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来て見て触ってIT技術

 外交官達がゲーム機とソフトを共同で購入、プレイして一週間が過ぎた。

 結局、実験場への見学会とゲーム体験の提案はそのまま採用され、実行されることとなった。他にやれるような真似も無かったので、それならばこれでやってみようという具合である。


 見学会についても、日程的にはかなり無茶を言っていると思ったが、意外なほどスムーズに研究者達には受け入れられた。彼らも、暇ではないし、これまで得られた知見の確認などやれることはあるにはあるが。それらの作業は時間に追われるようなものではない。ともすれば、何日も続くようなら気が緩みそうになる状況であった。

 そういう仕事に比べれば、より意義がある依頼が舞い込んできた形になる。積極的に、説明の手順やシフトの調整が行われた。


 主に新聞による周知で、見学会の参加者を募ったが、予約はあっという間に埋まってしまった。移動距離や平日、プログラミング魔法というものへの忌避感から考えると、参加者が集まらないことも危惧していたが、それは杞憂だった。やはり、生活を脅かしかねない存在は、きちんと直接確認したいというニーズは多かったようだ。


 一方で、ゲーム体験の方であるが。

 まず、購入したゲーム機やソフトは、残念ながら経費としては認められていない。

 白峰や月野としても、異世界の外交官達の食い付きっぷりを精一杯にアピールして、成功の可能性を訴えたのだが。やはりどうにも、どう処理したらいいものか判断に迷うとの話だった。

 取りあえず、首尾良く成果を出したのなら、これらも経費として認める理由にはなるから、しばらく待てという話になった。失敗したら、すべて自腹である。


 ただ、そんな状況下で始まった、市民向けのゲーム体験会であるが。こちらも好評なようだ。取りあえず、この様子なら自腹ということは無さそうなので、白峰と月野は胸を撫で下ろしている。

 電源の都合上、日本側からケーブルを通して、異世界側の渡界管理施設の外にある複数台のゲーム機、モニターに繋いでいる。机や椅子も含め、イベント用のテントの下に設置されている。


 ゲームが出来る環境は、それぞれ10セット用意した。5種類のゲームに対して、2箇所でゲームが出来るようになっている。なお、参加者は1プレイで次の人間に交代するというルールになっている。見張っているのが警察官なのだから、不正をする人間もいないようだ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 外務省用の仕事部屋で、白峰と月野は半眼を浮かべていた。時刻は昼。昼飯は秋葉原で摂ってきた。ちなみに、白峰はカレーを。月野はラーメンである。

 佐上と海棠はともに、説明と取材のために実験場へと出向いている。


「今日も盛況みたいですね。ゲーム体験会」

「そのようですね」

 出勤時には既に行列が出来ていた。初日の午前中はまだそれ程でも無かったのだが、その日の午後からは一気に人が集まるようになっていた。

 ゲート越しでも、会場の熱気が伝わってくるような錯覚を覚える。


「これで、よかったんですかね?」

「いいか悪いかでいえば、よかったのではないでしょうか? 大分、市民の意識も変わってきたようですし」

「それはまあ、確かにその通りなのですが」


 先日に引き続き、クムハやイル経由の情報収集であるが。市民が持つIT技術に対する警戒心は、大分和らぎつつあるようだ。こちらと活発な交流をすることで、このような遊びが出来る未来が現実となる可能性が大きくなるとなれば、その誘惑には堪えがたいものがあるらしい。

 しかも、プログラミング魔法の研究を進めることで、魔法でもこのような真似が出来る可能性もあるとなれば。地球の技術と対抗するためにも、必要という意識も芽生えてきたそうな。


 こういう遊びに踊らされるんじゃない。娯楽で目の前にある危険から目を逸らしてはいけない。そういういう声も、勿論上がっている。やっておいてなんだが、白峰ももっともな意見だと思っている。

 しかし、ゲームに魅了された人達の心をひっくり返すには、弱いようだ。実験場見学会に参加した人達の評判というものも、徐々に広まっている訳であるわけで。


「何というか、あまりにもこう? 期待が高まり過ぎている様な気がするんですけど? あの人達、下手したら、数年後にはああいうもので遊べることを期待していたりしませんかね?」

 月野はしばし、虚空を見上げた。

「出来るだけその期待に応えられるように、私達は全力で仕事をこなすしかありませんね」

「まあ、その通りなんですけど」


 問題は、だからそれで期待に応えられるとは限らないという話なのだが。思うように話が進まなくて、速く仕事を進めろと責められたりしないか、それを考えると少し胃が痛くなりそうだ。

 そこは、誠実に進捗を公開していくしかないと思うけれど。


「でも、あれなんですよねえ。今回の一件、本当にこれでいいのかっていう不安が消えないんですよねえ。何というかこう? とんでもない麻薬を広めてしまったような罪悪感を覚えるといいますか」

「言いたいことは分かります。私も同じ気持ちですから」

 月野は大きく溜息を吐いた。


「ですが、何だかんだで我々もゲームとは上手く付き合っている訳ですから。彼らも、上手く付き合って貰えるようになることを期待するほか無いでしょう。外交は、まず相手を信じるところから始まります。彼らを信じましょう」

「そうですね」

 騒ぎの現況がいない部屋の中で、男二人の乾いた笑いが響いた。

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