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渡界管理施設ゲーム大会

 異世界の外交官達との話し合いでは、まず市民の意識調査からIT技術というものそのものに対して警戒感が強くあるということ。

 研究者達や、研究、実験を続けていく体制について目で見て確認出来るものが無く。それ故に安易に信用していいものか躊躇われるものがあるということ。

 そういったことを白峰達は話し合った。


 アサを始めとして、異世界側の人間達が集めてきた情報も、概ねそのような具合だった。この点で双方の認識は一致していたということになる。

 そして、研究者達のインタビューや希望者に対する見学会について検討していくという話になった。

 これで本当に進めていいかは、市民の反応を見たいところがあるので、まずはマスコミを通して観測気球を上げようというところに落ち着いたが。


「それで、IT技術に対する警戒心をどうやって解くかという問題なのですが」

「何か、いい方法でもあるのかしら?」

 訊いてくるアサに、白峰と月野は頷いた。


「いい方法かどうかは、自分達からは何とも言えないんですが。佐上さんから一つの案がありました」

 佐上という名前を強調して言っておく。あくまでも、これを言い出したのは彼女なのだと。

「へえ? どんなものかしら?」


「テレビゲームと呼ばれる、IT技術を使った遊戯が自分達の世界にはあるんですが。それを通して、IT技術というものがどんなことに使える技術なのか伝えようというものです。これも、直に触れて親しみを持って貰おうという。そういう考えから出てきた案になります」

「正直、それなら皆さんが仕事に使っているようなパソコンを用意して、それを触って貰うというのでもいいんじゃないかと思いますけどね」

 ぼやくように、月野が補足する。

 アサが半眼を向けてくる。


「何だか、あなた達からは、この案にはあまり積極的な思いが無いように思えるんだけど? 何か問題でもあるのかしら?」

「問題というか。こういう遊びを持ち込もうというのは、不真面目に受け取られないかと不安に思っているところがあります」

「まあ、これは私達の頭が堅いからそう思ってしまっているだけというところもあるのかも知れませんが」


「皆さんは、どうお考えですか?」

 白峰は会議室に集まる、各国の外交官に答えを促した。

「面白そうね」

 真っ先に答えてきたのが、アサだった。目が輝いている。

 ああ、そうだった。この人、こういう好奇心旺盛な人物だったなあと白峰は今更ながらに思い出す。佐上がそれを覚えていたのかどうかはともかく、こういう流れになるのはある程度予想できたことかも知れない。


「何にせよ。可能というのなら、市民が持つIT技術というものに対する警戒心は解いておきたいわ。その可能性があるというのなら、是非確認しておきたいところね。その遊戯をするための準備というのは、お金や時間が掛かるものなのかしら?」

「一般家庭にも広く普及している遊戯ですから。パソコンほどではないにしろ、それなりに高いお金が必要です。購入するのは難しくなく、用意にも時間は掛からないかと思われます」


「つまり、用意しようと思えば、今日中にでも用意出来るということ?」

「ええ、まあ」

 白峰は頷いた。


「先に言っておきますが。恐らく我々の予算から用意するというのは難しいと思います。ダメ元で申請はしてみますが。何をどう言い訳しても遊び道具ですからね? 特に、日本中のご家庭でゲームをやりすぎる子供と、それを咎める親という問題が昔から続いているものですから。そういうものの購入が、予算で許されるかというと――」

「それは、つまりそれだけ面白いっていうこと?」


「ええ、まあ。そうとも言えますね」

 興味津々と言わんばかりに、アサを始めとして各国の外交官達が身を乗り出してくる。これはもう、止められそうにないかなあと白峰は諦めた。


「もし、試しにやってみたいというのなら。佐上さん達にも出させますが。まずは、ここにいるみんなで共同購入という形になるかと思います」

 その場合の予算は、一人あたりこれくらいですよと提示してみたが。

 やはり、その程度の金額では彼らは止まるつもりは無いようだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 その晩。

 白峰達は、日本側の会議室に集まった。

 日中に購入した、モニターとゲーム機を用意していく。


 購入したゲームはいずれも、佐上弥子の厳しい目を潜り抜けた彼女のお薦めセレクトである。

 基本的なコンセプトとしては、説明不要なくらいに操作が簡単な事、1プレイが短い事、大人数で一度に遊べる事、受け入れられやすい見た目をしている事、なおかつ面白い事が挙げられる。これは、なるべく多くの人達に経験して貰うという事を目的としているためだ。

 結果、日本人なら、まずほとんどの人間が名前を知っているというゲームばかりとなった。


「それでは、準備出来ましたよ。明日も仕事があるので、ほどほどの時間で切り上げることを心がけて下さいね?」

 と、念を押しつつも。白峰には、一抹の不安がどうしても拭えなかった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 まず、最初に紹介したのは、落ち物ゲームの代表。ふよふよ。これは、数種類の色がある玉のうち、玉が二つくっついたものが画面上部からふよふよと落ちてくるのだが。その玉は同じ色が4つ並ぶと消える。その設定を利用して、次々と玉を消していき、また連鎖的に消すと相手画面に邪魔な玉を送り込んで攻撃出来るというゲームである。


