画面を起動する。
月野と白峰が外に出ていて良かったと思う。こんな場面、彼らに見付かったらまた何を言われることやらと。
「へえ? なかなか格好いい男が出てくるゲームなのね?」
「こういうゲームもあるんですね。どんなゲームなんですか?」
「あ、ああ。うん」
月野と白峰ではないが。改めて、自分は彼女らをとんでもない道に引きずり込もうとしているんじゃないだろうかと。佐上は少し背筋に冷たいものが流れる気がした。
お陰様で「ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー世界で愛を知る?-」が第10回ネット小説大賞の1次選考を通過致しました。
ここまで続けられたのも、ひとえに皆様のおかげです。
「この異世界に」も「ソルの恋」も、引き続きも完結を目指して頑張りますので。今後とも、よろしくお願い致します。




