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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【異世界言語習得開始編】
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ゲート付近の人達の会話事情

ゲート付近の人達の会話事情になります。

佐上がツッコみ役として、動き始めます。

 打ち合わせもそこそこに、白峰は佐上を伴って秋葉原のゲートへと向かった。

 佐上には直ぐに外務省へと戻って貰うことになるかも知れないが、翻訳機について実際の動かし方や、サンプル収集の仕方について、現場でも教えて貰うことがありそうだと判断したことによる。

 しかし、その佐上の機嫌はあまりよろしくない。


 タクシーを降りたところで、佐上が口を開いた。

「あんな、白峰はん? ちょっと聞きたいんやけど、いつもここまではタクシー通いなん?」

「まあ、そうですね。しばらくはそうなると思いますけど?」

 それが何か? と、白峰は小首を傾げた。そんな様子に、佐上はますます渋い顔となった。

「それ、つまりは税金ちゅうことやろ? 勿体なくない? 外務省が持っとる車とか使うたらあかんのん?」

 不機嫌の原因はそれだったかと、白峰は得心がいった。


「いや、停めるところ、無いですし。ここらの駐車場も休業中で、路上駐車するのも道交法に引っかかっちゃいますから」

 しかも、仮に駐車場が機能していたとしても、停めたら停めたでまた高額な金額となってしまう。

「道交法って。車通らへんやん? そこ、融通利かんの?」

「利かないみたいですね。何せ、お役所仕事ですから」

「あんたらもお役所やん」

 まあ、そうなんだけど。と、白峰は苦笑した。


「じゃあ、ほら。異世界からも使者が来るんやろ? その送迎車とか乗せて貰えばええやん?」

「そういう車は、あくまでも要人向けであって、自分のような下っ端ヒラを乗せるのは、格式の問題があるんですよ」

「それで、タクシーか?」

「そうなります。交通規制が解除されたら、地下鉄になると思いますよ?」

 むぅ、と佐上は唸った。納得はしていないが、反論も無いようだ。

 そんな会話を続けたところで、彼らはゲートの前までたどり着いた。待ち合わせの約束の時間よりは、まだ少し早い。


 今日はゲートを行き来する前に、向こうの人達と話し合っておきたいことがある。

 つまりは、「これから、言語の習得を中心に行いたいが、それでよいか?」「その場合、何語を優先するか?」「どうやって学ぶか?」という話だ。

 言葉の壁というのは、やはりどうしても乗り越えねばならないものだ。そしてそれは、早ければ早い方がいい。その認識は、向こうも持っていて、賛同は得やすいだろうと期待しているが。

 これまでは、言葉が通じていないということもあり、日本語を使っていた。伝わらないにしても、母国語を使うのが意思を一番表現しやすいという考えからだ


 それは白峰だけではない。向こうの使者とご会見をされた天皇皇后両陛下も、情報交換を行った外務官僚達も同じ話だ。ゲートの傍に立つ、機動隊の桜野信也も同じ理由だろう。

 とはいえ、日本語というのは世界規模で見ればローカルな言語になる。何だかんだで、世界規模で通じる言語と言えば英語だ。

 そういう状況で、日本語を中心としていつまでも話し合いを続ける訳にはいかない。英語の存在を伝えた上で、日本語と英語のどちらを優先して、話し合いに使うようにするのか決めないといけない。


 既に、世界各国からも「何故、日本語を使っているんだ」と、そこに何か異世界に対して日本を特別視させようという意志があるんじゃないかと、変な疑惑が向けられているそうだ。

 無論、そんな意志が無いことも、理由も説明したそうだが。ただ、納得はさせられないようだ。

「おはようございます。確か、あなたが桜野さんで合っていますよね?」

 白峰がゲートの傍らに立つ男に呼びかけると、彼は意外そうな表情を浮かべた。


「ん? ええまあ、そうですが? 自分に何か?」

「いえ、ただの世間話みたいなものですが。お仕事の邪魔だったら、控えます。うちの有島から、桜野さんが結構あちらの警備の人と世間話をしているようだと聞いているもので。どんな感じなのかって聞かせて欲しいんですよ。日本語で、話しているんですよね?」

「ああ、その通りだよ。言葉は全然通じないけど、結構気のいい奴らみたいでな。身振り手振りがほとんどだけど、まあ仲良くやろうっていう気持ちは通じていると思う」


「この前は、それで睨めっこして遊んでいましたよね?」

 その声に、ビクリと桜野は身を竦めた。

「あ、有島さん。別に、あなたも止めなかったじゃないですか? ちゃんと、時間を決めてそれ以外は無用な接触はしていないですし」

 ふん、と有島は短く嘆息した。有島はどちらかというと、外務省の中でも安全保障などを担当する部署の人間であり、白峰とはまた別の部署の人間だ。五十歳手前の女性だが、その眼光は鋭く、「鉄の女」という呼び名もあるとか無いとか。

「別に、悪いとは言っていません。緊張感に溢れすぎるよりは、むしろ好ましいとすら思っていますよ? クリスマス休戦のような例もありますしね。結局のところ、最後は人間と人間が互いにどんな感情を抱くか? そこが、最後の防衛戦だと私は考えていますから」


