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異世界のスマホ事情。あと、出会いを求めるのは間違っとるんか?

ようやく、異世界にもスマホが開通したようです。

 にちゃあ。と、佐上は唇を大きく歪めた。

 自宅のベッドの上、スマホを手に笑みを浮かべる。

 とうとう、この日が来たのだ。


 異世界の渡界管理施設にスマホの中継器が設置された。そして、早々にスマホが使えるかどうかを実験したところ、通信可能という結果が出た。月野が白峰に電話してみたのだが、ばっちり会話出来ていた。

 これを以て、異世界にもスマホの持ち込みが許可される事となった。


 ただ、詳しいことは分からないが、無くすとかなり大事になるということで。後日に失せ物探知に使う魔法を施すという話だった。ちなみに翻訳機も、既にそういう処置は施されている。

 この魔法では、「探知元」と「探知先」のセットを用意する。そして、「探知先」が無くなった場合は、「探知元」を使い、対応する「探知先」の位置を特定する。


 佐上は実際に試したことは無いのだが、白峰の説明によるとかなりの遠距離まで探知が可能だそうだ。

 この魔法は重要品の失せ物だけではなく、場所の特定にも使われるので、飛空士や船乗りのような職業の人間には馴染みが深い。白峰はクムハから、王都の場所を示す「探知元」を使わせて貰ったが、方向がはっきりと分かったそうな。


 魔法を使った感覚は、例えば空に星が一つだけあるとする。その星のある場所が、「探知先」となる。そういうものだそうだ。勿論、近付くとその距離の近さもはっきりと分かるようになると。

 しかし、そんなことは関係ない。これで自宅で堂々と、皇剣乱ブレードが出来るようになる。それが大事なのだ。これまでも昼休みや通勤時間に、こそこそとプレイしていたが、もうそんな真似をしなくてもいい訳である。


 ちなみに、どうもまだ記者会見でのやらかしが尾を引いているのもあり、外務省まではタクシーを使っている。白峰には色々と言ったことがあるが、結局自分もこうしてタクシーを使い続けることになるというのは、何だか釈然としない。

 ともあれ、スマホが繋がるようになったことで、まずはやることが一つ。

 佐上はスマホの中にある電話帳を開いた。その中にある電話番号を一つ選ぶ。電話相手は、すぐに繋がった。


「あ、もしもしおかん? うちやうち」

『もしもし。弥子ちゃん?』

「せやでー。今日、異世界でもゲートの近くならスマホが使えるようになってん。せやから、それについての電話や」


『あら、そうなん。へえ、本当に異世界なん? 普通に聞こえるわ』

「ああ、言われてみるとそうやなあ。大したもんやわ」

 実際、久しぶりに聞く母の声は、これまでと何も変わりが無い。


『そっちでの生活はどうなん? 食べるものきちんと食べとるの?』

「うん。大丈夫やで。レシピはよう分からんから、買ってきたもん適当に焼いたり、それっぽく煮たりしているけど、そんなんでも結構美味い。あと、白峰はんも言うとったけど、実際飯は美味いわ」

『そうなん? いいわねえ』


「ただ、トイレ事情はちょっと抵抗あるけどな。まあ、田舎のトイレもあんな感じやし、使えるだけええかと思う」

『そこら辺は、外務省のwikiでも記事になっとったわ。その記事も海棠さんって子が書いたの?』

「せやで。他にもうちらがどんな仕事しとるかとか、記事にしとるわ」


『ああいうのを見たら、うちも安心するわ。あんたら、真面目に仕事しとるんやなあって。あと、異世界についての情報も分かりやすいし。うちも、最初は外務省とか堅苦しくてよう分からんとか思っとったけど、あの記事は楽しみに見るようになったわ』

