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歴史と覚悟

 結局、新しく見つけてしまった魔法。強いて言うなれば、プログラム魔法とでも呼ぶべきか? それについては、みんなに説明することになった。

 月野とも相談したが、やっぱりこれを黙ったままにしておくというのは、佐上には耐えがたい。世のため人のためになる話を我欲で黙っておくというのは、罪悪感が湧く。


 月野から、彼らの上司である桝野にも話が行ったが、結論としては同じ事になった。世のため人のためになる話を黙ったままにしておくというのは、人類にとってよろしくないと。だから、公表はすべきであると。

 その上で、考えるべきは、情報の開示の仕方だ。


 嘘や隠蔽工作をするのは、得策では無い。

 それでは、真実を知らない人間に、余計な不信感を煽ることになる。「誰がどうやって発見したのか?」「何故公表出来ないのか?」とくれば、学者達は互いに疑心暗鬼を生むだろう。下手をすれば、マスコミがまた余計な陰謀論を煽りかねない。

 開示と隠蔽のメリットとデメリットを比較して、今回の場合は素直に公表した方が、トータルで見て公的なリスクは低い。それが、月野を初めとした外務省の説明だった。


 その理屈は佐上にも分かる。自分自身、何らかの形で情報公開したいと思っていたくらいだから。

 そもそも、嘘だとか隠蔽だとかが性に合わない。そういうのは、歴史に対する裏切りのように思えるから。

 しかし、問題はデメリット、即ち犠牲になるのが、他ならぬ自分自身だということだ。メリットにくらべたらそりゃあ軽いものかも知れないが、だからってこれまでの小市民な生活を捨てられるかというと、恐いものはある。


 渡界管理施設の、異世界側にある会議室。その前面に佐上は立っていた。隣には、月野も立っている。

 目の前に座っている面々の視線が集中する。それだけで、緊張度が増して仕方が無い。

 こういう場は、やっぱり苦手なので、月野に任せてしまっているが。


「――と、いうわけで我々と致しましては、この魔法について公開したいと考えているのですが。皆さんからも話を聞かせて下さい。公表に当たって、何か問題が無いか。公表するとすれば、どのようにすべきか相談したいのです」

「それは、この場で今すぐ答えを出さないとダメな話かしら?」

 アサの質問に、月野は首を横に振った。


「いえ、なにぶん。この世界に対する影響度も分からない話ですから。ずっと隠し通すべきではないにしろ、慎重な検討も必要かと思いますので。ただ、出来るだけ早い回答が望ましいと思っています」

「待てるのは、どのくらい?」

「遅くとも、半月くらいでしょうか?」


「理由は?」

「そこを突っ込まれると。白状すれば明確な根拠というものはありません。強いて挙げるなら、この件について話が漏れた場合に隠蔽のつもりでは無いと説明が出来、また他の話に埋もれずに進捗を追える感覚というのが、このくらいではないか。という程度の話です。あとは、学者の先生方の研究方針にも大きく影響が出そうなので、まだそこが固まりきっていないうちに話を伝えた方が、方針の修正が利きやすいというのも、『早めに』という理由になります」

 更に言えば、彼らが王都に報告を送ったとして、その検討結果が返ってくる期限というのも、そのくらいになるだろうから。というのが、その理由にある。


「つまり、その期限内に結論が出せなかった場合は、代わりに状況を教えればいい。そういうことかしら?」

「はい。それで、構いません。ただ、それを何度も繰り返されると、流石に思うところは出てきそうですが」

「そうね。分かってる」

 アサを初めとして、異世界各国の外交官達は頷いた。


「あと、発表についてですが。あまり、佐上さんに影響が出ないような流れを希望したいと考えています」

 そう月野が言うと、アサが意外そうな表情を浮かべた。

「あら? どうして? 歴史に名前を刻むチャンスなのに?」

「いや、うち。とてもじゃないけど、そんな偉い人間やないから。そんな大仰な扱いされたら、プレッシャーに負けるから」

 しかし、それでもアサは納得しなかったようだ。首を傾げてくる。


「私も、既に言ったんですけどね。『ある意味、こうして今の仕事をしている以上、歴史に名前が残るのはもう手遅れでしょう』って」

「うっさいわっ! それでも、目立つ程度くらいは違うやろ?」

 反論すると、月野は肩を竦めた。


「まあ、例のマスコミ騒ぎの一件から、こっちに来てようやく少しはほとぼりが冷め始めたところではあります。先日の入院に続き、ここで、また彼らを煽らせるのもどうかという話です」

「記者としては、物凄く美味しいネタなんですけどねえ」

 海棠が口惜しそうに言ってくる。


「しかし、何て言うか。佐上さんって『持って』ますよね。色々と」

「何で、こんなところでこんなネタ引くかなあと、我ながら嫌になるけどな」

 ぼやきつつ、佐上は遠い目を浮かべた。


 自分の人生、外務省に翻訳機を売り込んでから狂いっぱなしな気がする。

 でも、「歴史に名前が残るのはもう手遅れ」という言葉は、耳に残る。いずれ、覚悟を決めなければいけないのだろうか。佐上は、ふとそんなことを考えた。

すみません。来週は私用により、一度休ませて貰うかも知れません。

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