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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【ファーストコンタクト編】
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月の間の報告会(2)

前回に引き続いて、報告会。

今度は、お屋敷にいた人達からの報告。


 気が付けば、疲れも忘れてアサは結構な時間を話し続けていたことに思い至る。それだけ、あの世界での体験は衝撃的だったということだ。

「――とまあ、私の方の話はこんなところね。長く話してしまって、悪かったわね」

「いえ、いずれも今後を考える上で大切な話かと存じます。小さなことでも漏らさずに記憶され、また観察されるお嬢様の働き、このティケア感服いたしました。旦那様も奥方様も、聞けば喜ばしく思われることでしょう」

「そう? ティケアにそう言って貰えるなら、ちょっと自信が付くわね」


 子供の頃は、この辛口の家令には散々に泣かされたものだった。だが、厳しく言われながらも、彼の指導で少しずつ成長できたと思っている。その彼が、こう言ってくれるというのは、感慨深いものだとアサは思った。

「じゃあ、次はあなた達の話を聞かせてくれる? あの折衝役、ティケアとミィレから見てどうだった?」

「はい、ではまず私から。最初に出迎えたのが私でしたので」

 よろしく頼む。と、アサはミィレに頷いた。


「名前ですが、シラミネ=コウタで間違いないと思います。私が名乗ったのに続いて、彼自身が自分の胸に手を当ててそう名乗りました。また、その名前で反応しましたし」

「ですな。私の自己紹介の時も、シラミネ=コウタという言葉から始めていましたから」

「あなた達の名前は、覚えてもらえたのですか?」

「覚えてもらったと思います。会談の合間合間で、何度かシラミネ=コウタからも呼びかけがありましたし」

 シヨイからの問いかけに、ミィレは応えた。


「言葉の習得センスは悪くなさそうね」

「物怖じする性格でもなさそうですな。星群の間に入って、気圧される様子も見せず、むしろ笑みを浮かべてきました。おそらくは、あの部屋の意味するところすべてを理解した上で。です」

「その笑みは、侮蔑的なものでしたか?」

「いえ、そのようなことはありませんな。ただ、どちらかといえば挑戦的な色を出していました。戦場で先駆けることを誉とする者の類が浮かべる笑みです」

「そうですね。何だか、お嬢様を見ているようでした。あちらの折衝役も、そういう教育を受けているっていうことなんでしょうか?」

「そうね。その可能性は高そうね」

 あと、気になるのはその教育レベルというのが、全体としてどの程度の高さなのだろうかということだけれど。それもまたおいおい、探りを入れることにしよう。


「あと、お嬢様に似ているといえば、小さなことから観察と考察されるのも、多分そうです。こちらに来るまで、市中を馬車の中から食い入るように見て、色々と考え込んでいるようでしたから」

 「こ~んなに眉間に皺寄せて」と、ミィレが両手の人差し指を眉の上に乗せ、眉間を差した。それを見て、アサは「そんなことない」と唇を尖らせて見せた。

 それを見て、ミィレがくすりと笑う。昔から、こうやって彼女は自分をからかうのだ。親しみが込められていることは理解しているので、腹も立たないのだけれど。


「それと、これは私の勘ですけれど。誠実そうな人に見えましたね。腹黒く色々と企めるような人には見えませんでした」

「勘ねえ? まあ、ミィレの勘は当たるから、疑わないけど。もうちょっと何か無いの?」

「そうですね。強いて挙げれば、笑顔が自然だったからでしょうか? さっきは、こちらに来るときに彼が馬車の中から市中を見ていたって言いましたけど。そのとき、緊張しているのかなって思って、呼びかけたんです。そのとき、振り返った笑顔がそんな感じでした。『お気遣いなく』って言っているかのように、少し気恥ずかしそうな感じで。それだけなのですが、素直な人だと思いますよ?」

 なるほど。と、アサは思った。ティケアも何も言わないあたり、彼もその人物評には異論が無いようだ。


「ここで彼がした話は、お嬢様があちらでの会見と診断の後のものとおおむね同じかと。あの世界の星球儀と、地図と思われる本を置いて行きました。これらを使って、話をしていました」

 地図を纏めた本は二冊置いてあった。一つは星単位でまとめ、国境単位で分けたと思われるもの。もう一つはあのゲートが繋がった島のものだ。

「話の内容は、お嬢様があちらで受けた説明と違いは無いと思われます。ゲートが繋がった世界の星は、このような姿をしており、そしてそのゲートが繋がった国はこの、赤く塗りつぶされた弓状の島。そしてその街はこの、折れ曲がった半島の根元付近にあると」

 ティケアは星球儀を指差し、続いて地図を指差してそう説明した。


「そうね。その説明に違いは無いわ」

 アサは頷く。

「こちらからは、地図の情報は提示したの?」

「しています。包み隠さず正確なものを。縮尺については、どう説明したものか難しいので、省略させて貰いましたが。あちらが用意した白紙の紙に書いて、渡しています。シラミネ=コウタはそれを持ち帰っています」

「ええ、それでいいわ。少なくとも、これでこちらも正直に情報を提示しているということは言えるもの」


 あちらで問われた際、アサも同様に地図を描いて伝えている。外交上、まずは信頼を築くことが何よりも大切だと教わっているからだ。信頼のない相手とは、一切の交渉が成り立たない。

 軍事、ということを考えれば危険ではあるがどうせ手書きだ。縮尺も不明で、正確な情報にはならないのでその点、さしたる意味も無い。


「食べ物については、どうでしたか? お口に合ったようならいいのですが」

 シヨイが訊ねてくる。

「大変満足していたようですよ。侍女長殿。それと、箸も上手に使っていました。お嬢様に用意された食事にも箸が用意されていたという話ですから、文化的には意外と共通点が多いのかも知れませんな」

 あるいは、だからこそゲートはあの場所を繋ぐ先に選んだのだろうか? ふと、アサはそんなことを思った。それを確認する方法は一切無いのだが。


「私の見様見真似もしながらという感じでしたが、食べ方もおかしなところはありませんでしたね。多少の流儀は違うものの、何らかの美意識に沿った食べ方をしているという印象でした」

「服装もそうだけれど、どのような歴史を辿ってきたのか、興味が湧くわね」

「今度は、そこを訊いてみましょうか?」

「言葉が通じるようならね。まあ、訊かなくても、あちらが私に説明してくれるような気もするけれど」


 本当に、興味が尽きない世界、興味のつかない世界だと思う。言葉が通じないのがもどかしい。

「では、今度は私達の歴史を彼に説明することを検討しましょうか?」

「そうね。あと、何とかしてまずは言葉が分かるようにしたいわね」

 問題は、まだまだ山積みだ。

 けれど、この現実を前にして、、アサはどこか面白いと感じている自分に気付いた。これも、父と母から受け継いだ血のせいなのだろうかとか、そんなことを思う。

地味に、ミィレの存在感が上がっている気がしてならない。

最初は名無しのモブで一回使い捨てのはずだったのに、本当に使い勝手がいい美味しい役どころになったと思う。

次回で、ファーストコンタクト編は終わりです。

その次から新章となります。

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