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高まる不安

 朝、海棠が家から出ると、道にイル=オゥリが立っていた。

 自分を待っていた? そんな様子に、海棠は小首を傾げた。友達を無視するのもあんまりなので、彼の前に向かう。


「おはようございます。イルさん、どうかしましたか?」

 訊くと、イルは頷いた。

『カイドウ おはよう。施設 周り 騒ぎ。だから 安全 呼び 来ました』

「え?」

 渡界管理施設で何かが起きている。だから、自分の安全を確保するためにこうして呼びに来たのだと。つまりはそういう事らしい。


「何があったんですか?」

『魔法 実験 反対する 人達 多く 集まっている です』

「え~?」

 海棠は呻いた。確かにプログラミング魔法の実験再開にむけた可能性については記事にしたが、まさかここまで反響があるものだとは。


「どれくらい集まっているんですか?」

『50人 から 60 人 くらい』

「そんなに?」


『もっと 増える かも 知れない です』

「そうなんですか」

 確かに、あまりよく知らないここの人達にしてみれば、不安を覚えても仕方のない話だろう。日本で例えるのなら、原発や放射性廃棄物の処分場といった、そんなものの建設予定地にされたようなものかも知れない。反発を覚える人達が出てくるのはよく分かる。


『心配 しない 欲しい。私 あなた 守る する』

 少し照れくさそうに笑みを浮かべるイルに、「お願いします」と海棠は笑みを返して頭を下げた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 渡界管理施設では、緊急で会議が開かれることになった。

 然るべき届け出はされていないらしく、施設を取り囲んでいる集団をデモと呼んでいいのか分からないが。ともあれ騒ぎは増すばかりのようだ。


 今のところ、暴力的な真似はしてこないようではあるが、それ故に警察官達も手荒な真似は出来ない。あれだけの人数を力で鎮圧しようとなると、双方に少なくない犠牲が避けられない。

 警察は、デモをしたいのならまずは然るべき申請をしてからと訴えているが、それでも彼らに引く気配は無いようだった。


「ごめんなさい。私達の領民が迷惑をかけて」

 沈痛な表情を浮かべ、アサは頭を下げた。

「アサが謝るようなことではないわ。こういう反発が起きるのは避けられない話だって、分かっていたことでしょう?」

 静かな口調で、ルウリィが宥める。

 アサは呻いた。何事か反論はしたいが、上手く言葉に出来ないようだった。


「それより、この騒ぎをどうするか? それが問題だ」

「流石に手出しをしてくる気配は無さそうだけれど、実際にこうして囲まれると圧迫感は凄いわね」

「一旦、帰って貰うだけでもありがたいんだけどね」


「彼らの要求について、何か確認は取れていないの?」

「プログラミング魔法の永久凍結。だそうよ?」

「出来る訳ないだろうっ! そんな真似、互いの世界の交流を完全に遮断でもしない限り不可能だ。まさか、そんな真似をしろと言っているのか彼らは?」


「いや、そこまで理解や想像が追い着いていないと思います。何分、彼らは情報を持っていないですから。プログラムやコンピューターというものが、どれくらい我々の世界でありふれていて、そちらの世界に情報が入り込み、最悪の場合は制御不可能な形で広まる可能性があるか判断のしようが無い」

「そう改めて言われると、完全に交流を遮断するしか方法が無いわね。そういう真似に賛成するつもりは無いけれど」

 交流が遮断されるということは、お互いが何を考えているのかも理解し合えなくなるということでもある。今のような細い接点は続くかも知れないが、その裏、見えないところで巨大かつ侵略的な企てが動いていたという事態になっては、お互いに笑えない。


「結局、どのみちこの形の魔法を安全に取り扱えるようにするしか私達に未来は無かった。そういうことかも知れないわね。今更だけど」

 それはつまり、もっとも理想的かつ困難な道しか残されていないということでもある。

 しかめっ面が並ぶ中で、白峰は手を挙げた。


「あの? それなら取りあえず、彼らに考えを整理して貰うというのはどうでしょうか?」

「というと?」

 アサの促しに、白峰は頷く。

「自分の勝手な想像ですが、恐らく彼らの中にあるのはまず、不安だと思います。プログラミング魔法という、大きな災害を生み出しかねない未知で制御不能な、自分達の生命財産を脅かしかねない存在が出てきた。その不安をどうにかしたいというのが、根底にあるのではないでしょうか?」


「まあ、そうでしょうね」

「はい。そして、その結果導き出された答えの一つが、プログラミング魔法の永久凍結という方法ということです。つまりは、問題は彼らの要求を飲むか飲まないかではなく、如何にして彼らの恐怖を取り除き、理解を求めるか? そういう話だと思うんです」

「確かに」

 白峰の主張に、アサも同意した。他の面々も、異論は無いようだった。


「ただ、それもどこまで彼ら自身が自覚しているのかというと、そこは整理出来ていないように思えます。不安が抑えきれないからこそ、どのような可能性をどのように恐れているのかという質問をしにきたのではなく、こうして囲んできたということかと」

「だから、そこの考えを整理させようっていう訳ね?」


「はい。そうやって一度、考えを整理して貰う為にも帰って貰い、我々が彼らの不安を解消するために何をどう説明して欲しいのかを提出して貰います。そうして、後日回答する場を設けるという約束を伝えるいうのは、どうでしょうか?」

 これも、異論は無いようだった。

先週はお休みして申し訳ないです。しかも今週はちょっと文字数少なめかも。

しばらくちょっと忙しめなので、更新が不安定になるかも知れません。なるべく、週一ペースを守れるように頑張りますが。

一山越えたら安定すると思います。

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