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魅惑の浜辺

実質、次回のための前振り回。

 海水浴当日。その一日目。

 水着に着替えて海岸に向かうと、アサとミィレを除く参加者は感嘆の声を上げた。

 アサ家所有のプライベートビーチは、ルテシア市から馬車で小一時間ほど離れた場所にあるのだが。そんなところにこれだけ綺麗な海があったのかと。


 来る途中に見掛けた、公共の海水浴場も賑わっていたが。そちらは日本でもよく見掛ける、海水浴客でごった返して、屋台が並んで賑わって、海の水は濁っている。そんな海水浴場のようだった。

 それに対し、この入り江は砕いた大理石か何かかと言いたいくらいに白く輝く砂が広がっていて。遠目で見ても、恐ろしいほどに水が澄んでいるのが分かる。


「すっご~い! アサさん。私、こんなに綺麗な海、見たの初めてですよ」

 はしゃぐ海棠に対し、アサは腕を組んで、自慢げにうんうんと頷いた。

「そうですね。日本でも、沖縄とかに行けばこういうところはありそうですけど。自分も、直にこういう海を見るのは初めてです」


「マジで水が綺麗やな。これ、船を浮かべたら宙に浮いているように見えるんとちゃうか?」

「有り得そうですね」

 驚く佐上に、白峰は同意した。


 同時に、アサが海で遊ぶのが好きになるのも分かる気がする。ミィレから聞いたように、両親との思い出が深い場所だからというのもあるだろうが、こんな場所で遊べるのならそりゃあ楽しいだろう。

 仕事の都合で、夕方には帰らなくてはいけない我が身を白峰は恨めしく思った。


「こちらの世界って、こんなに綺麗な海って多いんですか?」

 白峰は、異世界側の参加者であるルウリィとゴルンに訊いた。ルウリィは泊まりで、ゴルンは白峰と一緒に夕方にはルテシア市に帰る予定となっている。

「まさか。こんなに綺麗な海、私達の世界でもそうそうお目にかかれないわよ。それこそ、こういうプライベートビーチならともかく」

「ですねえ。特に、私達の国であるティレントは内陸の国なのでほとんどありませんね。湖なら、まだ勝負になるところはあると思いますが」


「なら、ティレントでは湖で泳ぐ人が多いんですか?」

「その通りです。と、言いたいところですが、そこまで暑い時期は長くないので、積極的には泳ぎませんね」

「へえ」

「ちなみに、私達の国だと水着はもっと布面積を減らしてもいいんだけれど。イシュテンはその辺、厳しいからダメなのよねえ」

 ルウリィが溜息を吐いた。


「ああ、そういえば海棠さんがそれで水着をこっちのものにしたとか言ってましたね」

 白峰が見たところ、ビキニスタイルではあるもののそこまで際どいものでもなかったように思うのだが。そこはお国柄によって許容範囲が違うので仕方が無い。郷に入っては郷に従えだ。

「シラミネも残念に思わない? どうせなら、若い女の子達がシルディーヌ風の水着を着た姿を見たかったんじゃないかしら?」

 ルウリィの質問に、白峰は苦笑を浮かべた。


「シルディーヌ風の水着がどんなものかは分かりませんが。そういう、性に関わるような内容は答えづらいので、回答は遠慮させて下さい」

「あら、ごめんなさい。ニホンでは敬遠されるんだったのよね」

「まあそうですね。時と場合、相手によるので、常にダメという訳ではないのですが」

「というか、シルディーヌの水着など着せようものなら、若い男には目に毒じゃないかね? 子供の頃から慣れているシルディーヌ男ならともかくとして」


 どんだけ際どいんだシルディーヌ水着。興味は湧くが、その中身には恐怖が大分混じっているような気がした。

 後で、仕事の一環として訊いておこうとは思うが、時と場所、訊き方には注意しなければいけないと思った。


「でも、シルディーヌの水着がどんなものかは分かりませんが。自分としては、皆さん似合っていていいと思いますけどね」

「あら? それって私も含めて?」

 からかうように笑うルウリィに、白峰は頷いた。

「ええ。ルウリィさんの水着、多分ですけれど日本のお店に注文したものですよね? 佐上さんと同じような格好なので、そう思ったのですが。品のあるデザインで、いいと思いますよ?」

 ちなみに、アサとミィレ、そして海棠はイシュテンの流行らしい、水着が上下に分かれたスポーツウェアのような水着を着ている。いずれも、鮮やかなモザイク柄の水着で、彼女らに似合っていると思う。具体的にどこがどう? などと訊かれても、相応しい表現方法は持ち合わせていないので、そんな質問は来ないことを祈るが。


「ふふ。若い男の子にそう言われると、自信付いちゃうわね。ありがとう。そう言って貰えて嬉しいわ。本当は、こういうのは趣味とは少し違うんだけれど、これはこれで綺麗だと思ったから買ったのよ」

「ああ、まったくだ。下手にシルディーヌ風の水着など着てこられるより、よっぽど目に優しいと思うよ」

 感慨深く、ゴルンが頷く。「どういう意味よ?」と、すかさずルウリィが睨みを利かせるが。


「あの~? ところで、白峰さん。ゴルンさん。私、少し気になったんですが。いいですか?」

「なんですか?」

 いつの間にか、脇に寄ってきていた海棠が訊いてくる。


「何だか、白峰さんもゴルンさんも腹筋が割れているんですけど。鍛えているんですか?」

 白峰は頷いた。

「ええまあ少しは。自分は、子供の頃から合気道が主ですが、習い事で武術をやっていたものですから」

「私もそうですね。私達の国は、格闘技をやる人間が多い国ですから。今でも鍛えています」

「なので、ティレントの人間って子供も大人も年寄りも、こういう筋肉な人達が多いのよ」

 呆れ顔で言ってくるルウリィに対し、ゴルンは豪快に笑った。


「へえ? 白峰も格闘技をやっていたのね?」

 そこに、興味津々と言わんばかりに、アサが目を輝かせて話に入ってくる。

 この目は見た覚えがある。海外研修時に、日本の武術に興味を持ってくれた知り合いと同じ目だ。

 また、その時と同じように簡単な技を披露するなり、教えるなりする流れになりそうだ。これはこれで、結構芸が身を助けるというか、そんな感じだったので武術をやっていてよかったと思っている。

これ書いていて思ったこと。

白峰。お前には失望した。もっとヒロイン達の水着について解説しろよと。

あんたが言うなと、脳内でジト目を返されていますが。

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