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佐上弥子の素人的な魔法考察の顛末

晴れて病院という名の牢獄から抜け出すことに成功した佐上。

というか、無事に退院した佐上。しかし、後遺症は無いと思っていたら?

 「やっぱり、自室が一番落ち着くなあ」。などと、ベッドの上に寝っ転がり、天井を仰ぎながら、佐上は思った。

 入院していた大学病院からは、早々に退院出来た。仕事にも明日から復帰する予定だ。


 退院間際に、医者からは「何か違和感を感じたら、すぐに連絡を下さい」としつこく言われたが。

 あれは、患者の心配もあるんだろうが、多分に「あわよくば、この機会に何かを発見したい」という功名心めいたものが多分に混じっていた気がする。何というか、熱心すぎる視線が少し恐かった。


 自分が気絶して倒れたことについては、流石に報道されていた。

 異世界の記者達は、淡々と記録めいた内容で記事を書き。海棠もそれに倣う形で、その上で容態が安定していることなど、大事にはならない可能性と、冷静さを喚起するように記事を書いていた。


 一方で、日本のマスコミは少なくない割合で、例の神代遺跡と接触する場合の危険性や、過去の後遺症といった部分を執拗にピックアップして、不安を煽るかのような内容だった。

 確かに、危険性や後遺症も、情報の一面として、事実は事実なのだし。「備えあれば憂い無し」という言葉もあるように、注意喚起した上で何事も無かったというのなら、それはそれで結構。そういう考え方もあるのかも知れない。


 しかし、これはやり過ぎなんちゃうかな。注意喚起どころか、不安を煽って、かえって冷静な判断力を失わせるような報道をして、なにがしたいんやと。

 佐上個人としては、そんな印象を持った。


 「不安」があるから情報が売れる。だから、そのためにもまずは「不安」を売りたいんですよ。などと、月野や海棠から、そんな意見も聞いたが。

 ただまあ、そんな風に不安を煽る方針を採っていたところも、病床の上で、自分が元気にサムズアップして白い歯を見せている記事を海棠が載せると、一気に沈静化したようだった。インタビューで「早いところ退院して、もっとガッツリとしたもん食いたい」と素直に答えたものも、彼女の記事に書いてあったが、それも効いたのだろう。


 親は、自分が目を覚ますまでは色々な報道を見比べて、心配半分、楽観半分といったところのようだったが。声を聞かせると安心したようだった。

「う~ん?」

 寝っ転がったまま、佐上は唸る。


 これでまた、病院送りにされても嫌なのだが。こっちの世界に戻ってきて、何か少し違和感を感じる。

 最初に感じたのは、家に帰って鍵を開けたときのことだ。魔法を使ったときの感覚が、妙にすっきりしている。魔法意思が鮮明になったような、その魔法意思の「問題の無さ」を感じ取れるような。そんな感覚だ。

 鍵だけではない。身の回りにある魔法の道具。そのどれもが、使ってみるとそんな感覚になっている。


 似たような経験が、佐上にはあった。

 入社前は、プログラムなぞ触ったことも無かったわけで。結局、プログラミングは研修やら実際の仕事を通して覚えた。

 それで、最初は何をどうすればいいのかさっぱり分からず、参考書などに載っているソースコードを兎に角真似していた。それを徐々に理屈を理解し、自分の頭にあるものをプログラムに落とし込んで。それが、バグが無く動くと自分の目で見て分かるようになったと実感出来た。


 そんな感覚に、ある意味では今、魔法を使って感じるものが近い。

 そう、言うなれば、身近にある魔法に対して「バグが無い」と、そんなものが分かるような感覚だ。


「下手に、神代遺跡なんちゅう、でっかい魔法に触れてしまったからなんかなあ?」

 これもそうだ。大がかりなシステムの読み解き方を覚えた後に、個別の小さなプログラムを見ると、簡単に見えるようになった。そういう感覚に近い。

 そして実際、朧気ながらに覚えている限り、神代遺跡に触れて頭に広がった魔法意思に比べると、日用品の魔法は酷く規模が小さく、単純なのだ。特に、灯りや炎熱板、冷蔵庫のような、純粋にエネルギーをどうこうするような物ほど、その傾向が強い。


「やっぱり、似ている気がするなあ」

 素人考えと言われたらその通りなのだが。佐上には、魔法とコンピューターが似ているように思えて仕方が無い。違いがあるとすれば、その使用言語と魔法意思。そして、結果の出力先が機械か現象か。そこだ。

 そして、灯りなどの魔法意思は、強いてプログラムで例えるなら、どこかのライブラリにある関数、部品をいくつか呼び出しているだけ。それだけに思える。


「いや、まさかなあ」

 ふと、佐上の脳裏に閃く物があった。

 魔法は、魔法意思という言語を用いて、現象という形で現実世界に結果を出力するものだ。

 では、その出力先が現実世界でなければ、それは魔法意思でなくてもいいのではないだろうか?


 ベッドから降りて、台所へと向かう。

 食器棚から、一枚の皿を手に取った。これは、特別な用途が無いので、何の魔法も施されていない。正真正銘、ただの皿だ。


 佐上は目を閉じて、翻訳機にも使っている言語で、単純なプログラムをイメージしてみた。

 プログラミングの教科書や初心者用サイトで必ずと言っていいほど最初に取り上げられるくらいに、単純な。そんなプログラム。

「え? 嘘やろ?」

 数分後、佐上は全身が冷えるような感覚を覚えた。

嘘予告


学者「ほほぅ、これは実に興味深いサンプルですね」

医者「これは、是非とも頭を開いて脳を調べてみないと」

佐上「嫌ああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」

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