魔法研究方針報告
先週は都合により、お休みして申し訳ありませんでした。
来週から、またいつものペースに戻ります。
地球側の科学者達が魔法に直に触れた翌日。
白峰と月野は、渡界管理施設の会議室にいた。ちなみに、佐上はセルイに明け方までPCについて訊かれ続けていたのでダウンしているので欠席。海棠はこの場にいても発言出来るだろうことは少なく、むしろ次から次へと、リクエストという形で溜まっていく未執筆記事を消化する方が有意義だろうということで、別室で記事を書いている。
大きなモニターには、桝野が映し出されている。こうして、わざわざ外務省まで直接帰らなくても顔を見せて報告が出来るようになったというのは、何だかんだで気分的に助かる。
流石に、報道関係者に囲まれたり、一般人にでもカメラで写真を撮られたりということは無かったのだが。東京の街中を歩いて、擦れ違う何人かには「あれ?」みたいな顔をされたりはしたものだ。
それもいい加減、ほとぼり冷めるだろうとは思っているが。
「――というわけで、当面はこちらの学者の方達も魔法について徹底的に基礎から学習し、また過去の研究結果についても纏め上げて検証しよう。そういう話が出てきました。こちらから持ち込みを要望していたものとして、サーモグラフィーや電流計など、諸々の計測機器はありましたし、ノートPCなんかも要望にはありましたが。もう少し、性能のいいPCも必要になりそうです」
「性能が良いって、どれくらいだ? 流石に、スパコンを持ち込めというのは無理だぞ? そんな事言っているつもりもないんだろうが」
「そうですね。そこは、後で科学者の皆さんとまた確認します。ただ、現実的なところを考えるに、市販で買える超ハイエンドのPC部品を使った。数百万円から一千万円程度のものを用意するくらいの対応は、必要になるかも知れません」
白峰の報告に桝野は唸った。
「まあ、それくらいなら、何とかなるか。買うとしたら、秋葉原ならそういう部品も在庫の奥に一つや二つはあるだろうし。んで、具体的にどう使うのかは? それもまた、先生達には要確認といった具合か?」
「そうですね。システム工学についても知識のある先生達が、そこは主導権を持つ形になるんでしょうけれど。データベースをどう設計するか、各がやってみたい集計やシミュレーションをどのように、個々人の自由性を持たせて実現させるか? とか、彼らの間でも調整しないといけないことが山積みになるかと。まとまるのが、何日かかるのかは、分かりませんが」
桝野は眉根を寄せる。
「出来れば、しばらくは悩んでいて貰いてえな。何でもかんでも、ポンポンと用意出来ると思われちゃこっちも困るんだが」
そのぼやきには、月野が答えた。
「それは流石に大丈夫でしょう。先ほども報告致しましたが、魔法について理解することがまず、当面の最優先事項となります。それに、既に立てられた計画に従って、計測機器を使った上での魔法の観測もあるので。それらの結果が纏まらない限りは、システムをどうするという話も、手が出せないでしょう」
「まあ、それもそうか」
コツコツと、桝野は机の上を人差し指で叩く。
それで、どれくらいの日数が必要になるのか、何となく考えているのかも知れない。
「あと、確か魔法の道具の作製についての見学。それと、神代遺跡って呼んでいるのか? ゲートを発生させていると思われるブツについても調べる予定が続いているんだっけな」
「その通りです」と、白峰と月野は頷く。
「分かった。引き続き、学者先生方の進捗については今後も報告を頼む。他には何かあるか?」
白峰は手を挙げた。
「あちらで過去に文献としてまとめられた実験データですが、こちらにも持ち込んでwikiの様な形で取り込むということは可能でしょうか? 異世界に来てくれた先生方にしてみれば、考察というよりも作業に近い上に量が多そうですし。夏休みシーズンの間はバイトの学生に手伝って貰いましたが、その要領であれば誰でも出来るものだと思います。また、世界中の学者にも情報は共有出来ますから」
「そうだな。あちらに行くのに、選ばれた先生以外にとっても、そういうデータは共有して欲しいだろうし、またそこからアイデアが出る可能性も大いにある。実現した方がいいな。学生のバイトはもうほとんどいないが、代わりに雇っているパートの主婦や定年退職して数年程度の人達を増やせば可能だろう。俺からも提案しておく」
「有り難うございます」
月野も続いて手を挙げる。
「ノルエルクの外交官代表として来られているセルイさんなのですが。PCについて強い興味を持ちまして。購入出来ないかと質問されました」
「PCの購入?」
月野は頷く。
「事務仕事にも使っている道具であると伝えたところ、その有用性に惹かれたようです。何分、我々がこうしてPCで報告書を纏めるだけでも一仕事な状況で、彼らが報告書をまとめるのにどれだけ苦労して、また情報を取捨選択しているのかを考えれば、その気持ちも分かる気はします」
「ああ、そういやあっちはタイプライターもどきの道具を使っているっていう話だったな」
ボリボリと、桝野は頭を掻いた。
「しかし、あれだぞ? OSやキーボードをどうするにしても、こっちの世界の言語でしか仕事出来ないと思うんだが。それでもいいのか?」
「購入自体に、問題は無いということでしょうか?」
「念のため、こっちでも確認はするが、制限する必要はねえだろうな。というか、既にこっちに来た異世界のマスコミも興味津々だ。そりゃそうだ。少し気になるキーワードを入れて検索すれば、知りたいことが調べられるんだからな。夏から編集されたwikiを見比べながら、色々と調べているらしい」
「それもまた、凄いですね」
「まったくだ」
知的好奇心の強い人間にとっては、未知ほど面白いものは無い。そういう事なのかも知れない。そしてその気持ちは、白峰にも多少は分かるつもりだ。学者先生には、負けるのだろうと思うが。
「となると、異世界の人達用の言語パッチやキーボードの開発。みたいなもんも必要になるのかも知れねえな」
「今は当面、開発しても採算が取れないと思うので、どこかやっている企業があるか怪しいとは思いますけどね」
「確かになあ」
白峰と桝野は、二人して肩を竦める。
「それについてなのですが」
「あん?」
月野の声に、桝野が小首を傾げた。
「どうも、佐上さんによると柴村技研が既に動いていて、ある程度なら何とかなるかも知れないみたいな事を仰っていました」
「マジか?」
呆気にとられたような表情を浮かべる桝野に対し、月野は大きく頷いた。
柴村技研&塚原最先端製作所「こんな事もあろうかと!」




