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機械と魔法が目指すもの

今回から新章です。

 渡界管理施設の日本側。その会議室にて、白峰達は集まっていた。

 白峰は、目の前の書類に目を通していく。これまでに何度もこの件についての話はしていたので、既に大凡の内容は頭に入っているのだが。

 書類には、魔法の研究や技術利用、研究開発について求めるところが纏められている。


 「マナに敬意を払うこと」。これは、異世界側からの強い要望だ。改宗しろとまでは言われていないが、異世界で信仰されているどの宗派でも共通して絶対に譲れないという話だった。むしろ、ここまで要求を和らげるだけでも、宗教関係者達にとっては相当な譲歩だったようだ。

 具体的な行動としては、研究者達にこの世界の住人にとって、マナというものがどのような存在なのか、理解して貰う事。これくらいである。


 「マナの大量消費を避けること」。これは、ある意味で宗教的な理由であり、また軍事的、経済的な理由でもある。それ故に、これは絶対の禁忌として強く要求されている。

 宗教的な理由としては、神代の終わりがマナへの畏敬の念を忘れ無秩序な大量消費によって引き起こされたと言い伝えられていることに由来する。神代の終焉の再来を恐れるのは、無理も無い。


 軍事的、経済的な理由は、それが広域破壊兵器の技術に通じるからである。

 この世界の広域破壊兵器に用いられる魔法がどのようなものか、その理屈は教えられていないが。とにかく大量にマナを消費し、その地域一帯のマナが枯渇するまでその一帯を破壊し燃やし尽くす。そういう類いのものらしい。

 マナは魔法として使用された後、一定期間を経て再び使用出来る状態へと遷移するようなのだが。それには長い時間が必要で、このような大量破壊兵器が使用されてしまうと、もうその土地で魔法を使うことはほぼ不可能と言える。


 事実、百年以上前の戦争で、そんな兵器が使用された土地では、破壊の傷痕もそうだがマナの枯渇も酷く、魔法が使えないために人がまともに住めない死の土地となっている。

 ちなみに、ミルレンシアやイシュテンといった大国はこの手の広域破壊兵器をいくつか保有しているそうだ。新規開発を行わないという国際条約を結んでいるそうだが。


 あとは、得られた知見は人類共有の財産として開示すること。研究仮定も含め、製造物は徹底的に管理すること。平和的利用を目的とした研究、開発を目指すこと。安全を徹底し事故を防ぐこと。

 そんなことが、書類にはまとめられていた。


「分かってはいたことですけど、随分とざっくりとしてますね」

 それが、白峰の雑感だった。


「仕方ありませんよ。誰にとっても未知の領域の話なのです。今は、大凡の方針を決めることくらいしか出来ません。実際の運用としてどうするかは、現場で試行錯誤しながら、現実的な運用へと詳細を落とし込んでいくしかないでしょう」

「それもまあ、そうですね」


「一応、こっちの世界からは。厳密に言えば専門ではないですが、知見として活かして貰える部分もあるだろうと、国際原子力機関(IAEA)や化学兵器禁止機関(OPCW)の人達にも何人か来て貰えることになりましたが。あちらの世界の方は、どのような状況か白峰君は何か聞いていませんか?」

「少し前にあちらに出向いたときに、アサさんから聞きました。こういった、研究開発の安全について専門に研究している先生が、イシュトリニスから既に出立していているそうです。もうあと数日で着く頃合いかと」

「宗教関係の人については、どうなりました? その人も、派遣されると思っているのですが」


 「ああ」と、白峰はぼやいた。

「それなんですが。結局、ルテシア市の神職の方に来てもらうことになった様です。下手に特定の宗派における高位の方を呼ぶと、宗教対立が凄まじいことになりそうだったらしくて。それだったら、もう近いところで済ませようと。でもって、あくまでもどの宗派でも共通しているような、浅い部分だけを教えるというか。そんな話で、アサさんのお父さんが半ば強引にまとめたそうです」

「そんなことで、大丈夫なんですかね?」


「下手に本気で対立を深めると、どこの宗派も無傷で済みませんからね。であれば、これくらい緩い落としどころにした方が、お互いの傷は浅くて済むと、そういう判断なのか。それが、提案して一番穏便というか反対の声が小さかったそうです」

