異世界言語の学習方法
これから、どうやってお互いの言葉を勉強しますか? たった、それだけの話し合いをするため、白峰昴太が頑張ります。
ゲートの前で白峰が「ちょっと待って」と手のひらを胸の前に押し出すと、アサとミィレは向こうで立ち止まった。
こちらの様子から、何かあると察してくれたらしい。「どうかしたのか?」と、彼女らは首を傾げた。
白峰は取り出したスケッチブックに、丸と線で簡単な人型を2つ描いて見せた。そして、顔のあたりに「これは何ですか」と日本語で書く。また、もう一方の人型には、波線を言葉の位置に描いておく。
また、顔にはそれぞれ波線で目と口を描く。目尻は下げて、ついでに汗模様も描き足す。日本語の方は耳を丸く。そうでない方は耳を尖らせた。
「なるほど、顔文字か。上手いことやるなあ。白峰はん」
「昨日は、大体こんな感じで押し通しました。結構、通じるようですよ?」
問題は、これで意図していることが、今の彼女達に通じるかだが。
うろんな視線を向けてくるアサに対し、ミィレが顎に手を当て、食い入るように絵を見る。そして、数秒後に頷いた。
ミィレが絵を指さして、アサに顔を向け、口の前で手を開閉する。続けて、困ったように首を傾げた。「つまり、こういうことです」と言っているようだった。
「ああ、なるほど」と、アサが大きく頷く。
ミィレが白峰に微笑みかける。
「そうそう。お互いに、言葉が、通じないのは、困るんです」
白峰も彼女に頷き返し、お互いを指さしてから、眉根に皺を作りながら頷いた。
続いて、白峰はまた新しい絵を描いていく。今度は、さっき描いた絵に対して、笑顔の顔文字で顔を描き、また言葉の部分には双方の人型に「これは何ですか」と描いた。
「サラガさん。ちょっとすみません」
サラガの名前を出し、彼を手招きする。突然の事に不意を突かれたのか、彼は自身を指さした。「え? 自分?」と。
そんな彼に、白峰は大きく頷く。
困惑の表情を浮かべながら近寄ってきた彼に、スケッチブックを見せて、耳を尖らせた方の人型に対して、言葉を書くようにペン先をなぞった。
「桜野さん。異世界の言葉で『これは何ですか?』って言って貰っていいですか? 自分は、まだ覚えていないので」
「おう、なるほど」
白峰の要望に応え、桜野もスケッチブックへと近づき、指先でなぞりつつ異世界の言葉で「これは何ですか?」とサラガに伝えた。 ふむふむとサラガが頷く。スケッチブックとペンを渡すと、何事かをそこに書いていく。
そして、書き終わって彼はその見慣れぬ文字を指でなぞった。
「コレハ、ナンデスカ?」
そう、日本語でサラガが言ってくる。どうやら、桜野が言葉を覚えていたように、彼もまた日本語を覚えていたらしい。
きちんと意思疎通が出来ているという確証が取れ、白峰はそれでよしと大きく頷いた。「ありがとう」と彼に伝える。
その一方で、アサとミィレが驚いた視線をサラガに向けた。
アサはサラガに指を指して何事かをまくし立てる。そんな彼女に対して、サラガは困ったように頭を掻いた。
「何か、凄く既視感が湧くなあ」
「桜野はん。あんたら、ほんまにいいお友達っちゅうことやな」
桜野のぼやきに、佐上はツッコミつつも嘆息した。
そんな彼らを見て、事情を察したのかミィレがくすりと笑みを浮かべた。そして、まぁまぁとアサを宥める。
苦笑を彼女に返しつつも、白峰は気を取り直して、サラガの書いた文字と同じものを見様見真似で丸耳の人型の近くに書いた。
そして再び、出来上がった絵をアサとミィレに見せる。ちょうどこれで、お互いがお互いの言葉を話すことが出来ているという構図だ。
ほお、と佐上が感心した声を漏らした。
なるほど。と、アサとミィレも頷いてくる。
今度は、白峰は人型の他に単純な魚、花、服といった絵を描いた。それぞれに、日本語も添える。そして、それぞれに向けて、日本語と異世界の言葉で「これは何ですか?」と問いかける構図を描いた。
それを見せると、ミィレが「貸して下さい」と手招きした。要求に応じて、彼女にスケッチブックを渡す。
ミィレはスケッチブックを受け取ると、それぞれの絵に、また新たな異世界の言葉を書き添えた。
「こういうことですよね?」と、微笑んでくる彼女に、白峰もまた笑顔を返す。
そんな様子を見て、アサが小さく頷き、スケッチブックのその絵を大きくペンで囲み、それを示すように笑顔の絵文字を書いた。耳は尖らせている。そして、鷹揚に頷いた。
異世界の言葉で何事かを言ってくるが、つまりは「我々もこの試みに賛成である」ということだろう。
「よし」と、白峰は拳を握った。
これで、問題の一つはクリア出来た。だが、決めなければいけない話はまだ他にもある。次は「何の言葉を優先するか?」だ。
白峰はスケッチブックに世界地図を書いた。そして、世界全体を囲む。枠の傍らには「ENGLISH」と書く。日本もまた同様に囲んで「日本語」と書いた。そして、それを二人に見せる。
「今、自分は、日本の、言葉で、話しています」
白峰はまず自分を指さし、続いて世界地図に書いた日本語をなぞる。そして、最後に口の前で手のひらをパッパッと数回、開いてみせた。
こくりとアサとミィレは頷いた。どうやら、分かって貰えたらしい。
「これからの、話し合いは、どちらの、言葉で、しますか?」
続いて白峰は自分を指さし、続いて口の前での手のひらの開閉、交互に英語と日本語を指さして首を傾げた。
むぅ、とアサが眉根を寄せ、顎に手を当てた。この可能性については、彼女も想像していなかったようだ。
だがそれも、さしたる悩みにはならなかったらしい。
数秒の後、彼女は不敵な笑みを浮かべて答えを告げてきた。
次回は、具体的に決まった勉強の仕方について、外務省の対応を説明します。
新キャラが出ますが、伏線を仕込むため、しばらくは影が薄い扱いになるかと。
【2019/03/13】
と、思ったら外伝的小話を入れたくなったので、そっちを先に入れてしまいました。
章管理的に、自由にエピソードを削除したり挿入したり出来ないんですねここ。
投稿を間違えると修正利かなさそうなので、今後はそういう話は【外伝的小話】みたいなものをタイトルに付けます。