「そうですね。はい」

 上擦った声で、桜野が頷く。そんなに緊張しなくても、と白峰は思うが、彼にしてみるとこういうお堅い先生のような雰囲気を持った人は苦手なのかも知れない。

「ちなみに、桜野さんはどんな話をしているんですか?」

「ん? ああ、大体は食い物の話とかそんなのだよ。多分なんだが、向こうの隊長は釣りをするらしい。で、このまえデカい魚を釣り上げたとかそんなこと言っていたようだ」

 そう言って、桜野は向こうの一人を手のひらで指し、釣り竿を持ち上げるような動作をした。それに応えるように、向こうの人間も笑顔を浮かべ、同じような動作を返してくる。


 なるほど、と白峰は頷いた。

「それじゃあ、やっぱりこの世界には英語があるとか、そういう話はしていないですよね?」

「まあ、そうだなあ。してないんだが?」

 そう言って、桜野は頬を掻いた。

「ですよねえ。いや、これから英語と日本語のどっちで話そうかっていうのを向こうの人達と話さなくちゃいけなくてですね? もし、桜野さんが伝えていたら、楽が出来ないかなあとか思ったもので」


「ああ、そういうことか。ごめん、期待に添えなくて。あと、俺は英語苦手だから、向こうの人達に英語で話せと言われても無理だぞ?」

 桜野は白峰に比べたら結構な年上だ。有島と違って、砕けた口調になるのもそこから来ているのだろう。別に、白峰も若造を自覚しているので、気にしていないが。

「いえ、構いません。有島さんじゃないですが、向こうの人達と仲良くやって貰えているというのなら、それだけで助かりますし」


 と、ゲートの向こうを見ると、道路の奥で二人の女が馬車から降りるのを白峰は確認した。一人は黒髪のアサ。もう一人は灰色の髪のミィレだ。

 白峰は鞄の中からタブレットを取りだして起動する。続いて、翻訳機のAIを立ち上げた。ここから、向こうに行って帰ってくるまではずっと起動しっぱなしになるが、バッテリーは結構長持ちすると聞いている。あと、予備のバッテリーも持っている。


 その様子に、ゲートの向こう側に立つ男が反応した。怪訝な顔を浮かべて近付いてくる。そして、タブレットを指さして何事かを言ってくる。

「桜野さん。ひょっとして、これ。『これは何ですか?』って訊かれているんですかね?」

「ああ、そうだと思う。俺も、サラガ……この男と話すとき、よくそんな具合に訊かれたから。あと、その言葉を返すと、大体指さした物を教えてくれるしな」


「な、なんやて~っ!?」

 途端、佐上は両手で頭を抱えて叫んだ。

「桜野はん? 何で、あんた今までそんな大切なこと言わんかったん? それ、すっごい重要なことやで? その一言だけで、どんだけ言葉が分かるようになると思うん?」

 わなわなと肩を震わせ、今にも掴み掛かりそうな形相を浮かべる佐上に、桜野は困惑の表情を浮かべた。


「いや、でも聞かれなかったしなあ」

「そういう問題かいっ! まあ、ええわ。白峰はん、ちょっと翻訳機こっちに渡し? さっきの言葉、登録するさかい」

 そう言って、佐上は白峰の手から翻訳機をひったくり、サラガへと詰め寄った。人差し指を立て「もう一回」。タブレットを指さして「これ、さっき何て言ったか」。パッパッと口の前で手のひらを開閉して「言ってください」。

 その気迫に押されたのか、驚きの表情を浮かべながらも、サラガがもう一度、聞き返してくる。

「よっしゃっ!」

 佐上は歓声を上げた。


「あの。これ、言っておいた方がよかった?」

「まあ、そうですね。教えておいて貰った方が、凄く助かりました」

 白峰は桜野に苦笑を浮かべた。昨日、聞かなかった自分にも、落ち度はあると思うけれど。

 有島へと視線を向けると、彼女はぷいと首を横に背けていた。むしろ、こういう話は彼女が報告すべきものだと思うが。


「ただの雑談など、いちいち聞き耳立てるようなものでもありませんから」

 まあ、そういうことらしい。明らかに防衛上好ましくないような話をしているようならともかく、そうでなければと気にしていなかったと。自身の落ち度を恥じているのか、耳まで真っ赤にしている。「鉄の女」のこの姿は、多分もの凄く貴重だ。


「というか、これ翻訳機なんですか?」

 桜野も翻訳機を指さした。

「せや。うちらが開発した翻訳機や。今はまだ何も覚えていないから、話は出来んけど、これから色々と覚えたら話通じるようになるはずやさかい。期待してや?」

「おお、そいつは凄い。期待してるよ。頑張ってくれ」

「任しとき」

 佐上は親指を立てて、桜野に白い歯を見せた。

 アサとミィレが、ゲートの目の前まで近付いた。白峰は鞄から、今度はスケッチブックとペンを取り出した。

この回とかもそうですが、佐上は動かしやすい&結構美味しい位置にいるよなあと思います。

色々と、オンリーワンの役割を果たして貰うつもりだったというのもありますが。

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