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魔法の道具の作り方

今回は、道具に魔法を施す方法の例というか、その練習を少し。

 ルテシア大学にある、講義室の一つ。

 両世界の学者と、外交官は集まっていた。

 今日は、実際に道具に魔法を施すという体験を行う予定だ。


 魔法を施すというのは、つまりは対象の物体に魔法意思を込めるということだ。それには、まず魔法意思というものが、どのようなものかをイメージ出来るようにならないといけない。

 そして、そのイメージがどのようなものかというと、魔法の道具を使うときに脳内に湧き上がる感覚そのものだ。


 更に言うと、魔法の道具を作るというのは、作業そのものを説明するのは難しくない。その魔法意思を対象の物体に念じて込める。それだけだ。たったそれだけで、その物体は魔法が施された道具となる。

 なので、異世界に来て貰った学者には、何度も魔法を使い、魔法意思というものの感覚を覚えて貰った。


 覚えて貰ったものは、灯りを点ける道具の魔法。これが最も、身近にある中では覚えやすく、また使い道から考えても、覚えておいて損は無い。そういう理由からだ。

 では、誰も彼もがどんな魔法の道具を作れるかというと、そうではない。それぞれの魔法を施すための、専門の職人というものがいる。


 問題は、どれだけ正確に「発動するだけの質を持った魔法意思」をイメージ出来るのか。と、それを何度も対象の物体に念じ込め続けることが必要だということ。

 また、人によって感覚的に魔法意思が掴みにくい。言うなれば向き不向きな魔法もあれば。そもそものイメージそのものが複雑すぎて、習得出来る人間が限られている魔法というものもある。

 なので、様々な魔法を職人として食っていけるほどに習得している人間というものも少ないのだ。日本の義務教育で実施する、技術や家庭科の授業程度には、こちらも学校で教えるのだが。


 しかし、だ。

 白峰は顔をしかめた。隣の席で、月野も唸っている。

 手の中にある立方体を灯りの道具にしようとして、はや数時間が経っている。

 白峰にしてみれば、こちらに来たのは最も早い人間であり、また魔法にも触れてきたという自負がある。灯りの魔法についても、十分に感覚を掴んでいたと思っていたのだが。

 何というか、上手くいっている手応えが無い。


 白峰や月野だけではなく、他にも首を捻ったり眉を寄せては渋面を浮かべている学者もいる。

 その一方で、佐上や海棠の手にあるものは、既に淡い光を発するようになっていた。学者達の中でも、数人はそこまで進んでいるようだ。

 だから、事前の説明が間違っているとか、そんなことはないはずだ。


 どこか、月野に見せつけるように佐上がどや顔を浮かべている。それを月野も見ているのだろう。あからさまにムスッとした表情を浮かべていた。

 ダメだ。月野のように煽られているつもりはないが、焦って集中力や冷静さを失っているかも知れない。

 白峰は大きく溜息を吐いた。


「シラミネとツキノは、苦戦しているみたいね?」

 見上げると、目の前にアサとミィレが立っていた。

「ええまあ、お恥ずかしながら」

 白峰は苦笑を浮かべた。


「そんなにも焦らなくていいと思いますよ? やっぱり、こういうのは初めての経験ですし。これぐらい、時間が掛かる人も少なくないですから」

 ミィレの慰めに、少しホッとする。どうやら、図抜けて出来が悪いという訳でもないようだ。

「これ、何か上手くやれる方法とかあるんでしょうか? あるいは、女性の方が習得に向いている傾向があるとか、そういう話ありませんか?」

 月野の質問に、アサは軽く頬を掻く。


「そうねえ? あまり理屈っぽく考えない人の方が、覚えやすいみたいな話は聞くわね。感覚的に物事を理解する人の方が、向いているらしいわよ?」

「『魔法は考えるより、感じろ』という言葉もありますから。あまり、理屈で考えずに落ち着いてやってみた方が、上手くいくと思いますよ」

 白峰は軽く苦笑を浮かべた。まさか異世界に来て、どこぞの映画にあるような言葉を聞くとは思わなかったのもあるが。


「自分、そんなにも理屈っぽいんですかね?」

 それに対し、ミィレは何とも言えない。困ったような笑みを返してきた。アサも微妙な微笑みを浮かべている。

 ということは、つまりはそういうことらしい。


 となると、学者の多くが苦戦しているのも、納得出来た。感覚派の天才というのもいるだろうが、彼らにしてみればゴリゴリに理屈でものを考えるのが常なのだから。

「あと、魔法意思そのものが少し欠けていたり、余分なものがあったりしても、魔法は起動しませんから。ちょっと、それを貸して貰ってもいいですか?」

「あ、はい。どうぞ」


 ミィレに白峰は、手にしている立方体を渡した。

 彼女はそれを受け取り、目を瞑る。

「灯りを」

 ミィレは意思を伝えた。

 そして、顔をしかめる。


「う~ん。残念ですけど、シラミネさんのものは少しイメージが間違っているみたいです。今から、正しい魔法意思をこれに込めますから、それをなぞるように、魔法意思を込めてみて下さい」

「分かりました。よろしくお願いします」

「ツキノも私に貸して? 確認するから」

 「お願いします」と月野もアサに渡した。


 そして、どうやら彼の場合は、魔法意思は間違っていないが、まだまだ質が悪い。あるいは、ぼやけているという表現になる。そういうことをアサは説明した。

 白峰も無意識にやっていたが、こういう作業はやはり目を瞑って行った方がいいらしい。アサとミィレもまた、それぞれ目を瞑って意識を集中させた。


 ふと、周囲を見渡す。

 どうやら、こうして習得者が魔法意思を確認し、正しいイメージを込めてからそれをなぞっていくというのは、練習方法としては一般的なようだ。

 自分達以外の苦戦していた学者の前でも、ルテシア大学の教授らがアサやミィレと同じような真似をしていた。

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