表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/281

女として。意地と見栄

 佐上は椅子に座り、緊張した面持ちで、服をまくり上げ、腹を見せた。

 向かいに座り、佐上の腹を見る彼女もまた、真剣な表情をしている。

 佐上の腹に、彼女の手が押し当てられる。色々と、強弱を変えながら、一つずつ、丹念に、何かを確かめていくように。


『弱め 息 吸う して』

 指示に従い、佐上は息を吸った。

『吐く して』

 続いて。息を吐く。


『腹 力 込める』

 ぐっとお腹に力を込めた。

 その状態で、強くまた腹に手を押し当てられる。

『見る。終わり です。服 着て』

 佐上はまくり上げた服から手を離した。


 目の前の女性は、沈痛な面持ちを浮かべていた。

「ど、どないでしょうか? うちは、うちの腹は?」

 数秒。重苦しい沈黙。

 しかし、それでも黙ってはいられないと、彼女は口を開いた。


『残念 です けれど』

「そんなっ!?」

 ぐにゃりと、佐上は目の前が歪んだ気がした。


「つまりそれはもう、手遅れっちゅうことですか?」

 その問いに、彼女は頷いた。

 彼女が、額に手を当て、肩を震わせる。うっすらと、その目からは涙が滲んでいるかのようだった。


『何故 こんなに まで 放置 した です か?』

 がっくりと、佐上は項垂れる。

「だって。だって、仕方なかったんや。ここ、美味いもんいっぱいあるし。仕事続きでストレスも溜まってたし。それで、つい――」

 佐上は目に腕を当てて泣いた。

 ちょっとの油断だった。しかし、その油断が積み重なった結果。ぷにっとしたお腹が出来上がってしまった。


「こんな腹で、どないして海に行けっちゅうんや」

『でも 行く 約束 した です ね?』

「うん」

 目の前の女。ルウリィ=ミルクリウスの問いに佐上は頷いた。

「うちも、アサの友達や思うとるし。友達として、やっぱりこういう風に遊べないのは寂しいと思うし。断って、アサをがっかりさせたくないし」


『せめて 仮定 一月 前 ぎりぎり 可能。しかし。十日 無理』

「お願いします。そこを何とか。何とかして下さい。うち、何でもしますからあ。あんさんだけが頼りなんですうぅ」

 佐上はルウリィの肩を掴み、頼み込む。


 美容の鬼で、■■歳とは思えない美貌を保っているルウリィなら、何かいい方法を知っているのではないかと。そんな一縷の望みに賭けて、佐上は海に行く約束をしたのだった。

 そんな訳で、ルウリィに頼み込んで、仕事帰りに彼女の部屋で相談に乗って貰った結果がこれである。


 アラサーがアサやミィレ、海棠のような若い娘に混じってというだけでも、堪えるものがあるのに。この腹。

 それが、月野に見られようものなら。まあ、あいつもいい歳やし、腹は出てきているとは思うが。あのアホがまた、これを見て「本当に、そういうご予定って無いんですよね?」「医者に診て貰っていいですか?」とか言い出さないかと。

 その挙げ句、結局はただのぷに腹だと発覚しようものなら、何かこう、女としての沽券に関わる気がする。月野は口には出さないだろうが、内心の評価を下げてきそうな。


『美しい 毎日 努力 結果 分かる ですか? すぐ、結果 無理』

「はい」

 がっくりと、佐上は肩を落とした。

 実際、その通りなのだ。美容と健康の原則は地球も異世界も変わらない。日々の努力と節制の積み重ねである。健康的で、スリムな体を手に入れたいのなら、適度な運動と栄養バランスの取れた食事、規則正しい生活を続けるより他無い。


 海に行く事なんて無いだろうと高をくくり、怠った罰が、このぷにっとした腹である。

『反省 して ます か?』

「はい」

 これからしばらく、ご飯は腹八分目にしよう。徹底的に守って。数ヶ月単位で、地道に肉体改造をするしかない。

 ルウリィは、深く溜息を吐いた。


『一つ だけ 方法 ある。しかし とても 難しい です。しかも 気休め 効果 です』

「なん……やと?」

 ルウリィの言葉に、佐上は思わず手を握った。

『サガミ=ヤコ。 あなた 何でも する 言った ですね?』

「ああ、言うたで」


『その 言葉 本当 ですか?』

「ああ、ほんまや」

 手があるというのなら、微かでも希望があるというのなら、何だってしてみせる。

 今、佐上の心は真っ赤に燃え上がっていた。


『厳しい 戦い なる です。分かる です か?』

 ルウリィの目が、貫くような視線となって佐上を射貫く。

 それに対し、佐上は「望むところ」と言わんばかりに大きく頷いた。

ルウリィの年齢については、外交機密のため、今後も公開する予定はありません。


今週、ちょっと文字数少なめですね。すみません。

あと、個人的な事情で、一ヶ月ほど投稿が不安定になる可能性が、少しあります。

ネタ切れとか創作意欲とか、そういうのとは全然別の問題なので、打ち切りとかはご心配なさらないで下さい。

何事も無ければ、これまで通り週一投稿ですが。


ちなみに自分、気付けばリングフィットを3か月以上続けていたりします。

あれ、本当に効果ありますねえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