「なるほど」


「なんや。何だかんだで先行して色々と話進んでいたんやなあ。ほんなら、ひょっとして安全への配慮みたいなんも、色々と決まっていたりするん?」

 佐上の質問に、白峰と月野は頷いた。


「はい、色々と動いています。例えば、佐上さんが発見したプログラミング魔法ですが、あれも今後はどんな影響が出るのか分かりません。ですので、何かやるときは街から遠く離れた実験場で実験を行うことになりました。ちなみに、前にそれもあって、当分の間はこの魔法は使わないように頼みましたが、守ってくれましたか?」

「ああ、それか? 大丈夫や。ちゃんと約束は守っとる。うちも、技術者の端くれや。言われてみれば何が起きるか分からんもんをポンポンと使うのは恐いしな」

 それを聞いて、僅かにだが月野は笑みを浮かべた。


「研究の計画についても、詳細をきちんと書いて。暫定ですが、安全監視委員会に提出して許可が出てから行うことになりますしね」

「その、安全監視委員会というのが、さっき言っていたIAEAやOPCWとかの人達っていうことですか?」

「その通りです」

「これ、ひょっとして地球と異世界で合同の国際組織第一号ってことになるんですかね?」


「場合によっては、そういう事になるのかも知れませんね」

 海棠の質問を月野は肯定した。

「得られた知見もそうですが、研究計画や実験結果も、積極的に開示していく。そういう理解でいいんですね?」


「はい。その通りです。流石に安全保障上の影響が出そうな部分については、待ったが出るかも知れませんが。我々もそうですが、誰が何をどうやっているのかを正直に開示する。これが重要であるというのが我々も含め、異世界の外交官達とも共通した認識です。これが分からないと、注目している人達が不安に思いますし。余計な邪推を招いたりもしますから。正確な情報が発信があってこそ、正しい理解が得られるものでしょうしね」

 例のマスコミ騒ぎ以降、外務省もそこを蔑ろにする気は無い。


「そう言われると、私の仕事ってかなり重要ですよね?」

 月野は笑みを浮かべた。

「その通りです。これからも、期待してますので、よろしくお願いします」

「はいっ!」

 海棠は拳を握った。どうやら、改めてやる気が湧いてきたようだ。


「ともあれ、これでようやく電気の問題も少しは解決の可能性が出てきたっちゅうことやな。そう簡単に上手くいくとか、流石に期待しすぎるつもりはないけど」

「そうですね。優先して電力確保の方法を研究して頂くようにお願いしましたけど。これで、上手くいくといいですね」

 とは言いつつ、上機嫌な佐上を見ていると、かなり期待しているようにも見えるのだが。


「しかし、白峰君。その格好はあちらの世界のものですか?」

「ええ、はい。ティケアさんに教えて貰いました。まだ残暑が厳しいので。既製品ですが、相手に失礼の無い品を選んだつもりです。やっぱり、似合っていませんか?」

 白峰の格好は、パンツはこれまで通りだが。上半身が半袖のシャツに薄手のウエストコートを着た格好だ。ネクタイはしていないが、細めの飾り紐がVゾーンを彩っている。


「いえ、悪くないと思いますよ。涼しいですか?」

「はい。結構涼しいです」

 白峰は首肯する。

 月野は目を細め、唸った。


「私も、その格好を揃えましょうかね? まだ、お店にそういう服、売っていますか?」

「時期的にギリギリだとは思いますが。探せばあるいは。あと、首ですがこういう紐じゃなくてシャツのボタン部分の柄でネクタイのような役目をさせるという方法もあるみたいです」

「なるほど」

「白峰さん。私もそれ、一枚撮らせて貰ってもいいですか?」

 白峰は照れくさそうに笑いながら、OKした。

白峰が着ているクールビズスタイルですが、自分でやってみた限りではそんなに悪い感じでもなかったです。

あとは、リアルに職場でこの格好をやって受け入れられるかどうか試してみたいですが。ちょっと勇気が(汗)。

あと、夏用ウエストコートみたいなもの、多分その手の店でオーダーしないと作ってくれない気がする。

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