過ぎた力
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本年もよろしくお願い致します。
地球上のプログラミング言語と異世界の魔法意思を混在させた形で、魔法を発動させることは可能だった。
それが明らかになったところで、次の段階の実験に進むことになった。
ルテシア市から遠く離れた、大学の実験場で引き続き実験を行う。
広大な実験場に設置した台座に、学者の一人が実験用の魔法を施した物体を置いた。
実験用の魔法を施したのは佐上だ。今のところ、精度を高く魔法意思を知覚し、プログラミング言語を望み通りに込めていく事が出来るのは彼女くらいしかいない。
当面の間、優先して実現したいものは電力源の確保だ。
なので、現存している魔法では一瞬にしか電気が発生出来ないものを長時間連続で発生出来るようにしたい。
案としては、プログラミング言語から光の魔法へと処理を繋げた理屈の応用が考えられている。具体的には、電気発生魔法をプログラミング言語のループ処理の中に入れてしまうというものだ。
もう少し具体的に、プログラムに近いイメージで書くと、以下のようになる。
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【長時間電気発生魔法】
<処理開始 ※プログラム言語>
ループ処理 (条件) {
電気発生魔法 // ここは魔法意思
}
<処理終了 ※プログラム言語>
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期待通り、仮説通りに動くのならば、電気発生魔法はループ処理に従ってずっと連続して実行される。即ち、電気が発生し続けるという理屈だ。
とはいえ、想定通りに動くとは限らない可能性もまた高い。何しろ、魔法というものそのものが、分からないことだらけなのだから。
万一の事故に備えて、そこは色々と考えられている。
まず、実験場の台座には、爆薬が仕掛けられている。マナの消費量が異常に高いなど、少しでも異常を感知すれば、魔法とは全く別の仕組みで即座に爆破出来るようにしている。流石に、物理的に破壊されればどんな魔法だろうと停止する。魔法も、粘土に施しているので、これで粉砕されないということはまずあり得ない。
次に、ループ処理の中に入れている魔法は、発光魔法にしている。これは何故かというと、発光魔法はマナの消費量が少ないと言われていることや、光ならば例えどれだけ強く放出されたとしても、周囲への危険性は少ないだろうということが、理由として挙げられる。
そして、ループ処理の条件も時限設定を施している。ループ処理は(条件)の内容が成立している限り、ループで囲った内部の処理を繰り返すというものだ。そして、この条件を常に成立するものにしてしまえば、永続的にループ処理は行われる。
だが、今回のような実験で、止められないような事になると非情に問題なので、時間を条件にしている。今回は、機動から5秒を経過したらループ処理を抜けて、処理が終わりになるようにしている。時間については、あまり短すぎても観察が出来ないし、長すぎてもリスクが恐いということで、この時間になった。
「あー、あかん。何か、めっちゃ緊張してきた。ほんまに上手く動いてくれるとええんやけどな」
白峰の隣で、佐上が手を合わせる。
「佐上さんが作られたので、大丈夫だと思いますけど?」
「その信頼が、むしろ恐いんや。うちは、小心者やし」
そう言って呻く佐上に、白峰は苦笑を浮かべる。
「私はワクワクしますけどね? こう、人類初めての実験とか、そういうのを見られるとか凄くラッキーだと思います。異世界に来られるようになってよかったなあって」
「海棠はんは恐れ知らずやなあ。何が起きるか分からんのやで? これで、いきなりうちらもろともどか~んとか大爆発する可能性かてあるかも知れんのやで?」
「あはは。まあ、そこはちょっぴり? 恐くないと言えば嘘になっちゃいますけど。やっぱり、好奇心の方が勝ると言いますか」
照れくさそうに、海棠は頬を掻く。
「そういう佐上さんも。こちらには残っているんですね。恐くは無いんですか?」
月野の質問に、佐上は軽く嘆息した。
「んー。本音を言うとめっちゃ逃げ出したいけどな? でも、そういう訳にもいかんやろ。うちが作ったもんやし。そこは、責任者として見届けないとあかんかなあと」
「技術者として、ですか?」
「そこまでご大層なもんでもないと思うけどな。けどやっぱ、仕事しているとそういうもんは感じるようになるわな」
「いえ、立派だと思いますよ」
「そ、そうか」
ふん。と、佐上は鼻を鳴らしながらも、月野の言葉にはまんざらでもなさそうに見えた。
「いよいよみたいですね」
魔法の起動役を担当する学者が、呼び掛けてくる。
それを聞いて、白峰達この場にいる全員はサングラスをかけた。万一の事態が起きても、目を保護出来るようにするためだ。
「起動開始。カウントダウンスタート」の声が響き渡る。
10、……5、4、3、2、1、0。
「実行」
その瞬間、実験場は白い光で塗り潰された。




