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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【異世界言語習得開始編】
16/279

【外伝的小話】アサの初仕事と覚悟

ゲートが繋がって、アサがどのような立場や理由で折衝をすることになったのかという説明の小話。

本編とは直接は関係ないので外伝的な扱い。

このエピソードが意味を持つのは、本編ではまだしばらく先になっちゃうけど。

 自室で読書をしていると、硬い表情を浮かべ、ティケアが近付いてきた。

 アサは読んでいた本を閉じ、膝元に置いた。背もたれに大きく背中を預け、彼へと振り返る。

「お嬢様、ご報告が」

「うん」

 アサは静かに頷いた。


「その様子だと、王都からクムハが帰ってきたみたいね」

「はい、その通りにございます」

 ティケアが封書を取り出す。封蝋はまだ割られてはいない。

 だが、その内容については、既に伝え聞いているのだろう。


「よいお知らせと、悪いお知らせがございます。どちらから、お聞きになりますか?」

「どちらから聞いても、大体見当は付いているのだけれどね。じゃあ、いい知らせから教えてくれるかしら?」

「畏まりました」

 恭しく、ティケアが頭を垂れる。


「この度、お嬢様は外交宮の官吏登用試験を優秀な成績で合格されました。これにて、正式に外交宮の一員となられました。おめでとうございます」

「ありがとう。ティケア。これも今まで、あなたを初めとして私を支えてくれたみんなのおかげね」

「勿体なきお言葉にございます。これも、お嬢様の不断の努力の結果ですよ」

 自信は、正直に言えばあった。だが、その揺るぎない自信を与えてくれたのは、ティケア達の協力のおかげだ。


「それじゃあ、悪い方というのは?」

 僅かに、ティケアが押し黙る。だがそれも、本当に一瞬のことだ。伝えるべき事に変わりは無いのだから、迷う意味が無い。

 

"辞令が下りました"


「そう」

「お嬢様に、あのゲートの向こうの世界との折衝を命ずる。とのことです」

 そう言って、ティケアが封書をアサに手渡してきた。

 アサは封蝋を割り、中身を取り出した。中には合格証書と辞令が書かれた書類が入っていた。封蝋の印も、書類の印も、間違いなく外交宮のものだ。


「まったく、本当に内定も早々に辞令だなんてね」

 アサは口元に手を当て、笑った。ここまで思ったとおりだと、何だか可笑しい。

「お嬢様の読み通りになりましたな」

「そうね。王都からここまでは距離があって、直ぐに兵団を送ってくることは出来ない。仮に防衛するとしても、準備をして防衛線を構築しなければいけない。それが早々に出来るかというと、ちょっと難しいわね。国境に面しているわけでもないから、駐屯地もまばらだし。それに、情報も少ない。闇雲に動くことは出来ないから、まずは情報を得つつ、体制を整える。やっぱり、そういう方針になったみたいね」

「はい」

「そして、そうなると折衝が出来る人間が必要になる。都合のいいことに、先祖代々、高級外交官を輩出してきたアサ家の長女が試験に合格している。家柄も申し分ない。となると、当面の間にしろ、折衝役として私が命じられるのは……まあ、当然よね。他に打つ手が無いのだもの」

 うんうんと、満足げにアサは頷いた。


「恐くは無いのですか?」

「恐いわよ?」

 正直に、アサは答えた。

「けれど、外交に携わろうとする者として、異国の地に赴くことを常とする者として、常に覚悟はしなければならない。そう何度も言っていたのはティケア? あなたじゃなかったかしら?」

「それは、確かにその通りなのですがね」

 ティケアはその表情からやるせなさを隠さない。


「それに、確かに少し恐いけれど、楽しみでもあるのよ」

「楽しみ。ですか」

「ええ。だって、あのゲートの先はどんな世界が広がっているのか、誰も知らないのよ? そこにはどんな人間がいて、どんな国を築いて、どんな歴史を辿って、どんな暮らしをしているのか。それを私が最初に知ろうというのよ? 好奇心がくすぐられると思わない? だからある意味、これもいい知らせね」

「そのお気持ちは、私も分かるのですがね」

 ティケアは苦笑を浮かべた。


「では、お嬢様? 正式に辞令も下りたことですし。まずは何から手を付けましょうか? 私もかつては外交宮に勤めた身。覚悟は決めているつもりですし、全力で補佐致します」

「そうねえ」

 アサは人差し指を唇に当て、しばし虚空を見上げた。


「まずは一度、向こうに挨拶に行きましょう。確か、向こうの衛士隊から、それらしい話が来ているって市議会で取り上げられていたと思うけど?」

「分かりました。では、我々はその方針で動きます」

「ええ、よろしくお願い」

 踵を返し、背を向けるティケアを見送って。

 今夜の夕食は、自分の好物でまとめて欲しいと伝えておけばよかったと、アサは後悔した。合格祝いと、そしてほんの少しだけ、最後の晩餐となる可能性の意味を込めて。

ティケアじゃないけど、この国の政治機構も無茶するよなあと思う。

物語のご都合だと言ってしまえば、その通りではあるのだけど(こら)

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