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見栄と料理(2)

今週は二話投稿。その二話目です。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

【エスニックジョーク】


『アルミラとイシュテンの間で戦争が起きない理由』


 アルミラとイシュテンの間で、戦争が起きる事は無いと言われている。

 その理由は三つ。

 一つ目は、間にミルレンシアを挟んでいるため。

 二つ目は、アルミラの飯が不味いため。

 三つ目は、イシュテンの国土が広いため。


『もしも、アルミラにイシュテンが侵攻したら?』


 イシュテンが負ける。

 何故なら、アルミラの飯の不味さに、イシュテン人は耐えられず、また補給が続かない。

 飢えたイシュテン人でも、箸を投げ出して逃げる。

 ※そもそも、アルミラは地形的、歴史的に持久防衛戦に長けているので、イシュテンならずとも攻略は困難。


『もしも、イシュテンにアルミラが侵攻したら?』


 アルミラが負ける。

 何故なら、イシュテンの国土が広すぎて、引きこもり体質のアルミラ人の体力が続かない。


『もしも、アルミラとイシュテンの間で戦争が起きるとしたら?』


 アルミラの食の改善にイシュテンが挑んだとき。

 両者の食に対する意識の隔たりは果てしなく深く、埋めようが無い。

 争いとは、価値観を共有出来ない存在同士の間で起きるものである。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 これは、白峰が料理が苦手だと白状する一日前の出来事の話である。

 「あなたは、世界を滅ぼす気ですか?」。そんな台詞が、思わず喉から出かかった。何とか、アサは堪えたが。


 屋敷の厨房にて。

 懇親会で、それぞれの国の手料理を持ち寄ろう。アサによる提案は通るには通った。しかし、一つ条件が出される事になった。


 「各国の料理を異世界の人達に振る舞った場合に、悪印象を与えない事を保証する事」という話だ。まあ、本音は「アルミラの料理は不安だから、君ちゃんと確認して、何かあったらイシュテンが責任取ってよね?」という話である。

 無論、外交的に角を落とした表現でも、本音はきっちりと読み取れるので、ディクス=レハン、つまりはアルミラの外交代表も苦笑を浮かべていた。結構悔しかったのか、「一週間後を楽しみにして貰いましょう。本物のアルミラ料理というものを見せてあげますよ」などとも言っていたが。


 今、アサの目の前には彼ご自慢のアルミラ料理が並んでいる。

 一つは、乾燥させた野菜や果物、肉を細かく刻んで、動物の脂に混ぜて固めたものだ。アルミラの有名な伝統料理である。山岳地帯が多く、また気候も厳しいアルミラでは、このような保存性重視の料理が多い。

 もう一つは、これまた乾燥させた色々な食材を細かく刻んで、ぐずぐずになるまで煮込み、そこに酢を初めとした調味料をこれでもかとぶち込んだ代物である。

 ねちょっ、どろっ、としたスープ(?)は見た目も匂いも、胃の内容物を再現したものにしか思えない。栄養は、あるのだろうけれど。


 隣に立つティケアを見た。彼は無表情だった。ミィレを見ると、頬が引き攣っている。

 続いて、ディクスへと視線を戻す。何故か、彼は得意満面の表情だった。何でこんな笑顔が出来るんだと。


「如何ですか?」

「ええと、驚きました」

 そりゃもう、最悪の意味で。

 世界は広い。自分はまだ、国際社会というものを何も理解出来ていなかったのだと、アサは深く思い知った。知識では聞かされていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。それが、実際に目の当たりにすると、認識は甘かったとしか言いようが無い。


「さあ、まずは一口」

 これを食えと?

 ディクスに促され、まずは見た目がマシな脂の塊を箸でつまみ、口に入れる。

 仄かに野菜や果物の甘みはあるものの、ほとんど味はしない。というか、まさに脂である。


 ティケアは匙でスープ(?)を掬って口に入れた。無表情だが、唇が震えていた。この提案をしたと伝えたとき、かなり不安な表情を浮かべてきた彼だったのだが。後でちゃんと謝っておこう。


「さて、まずはこの――」

 ディクスが胸を反らして料理の解説を始める。

 これらの料理が生まれた歴史。美味しく(?)作るためと言いつつ、その実食材の美味さを念入りに殺す過程としか思えない料理方法。栄養のバランスと学術的根拠。そんなことを話してくるのだが。

 まったく、アサの耳には届かなかった。


 これはこのままでシラミネ達の前に出す事は出来ない。さて、どうやって、アルミラのプライドを傷つけずにこれらの料理を人前に出しても大丈夫な代物に持って行けるよう、交渉すべきだろうか? というか、どう言い出せばいいだろうか?

 アルミラ人の学術解説は長い。このまま話をさせると、いつまでも話してくれる事だろう。

 まあ、これはこれで、どう話を切り出せばいいのかと考える時間が稼げて好都合だと、そんな風にも思えるのだが。


 そして、たっぷりと時間を掛け、言葉を選んだのだが、それでもディクスは納得出来なかったようで。

 結局、夜中過ぎまで言い争い、妥協点を模索し、翌日から料理の特訓をすることとなったのだった。

アルミラ料理の参考。

ペミカン(そのまんま)。

それと、イギリス人がよくやるらしい、野菜のぐずぐず煮込み。その、しもつかれ風。

なお、例によってこれらはちゃんと試せてはいないのですが。ペミカンはともかく、後者は試してはいけないと思う。

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