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お休みの条件

前回、大原部長オチで殴り込みを掛けようとしたティケア。

そして、それを止めたミィレ。

しかし、根本的な解決に至らないと、再び危機は訪れるという。

 翌日の渡界管理施設にて。

 ミィレは自分の他に一人、残っているルウリィへと声を掛けた。

「ルウリィさん。すみません。ちょっとご相談に乗って欲しいことがあるんですが。よろしいでしょうか」


 他の外交官達は、今日も代わる代わるトウキョウへと出かけていく予定だ。ルウリィも、午後過ぎあたりから出て行くことになる。

 ちなみに、アサは今日もずっと外に出ている予定だ。

「ん~? ちょっと待って頂戴」

 ルウリィは書類にサインを書き終えてから、顔を上げた。


「いいわよ。何かしら? シラミネの攻略方法?」

「違います」

 きっぱりと否定する。ルウリィは露骨に溜息を吐いた。


「何だ。違うのね。先日、一緒に結婚式を見に行って、少しはその気になったのかと思ったのに」

「何でそうなるんですか。私達が行ったのは、あくまでもお仕事の都合です。お仕事です」

「はいはい、お仕事ね。本当に、イシュテン女って真面目なんだから。うちの娘なんて、年中結婚したいって言っている位なのに」

 そう言って、ルウリィは軽く肩を竦めた。


 先日の失態を見せてから、ルウリィの頭の中では自分とシラミネの間にそういう期待が膨らんでいるようだ。どこまで本気か分からないが、しばらくはこうして、何かとからかわれることを覚悟しなければならない。

 もっとも、それもあって、一番話しかけやすいのも彼女ではあるのだが。


「それで? 真面目な話として、何かしら?」

「はい。お嬢様の話なのですが。お休みとか、何とかならないでしょうか? あの、ルウリィさんの一存だけで決められる話じゃないっていうのは分かるんですけれど」

「アサのお休みねえ。確かに、あの子はハードなスケジュールが続いていると思うけれど――」


「お仕事中はそんな素振りは見せていないと思いますけど、お屋敷でのご様子が少しこれまでと違ってまして。大分無理して、色々と抱え込んでいるみたいなんです。このままだと、いつか爆発して、潰れてしまいそうで心配なんですよ」

 爆発した場合、何をしでかすのかという具体的な危険性については話さない。そもそも知らないし、知らない方がいいと思っている。


「なるほど、ありそうねえ。あの子も真面目だし、それにまだ働き始めて経験も浅いから、力の抜き加減も分かってなさそうだし」

「ちなみにですが。数日以内に皆さんから前向きな回答を頂けないと、お嬢様の前にティケア様が殴り込んで来かねません。昨日は、止めるの大変だったんですよ?」

 大仰にミィレは溜息を吐いて見せた。これで少しは、同情を誘いたい。


「それはまた、大変だったわね。そうやって、周囲に気を遣わせちゃうのも、まだまだ青いって事なのかも知れないけれど」

 その発言に、ミィレはむっと顔をしかめた。

「お嬢様を侮辱されるおつもりでしたら、止めて頂きませんか?」

「私から見た、ただの評価よ。己の限界を知って、きちんと自分の状態を把握し、無理なら無理だとはっきりと伝える。それも、この仕事を続けていくのに必要なスキルよ。経験でしか学べないけれど」


 ぐっと、ミィレは息を飲む。

 反論はしたいが、言葉は出てこない。

 そんな自分の心情を見透かしたかのように、ルウリィは微笑んできた。


「でも、あの子は幸せ者ね。こうして、何かあれば気付いて見守ってくれる人達がいるんですもの」

「はい。仕え甲斐のある主人です」

 それだけは間違いがないと、ミィレは大きく頷いた。


 ルウリィは天井を見上げる。

「でも、お休みねえ。あの子に無理をさせてしまった私達が言うのも何だけれど、どうしたものかしらね?」

「やっぱり、難しいですか?」

「ライハに言えば、スケジュールの調整は何とか上手く考えるでしょうけど。けれど、私の勘だけれど、それでも1週間か10日後あたりに二日何とか出来るかどうかってところね。そんなわけだから、スケジュールだけなら、まだ何とかなる気はするのよ」

「他に何か問題が?」

 ルウリィは頷いた。


「ほら、あの子。ああいう性格でしょ? お仕事にのめり込みすぎてこんな事態になってしまったんでしょうけれど。素直に『休んで』って言って、聞くかしら?」

 ミィレは呻いた。

「ああ、ええ、はい。聞かないと思います」


「新人に有りがちなのよねえ。『自分がいなくちゃ』って思い込んじゃって思い詰めていく子って。責任感が強いのは良いことなんでしょうけれど。まあ、気を配れなかった責任は、私達にもある訳なんだけど」

「何か、上手い説得方法を考えないといけない。そういうことですね」


 ただ、あれでアサは頑固なところがある。

 よほど説得力のある説明をしなければ、聞き入れてくれそうに無いように思える。

 どうしたものか? と、ミィレは腕を組み、首を捻った。


「これは、一芝居打つしか無さそうね」

「一芝居。ですか?」

「ええ」

 ルウリィは顎に手を当てて、頷いた。

ええと、今回。ちょっと短くてすみません。

キリのいいところの調整とか、色々とありまして。

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