「そうなん? んじゃあそれ、海棠はんにも言うておくわ。きっと喜ぶと思うで?」


『そうね。よろしく言っておいて。でも、あれよねえ』

「何や?」

『最初から、こんな風に情報発信してくれていたら、マスコミのあんな騒ぎも起きなかったんちゃうの? って』

 自分達の活動が記事を通して発信されるにつれて、正当性が国民に伝わり、その評価を以てマスコミによる粗探しは沈静化の傾向にある。


「んー。まあ、そうかも知れんけど。それはなあ、あのときはそういう問題、見えてなかったからなあ」

『その点、今はいいわよねえ。リクエストにも応じて貰えるみたいだし』

「あまりにもじゃんじゃん来るから、海棠はん大忙しやけどな。燃えてもいるけど」

 ついでに言うと、多すぎて捌き切れていない。それでも、注目度の高そうなものから記事にしているので、それ程不満は出ていないようだが。


『あらあら、大変ねえ。気を付けて見てあげなさいよ? 弥子ちゃんの方が、お姉さんなんでしょ?』

「うん。まあ、あの子しっかりしているけど、潰れないか気を付けとくわ」

『あと、ちょっと気になったんやけど』

「何や?」


『もしもなんやけど。弥子ちゃんがそっちに住んで、異世界の人の恋人とか出来たとするじゃない? そうしたら、結婚とかどうなるん?』

 思わずむせた。


『大丈夫? 弥子ちゃん?』

 呼吸を整える。

「いきなり何をアホなこと訊くんやっ!?」

『ええ? だって親としては気になるじゃない? 異世界に出会いとか無いのとかそういう話。誰か、おらんの?』


 佐上は溜息を吐いた。

「おらんわ。無いわ。そんな出会い。うちがこっち来て、どんだけやと思っとるんや?」

 実を言うと、僅かな間とはいえときめいた事はあったのだが。

「ちなみに、そういう真似は避けた方がいいって月野はんも言うとったで」

『そうなん?』


「個人個人の感情の問題やから、禁止することは出来ない言うとったけど。まだ国交が樹立されとるわけやないし、そこら辺の取り決めするのもまだまだ時間かかりそうや言うとったわ。何か問題起きたときは、どうなるか分からんから、相当に覚悟しないとお付き合い出来る状況やないらしい」

『あら、そうなんか』

「それに、子供が出来るかどうかも分からんしなあ。今度のゲノム解析で、結果はっきりするんやろうけど」


『なるほどねえ。じゃあ、弥子ちゃんが異世界の人と結婚とか、そんな可能性は無さそうって事でいいのかしら?』

 しばし、佐上は虚空を見上げた。


「無いんとちゃうかなあ? 実際問題、どうなるんかは分からんけど」

『そうなのね。それなら、少し安心したわ』

「安心て?」

『んー? 別に弥子ちゃんが選んだ人なら、反対する気は無いんやけど。もしも、異世界の人と結婚するって言ってきたら、うちらどうすればえんやろって、ちょっと心配になったのよ』


「色々と、気が早すぎやせんか?」

『それもそうなんやけどね』

 母親の笑い声が聞こえた。

『でも、本当に誰か連れてきて欲しい気もするわ』

 母親の大仰な溜息に、佐上は顔をしかめた。とっとと話を切り上げることにする。


「あー、ところでそっちは何か変わったことある?」

『無いわね。ご近所さんがあれこれと訊いてくるのは相変わらずやけど、そんだけやわ』

「そっか。そりゃよかったわ」

 その報告に、佐上は安堵する。


「んじゃあ、何も無いようやったら、うちはこれで切るで」

『ええよ。それじゃあね。おやすみ』

 ぷつりと、通話が途切れた。

 ふと、天井を見上げる。


 実際、自分はそこまで深く考えていなかった。しかし、親も異世界の人とのお付き合いや結婚については心配していた。

「ひょっとして、あのアホ。あれで、うちのことを心配したつもりやったちゅうことなんかな?」


 昼間の月野との会話を思い出す。

 だとしても、あの言い方は無いよなあと、佐上は唸ったが。

 取りあえず、皇剣乱ブレードのページを開くことにするけれど。

次回も、ゲノム全然関係ない話になりそう(汗)

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