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【外伝的小話】夏の残り香

 SKおよびMKの進展。不明。

 SYおよびTWの進展。無し。

 後は、日付を記入。


 むぅ。と、眉をひそめつつ。海棠は手帳を閉じた。

 夜、寝る前に書いている日記のような趣味だ。あんまり他人様に知られると、面倒くさいことにしかならなさそうな趣味だが。

 とはいえ、こういうのは一朝一夕に結果が出るものでもない。じっくりと、それっぽい動きを暖かい目で見守っていくのが楽しいのだ。


 で、何をやっているのかというと?

 身近な人物の色恋調査だ。学生時代の頃は、恋愛探偵の二つ名を持っていたこともある。無論、守秘義務は固く守った上での活動だが。当時からジャーナリストを志望していた身としては、情報源の秘匿や裏取り調査。開示相手の信用確認や影響の推測についても、きちんと考えていたつもりだ。


 SK即ち白峰晃太と、MK即ちミィレ=クレナは今日は別行動だったので何かあったのか分からない。

 SY即ち佐上弥子と、TW即ち月野渡は、一緒にルテシアの大学に行ったのだが、何も変わっていないように見えた。スピーチが終わり、どっと緊張が抜けてへろへろになった佐上を気遣った月野や、それに軽口を叩く佐上を見るに、大分打ち解けてきたようには見えるのだが。


 椅子の背もたれに背中を預け、海棠はぐっと背を伸ばした。夏の間の彼らの変化を思い返す。

 まず、白峰とミィレだ。

 まあ、何というか怪しい。海棠の恋愛センサーは、かなり反応している。初対面のときから、馬が合うというかそんな雰囲気を見せていた。仕事上の付き合いで、一緒にいる時間も長かったのかも知れないが、それだけであんな雰囲気は生み出せないだろう。

 ただ、そこから先になかなか行かないようで、焦れったい。


 そりゃまあ? 世界の壁だとか、外交上の立場だとか色々とある訳で、越えてはならない線は越えないように、気を付けるのは当然かも知れないけれど。

 でも、何かあったんじゃなかろうか? という出来事はあった。白峰がミィレに婚姻制度について訪ねに行ったときのことだ。どういう訳か、白峰は顔を真っ赤にして帰ってきた。訊いても「何でもありません」と強い口調で否定するだけだったが。そんな態度は、「何かありました」と言っているようなものだ。


 更に言えば、それからしばらくの間。ミィレ共々、何を意識しているのか、お互いにぎくしゃくとした態度を見せていた。

 まるで「結婚」という事について話しあうことで、お互いをそういう目で意識し始めてしまいました。みたいな?


 しばらくすると、二人の関係も元通りになったようではあるが。

 夏の浜辺で、二人仲良く話している空気とか。あれはもう、間に割って入ることがはばかられる状態だった。無論、手帳にはそこも記録として残しているが。


 月野と佐上はというと、これまたなかなかにロマンチックな出来事が無い。

 相も変わらず、月野が小言を言っては佐上がぎゃいぎゃいと喚くという有様である。見ようによっては、これもじゃれ合いにしか見えないのだが。最初は、本気で仲が悪いのかと心配していたのだが。

 取りあえず、佐上には月野が彼女のことを悪く思っていないだろうことを伝えたことで、彼女も少し安心したようだ。結果が、月野に突っ掛かっていく頻度が増えただけというのは、考えものだが。こういうのも、ツンデレというのだろうか?


 とはいえ、佐上は佐上で根本的な部分で月野を信頼し、頼っているように思える。プログラミング魔法について月野と相談したという話だが、それってつまりは女一人で月野の家に乗り込んだという訳であり。

 今日のスピーチに繋がる、事情聴取についても、真っ先に月野を選んだ訳である。それも、酒に誘うという形で。


 こんなの、もうデートじゃないか? そう考えるのは、自分が何でもかんでもそういう方向に結びつけすぎなのか?

 佐上本人は「こういうのは、まず頭から攻めるのが効率的やと思った。そんだけや」。と、月野を選んだ理由についてそう説明していたが。


 でも、海棠は見ている。

 海に行ったとき、佐上は月野の寝顔をじっと見詰めながら、物思いに耽っていた。

 あの仄かに、しっとりと愁いを帯びた表情は、実に印象深い。

 海棠の頭の中では、あの光景は少女漫画のワンシーンよろしく記憶に焼き付いていた。


「もっとこう、何か刺激的なイベントとか、起きませんかねえ?」

 事件が無いなら起こせばいい。何て、三流マスコミみたいなことを考えたり実行する気は無いけれど。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 仕事が終わって帰宅。自室にて。

 ルウリィは額に人差し指を当て、目を瞑った。

 手には娘から届いた手紙がある。


 アイリャがイシュテンの王都、イシュトリニスに着任したというのは聞いている。それで、連絡が取りやすくなったことも嬉しく思っている。

 まずは、無事に着いたこと。元気にしていると知って。それは何よりだと思う。


 ただ、届けられた手紙の大部分が、シラミネに対する興味で埋め尽くされていた。趣味や好きな食べ物だとかそういうのを教えて欲しいだとか色々と。

 こういう娘の反応には心当たりがある。シラミネを恋の標的として定めたのだ。


「どうしたものかしらね?」

 こうなってしまった娘には、もはや言葉は届かない。これまで何度も手痛い失恋をして、まだ結果には結びついていないが。それこそ、シラミネを夫にするまで止まることは無いだろう。


 色々と壁は厚いが、それを乗り越えられるというのなら、シラミネが義理の息子になるというのは、ルウリィとしても悪い気はしないのだが。

 厄介な話になったものだと、ルウリィは頭を抱えた。特に、ミィレとの付き合いを考えると。

 夏のバカンスの写真なんて、送らなければよかった。

アサ「ねえミィレ? 今日は随分と護衛術の稽古に気合いが入っているように見えるんだけど? それも、攻撃的な技ばかり練習して」

ミィレ「何となくです(暗黒微笑)」


色々と、相変わらず厄介事は片付いてないですが、ここまで来たら来週も原稿は落とさず続けたいなあ。休載してしまったらごめんなさい。

Xデーが近付きつつあるもので。


12月に入ったら、これまで通り来年分のためのプロット整理とか、充電期間になるので休みか投稿頻度落ちます。

ただ、今年は書きためた別の連載をある程度のストック分、12月半ば当たりから出していきたいと考えているので、そっちを読んで、少しでもお楽しみ頂けたなら嬉しいと思ってます。

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