 なお、プレイの様子であるが。

 何度か、佐上と月野が対戦したのだが。

 日頃の鬱憤晴らしと言わんばかりに、佐上は月野をフルボッコに叩きのめしていた。月野はこういうゲームはほとんど触れたことが無いらしく、その腕前の差は歴然だった。


 高笑いを続ける佐上に対し、月野は。彼にしては珍しく、むすっとした表情を隠し切れていなかった。

 それ以外は、概ね平和に進んだ。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 次に、格闘ゲームの代表。スラッシュブラザーズ。これは、1プレイで4人同時に遊べる。画面には各自が選択したキャラクターが配置され、各キャラクター固有の攻撃方法を使って互いを攻撃するというものである。コミカルなキャラクター達は、攻撃を当てられると徐々に弾き飛ばされやすくなり、やがて画面外に弾き出されると負けとなる。そして、最後まで残っていたキャラクターが勝利者となる。1プレイに時間制限もあるため、いつまでも決着が着かないということも無い。


 なお、プレイの様子であるが。

 コントローラー操作というものが馴染まないのか、リアルファイトとは事なり、ゴルンがなかなか勝てなかった。また、それ故に他のプレイヤー達から集中攻撃を受けることが多かった。


 「あんまりだ~」と彼は何度も抗議の声を上げた。

 そして、意外なほどにミィレは順応が速かった。白峰とミィレが幾度となく熱戦を繰り広げては勝負を盛り上げていたりする。双方、相当にムキになっていたのは確かである。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 そして、レーシングゲームの代表。マリ王カート。これは1プレイで同時に8人が遊べる。大元はマリ王という王様が、魔王に攫われたモモ王女を助けに行く、スーパーマリ王というゲームが元になっているのだが。そのゲームに出てくるキャラクター達を使ったレーシングゲームである。単純に速ければ1番でゴール出来るというものでもなく、コースで得られる様々なアイテムを使って逆転も狙えたり、最後まで勝負諦めさせず熱くさせる要素が盛り込まれている。


 なお、プレイの様子であるが。

 ゲームバランスの妙なのか、成績にそれほどの差が出なかった。

 終始和やかな雰囲気でゲームは行われた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 続いて、対戦アクションゲームの代表。スプラッシュトゥーン。こちらも、1プレイで同時に8人までが遊べる。ルールは2つに分かれた陣営が、キャラクターを操作してプレイエリアに色を塗っていき、一定時間が経過したところでどちらの陣営がより広くエリアに色を塗ることが出来たかを競うゲームである。これも、お互いの陣営がどう動くか? どう仲間達と協力し合って色を塗っていくかという、その場での判断や駆け引きが奥深いゲームとなっている。


 なお、プレイの様子であるが。

 最初のうちは、ゲーム経験の差から佐上の独壇場のようなところがあったのだが、異世界側にライハが参戦してから徐々に流れが変わってきた。

 彼が参謀役として指示を出すようになってから、各国のプレイヤーの連携が取れてくる。彼と相対した陣営で、勝ち星の数が追い着かれるようになってきた。


 が、ここでまた流れが少し変わる。操作は苦手だということで、外野から眺めていた月野が指示を出すようになった。佐上は「うっさいわっ!」と言いつつも、その指示が的確であることは何度かプレイすることで理解する。

 結果、ライハと月野の参謀合戦という具合になって、互いのチームが互角の戦いをするといった具合になった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 最後に、3Dシューティングゲーム代表。Ace In The Sky。これは、地球上の各国が保有する戦闘機をモデルとした機体を操作し、敵機を撃墜していくというゲームである。搭載しているミサイル数が現実のものよりも遙かに多かったり、近代戦ではそうそう起こらないであろうドッグファイトをメインにしていたり、多分に架空要素が強いが、これもまたあくまでもゲームであり、戦闘機パイロット気分は十分に味わって楽しめるということで、人気がある。


 Ace In The Skyは、他のゲームとは違い、対戦するのでなければ基本的に一人でプレイするゲームである。また、見た目もコミカルなものではなくリアル志向が強い。では、何故このようなゲームが採用されたかというと、アサ達からの要望によるものである。「何か、空を飛ぶ乗り物のゲームは無いのか」と。理由としては、技術的なインパクトを与えたいとか言っていたが。


 技術的な話で言えば、こういうリアルな3Dシューティングゲームでなくとも与えられたとも思う。何しろ、他のゲームもあちらの世界では経験出来ないようなものだからだ。だから、どちらかというと、遊びだけでは済まない問題というものも潜んでいる。そういうことを暗に伝えようとしているのだと。そんな風に、白峰達は解釈した。

 購入してきた佐上に、それだけの意図が読み取れていたかどうかは、別の問題だが。


 なお、プレイの様子であるが。

 美麗なグラフィックもそうだが、何よりも「空を飛んで見た景色」というものが、異世界の人間には衝撃的だったようだ。登場する戦闘機の兵器としての力もあるだろうが。

 あと、戦闘機のようなものが男の子回路を刺激するのに、世界はあまり関係ないらしい。ライハ、ディクス、ゴルンが特に興奮して目を輝かせていたりする。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ゲーム体験を初めて数時間後。

 白峰と月野は半眼を浮かべていた。


「まあ、こうなる予感はしていたんですよねえ」

「私達も、かつて通ってきた道ですからねえ」

 彼らの目の前には、延々とゲームに熱中する人間達の姿があった。


「あの~? そろそろ。本当に、いい加減にみんな帰りませんか? 明日、仕事があるんですよ?」

「大丈夫。そこは気を付けるから」

「あともう少し。あともう少しだけっ!」

 この人達、もはや完全に、ゲームを手放せなくなってしまった子供だなと。白峰は嘆息した。


「あ、月野さん?」

 唸り声を上げて、月野はゲーム機のコンセントへと向かった。

 そして、容赦なく引っこ抜く。

 直後、会議室が怒号で包まれたのは言うまでも無い。

NGシーン

白峰「佐上さん? そのゲームは?」

佐上「ドカ〇ン」

白峰「絶対に止めて下さいっ! 世界を滅ぼす気ですかっ!?」

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