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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【異世界言語習得開始編】
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【外伝的小話】サラガ マイ フレンド

ゲートが発生し、秋葉原と異世界が繋がった日。桜野とサラガが意気投合するまでのお話。

このエピソードも、伏線として使うかも知れない。

 本当に、何となくではあるが。

「悪い奴じゃ、なさそうだな」

 そう、桜野は呟いた。

「何故、そう思うのですか?」

「いやまあ。ただの勘だよ。言葉はお互いに全然通じないが、少なくとも意思を交わそうという思いは伝わってくる。少なくとも、そういった誠実さはあるよなって」


 あとは、目つきとか顔つきだ。性根の歪みというか、そういうものを感じない。なので、桜野は傍らに立つ部下にそう答えた。

 刑事であれば、もっとその勘もより確かなものだったりするのだろうか。そんなことは思うが。

「でも結局、言葉は通じないんですよね?」

「まあなあ」

 う~ん、と。桜野は頭を掻いた。


 この、僅かに耳が尖り、髪の色もカラフルな。そういう異質な人間達が住む世界と繋がってから、既に数時間が経っている。陽も大分陰ってきた。

 何となく分かったことは、目の前にいる男の名前がサラガだということ。彼が、目の前に広がる世界で、自分と同じように警備をする部隊の隊長をしているということ。そして、こちらに攻め入る意志は無いということだ。


 だが、そこから先のことはよく分からない。また、何をどう話せばよいのかも、思い浮かばない。

 サラガの後ろから、彼の部下らしき男が駆け寄ってくる。その手には瓶とコップがあった。

 それを受け取り、よしよしと彼が頷く。

 コップになみなみと瓶の中身を注いだ。

 何をする気だ? と、桜野は怪訝な表情を浮かべた。


 そんな彼に、サラガはにぃっと笑みを浮かべ、手に持つグラスを指さした。

 そして、グビグビとそのコップの中身を飲み干していく。くはぁっ! と満足げな息を吐いた。

「酒ですかね?」

「何だか、そんな感じだな?」

 彼が見せる姿は、まさしく居酒屋で仕事帰りのおっさんが一杯ビールを引っ掛けたときの姿であった。

 そして、彼はもう一つのコップにもそれを注いだ。ゲート越しに、桜野に手渡してくる。

「飲めということか?」

 桜野がコップを受け取り、指をさすとサラガは頷いた。


「大丈夫ですかね?」

「分からん」

 取りあえず、桜野がコップを鼻に近づけると、やはり酒のようだった。それほど強くはないが、酒精の匂いが混じる。


「ワインか、果実酒の類いのようだな」

 正直、桜野も酒は嫌いではない。酔って明るい気分になるのを心地よいと感じるクチだ。

「鑑識に回しますか?」

「いや?」

 そういう訳にもいかんだろう。と、ニコニコと笑みを浮かべるサラガを見返しながら、桜野はそう思った。

 これは、彼なりの好意の証だ。ならば、それを無下にするような真似をするのも気が引ける。

 桜野は覚悟を決めた。


「むっ!?」

 桜野は目を見開いた。これは、また。何という味なのだ?

 フルーティではあるが、甘ったるくもない。軽やかな酸味が後を引く。また、よい水を使っているのだろう。味に爽やかな透明感がある。

 ぐびりぐびりと、一気にコップの中身を飲み干していく。

「美味いっ!」

「マジですかっ!?」

「おう。これ、本当に美味いぞ?」

 興奮して部下に伝える桜野に対し、サラガは自慢げに笑みを浮かべていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 有島はこめかみに人差し指を当て、大きく溜息を吐いた。

 日はもう既に落ちている。サーチライトが現場を照らしていた。

 どうやら、相手にこちらを攻め込む意志は無いらしい。そういう報告を聞いてはいたが、色々と覚悟をして現場に向かったつもりだった。

 だが、機動隊の隊長とやらは、向こうの人間と一緒に酒を飲んで大笑いしている。言葉は通じていないが、酔っ払いの脳味噌ではどのみち言葉に意味は無いわけで。一緒に笑っていればそれで楽しいようだ。

 何だか、自分の覚悟の所在が無くやるせなさを感じる。


「――ええ、はい。そういうわけで、私がこちらに着いたときは、既にそのような状態でした。お二人とも、大変に盛り上がっています」

『なるほどな、状況はまあ分かった』

 電話の向こうでは、桝野が自分と同じような表情を浮かべていることだろう。

 何でも、機動隊の面々も止めようとはしたとのことだ。勿論、仕事中だからだ。だが、向こうから次から次へと肴も出され、流石にそれで断るのもやりにくいと。そして、あとほんの少し、ほんの少しの結果がこれである。

 そう説明してくれた若い機動隊の一人が、何度も彼女に頭を下げていた。


「仲良くなるならなるで、悪いよりは遙かにいいことなのでしょうけど」

『そうだな。そいつぁ違いない』

 桝野から苦笑が漏れた。

『だが、いつまでもそういう訳にもいかねえだろう。適当なところで、多少強引にでも止めろ。最低でも、明日の朝には素面に戻って貰わにゃならん』


「分かりました。しかし、明日の朝に何か?」

『多分だが、彼にはテレビに出て貰うことになる。そのとき、ゲートの向こうの人間とのコミュニケーションがどうだったかを話して貰う。まさかそのとき、酒飲んでいたとは言えないだろ? それこそ、マスコミのいい餌食になる。結果としてはいい方向に転んだと、俺も考えちゃいるがな』

「そうですね」

 もっとも、当の本人達はそんなこと全く考えていないようであるが。


「ですが、よろしいのですか? いずれ、どこからか漏れるリスクもあると思いますが?」

『そうだな。その可能性は警戒しておくに越したことはない。対策は検討する。出来れば、事が起きるまでに、これが好材料だったと言えるだけの実績を用意しておきたいところだな』

「では、いっその事、彼には今後も雑談を許可しますか? 無論、節度は守って貰わなければいけませんが。これが継続的に行われ、そしてその結果が友好的な関係であった。という理屈になれば、進展や交流の効果についても説明が付きやすいでしょう」


『ふむ。案外と、悪くない手かもしれねぇな』

「それでも、悪し様に伝えるマスコミは出てくるとは思いますが」

『まあな。だが、結果という対抗手段が無いよりはマシだ。当面は、その手でやってみることにしよう』

「了解しました。それでは、失礼します」


 有島はスマホを切った。

 さて、今度はここまで上機嫌になっている酔っ払いは、どうやって酔いを醒まさせたものか?

 ちょっと、彼の心に傷が残るかも知れないが、いざとなったら、きつめの方法を採らざるを得ないかも知れない。

なんか、突発的に思い浮かんだから書いちゃったけど、今度こそ本編の続きになるはず。


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