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海への誘い

 市役所から渡界管理施設への帰り道。

 白峰とミィレは、揃って暁の剣魚亭で昼食を摂っていた。

 今日の市役所への用事はというと、これからの都市計画についての意見交換。そして、情報交換である。


 現行の簡易的な渡界管理施設は、やがて壊されて新しく造り直されることになる。その時になって、どのような機能が要求されるのか。それについて、各国から出された要望や、実際に今働いてみて必要を感じているものについて話し合った。

 将来的には、かなり大がかりな建物の建築と、区画の整備が必要になりそうなので、今からでも、分かるところは見積もれるだけ見積もっておきたい。


「――と、いうわけで、色々とありましたけど。私とお嬢様は、十日後に二日のお休みを頂くことになったんです」

「それはまた。色々と大変でしたね」

 微苦笑を浮かべるミィレに、白峰は労いの言葉をかけた。


 聞けば、アサを休ませるための一芝居を異世界の外交官達とティケア、そしてミィレで行ったという話だったが。この口裏の合わせ方は見事だと白峰は思った。

 外交関係者ならではというか、彼らの一体感を感じる。


 考えすぎかも知れないが、こういう真似をさらりとやってのけるあたり、少し恐い。外交的にも連携して動かれるとこちらもあっさりと手の平の上で踊らされそうというか。

 実際、アサが思い通りに動かされているのだから。


「ちなみにそれ、アサさんにはずっと黙ったままにするんですか?」

「それなんですけどね。休みのどこかのタイミングで、お嬢様には説明するつもりです。こういう事は一度、きちんと話しておかないとお嬢様も気付けないという話ですから」

「そうですね。その方が、いいと思います」


 白峰は冷やし米麺を啜った。暑い日が続くので、こんなものでもないとなかなか喉が通らない。流石に、これだけでは体力が保たないとも思うので、追加で鶏の唐揚げも注文し、タンパク質も摂るようにしたが。

 ミィレもこの暑さには堪えているのか、白峰と同じく冷やし米麺を頼んでいる。


「でもまあ、それを聞いて自分も安心しました」

「何がですか?」

「いえ、ミィレさんもですよ。気付けば結構長く休み無しじゃありませんか?」


「ええまあ。実を言うと、私も少し疲れ気味だったかも知れません。ひょっとしたら、ルウリィさん、最初からそこまで考えていたのかも? とか、思っちゃいます」

 照れくさそうに、ミィレは笑った。

 実際、その線は有り得そうだなあとか、白峰は思う。


「でも、心配と言えば私も白峰さん達が心配になるんですけど? 大丈夫ですか? 私達と同じように、ここのところずっと働き詰めじゃありません?」

 白峰は天井を見上げた。

「あー。言われてみれば、そうかも知れませんね」


 先輩達から、この仕事には休みは有って無いようなものだと聞かされて、それも覚悟の上で就職したので、あまり気にしていなかった。

 けれど、実際に結構長いこと休んでいなかったように思う。

 佐上と海棠は、外務省の所属ではないので、そこはきちんと法令に沿って十分な休みを取れるように配慮しているけれど。


「お休みって、貰えなさそうな感じなのでしょうか?」

「どうなんでしょうね? 一度、月野さんに確認してみます」

「そうして下さい。でないと、私も心配になっちゃいます」

「すみません」

 白峰は頭を下げた。


「あと、もしもご都合がよろしければなんですけれど――」

 ミィレは懇願するように、胸の前で手を組み。やや上目遣い気味に見詰めてきた。

 こういう真似をされると、本能的に非常に断りづらいものを感じる。ミィレに、自覚は無さそうだけれど。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 渡界管理施設の、外務省用の一室にて。

「――と、いうわけで、アサさん達から海に誘われました」

 市役所から帰ってきた白峰が、そんなことを言ってくる。


「海ですか? 別荘? プライベートビーチっ!? 凄い、流石お嬢様っ!」

 それを聞いて、海棠が歓声を上げる。どうやら彼女は、何とかしてスケジュールを合わせて、行く気満々のようだ。


「ええ。聞くところによると、例年ならご家族と一緒に遊びに行くことが多いそうです。でも、今はこんなご時世なのでご両親が帰ってきてませんし。遊び友達、というと語弊があるかも知れませんが、比較的歳も近い自分達と遊べるなら、楽しい思い出になりそうって思っているみたいです。勿論、無理にとは言ってないそうですが。あくまでも、もしも都合が合えばの話です」

「ふぅむ。海ですか。それに、休みも、確かに大切ですねえ」

 月野が唸り声を上げる。


 一方で、白峰は懇願するような表情を浮かべてきた。

「あの? やっぱり、難しいですか?」

「いや、まあ。全く何ともならない……ということは、無いと思いますけど。ピークも、そろそろ過ぎつつはありますから」

 月野は眉間に皺を作った。


「行きましょう行きましょうっ! 海~っ! 海~っ! 行きたい行きたい~っ!」

 バンバンと両手で机を叩き、海棠が訴えてくる。

 その姿を眺めながら、佐上は「若いってええなあ」などと、遠い目を浮かべた。

 月野は手帳を開き、睨めっこを続ける。

 しかし、やがて溜息を吐いた。


「白峰君。非常に残念ですが」

「あ、やっぱり無理ですか?」

 月野は頷いた。

 がくりと、白峰と海棠は項垂れる。


「ええ。私と白峰君は、この部屋を空けることは出来ません。ですので、アサさん達の休み日のどちらか一方の日に、別々で参加するというのが、限界ですね。その前に、いくつか仕事のスケジュールを前倒しにする必要もありますけど」

 その言葉を聞いた途端。

 白峰と海棠は、ぐっと拳を握りしめた。


「つまり、休みが取れるんですね?」

「はい。私と白峰君は、一日だけですが。海棠さんは、どうされますか? 既に行く気満々のようですけど」

「勿論、行きますよ~っ! 異世界の海の過ごし方とか、どんな感じなのか気になりますし?」

「それもそうですね」

 確かに。と、月野は頷いた。


「佐上さんは、どうされます?」

 佐上はこっそりと、机の下に隠れた腹を摘まんだ。ぷにっとした感触が伝わってくる。

 佐上の背中に、冷たい汗が流れた。

 行くべきか? 行かざるべきか? それが問題だ。

 たっぷり、30秒ほど悩んで、佐上は答えた。

お風呂回は既に書いた。

次は、水着回を書きたい。

ぶっちゃけ、ほとんどそれだけの思いで、この章を書いてます。


あと、すみません。来週は私用により、投稿をお休みさせて頂きます。

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