懇親会の提案
今回から新章です。
引き続き、異世界生活についての説明とかそんな感じで。
予め貰っていたアポの時間通り、白峰はアサの邸宅を訪れた。
要件、というほどの話でもないのだが、互いのスケジュールの確認のためだ。異世界の各国の外交官達も到着したので、そこから次のステージの交流を仕切り直すのだが、それを具体的にどうやって? いつから? といった調整はしなくてはいけない。
星群の間で、アサと向き合って座る。アサの両脇にはティケアとミィレが着席していた。
「シラミネ。そちらの引っ越しは、終わったのかしら?」
「そうですね。大体終わりました。少なくとも、自分は片付きました。他の人達はもう少し作業が残っているようですが、それも概ね片付いているようです」
「なら、シラミネ達の予定は、当分は空いている。そういう風に考えてもいいのかしら?」
「そうですね。そのように考えていただいて問題ありません。ただ、明日の午後は一度全員が日本に戻って、ここで話した内容を伝えますから。その間だけ、時間は取れません」
ちなみに、月野は今は報告のために日本へと戻っている。夕方にはこちらに戻ってくる予定だが。
佐上と海棠の行動は自由だ。とは言っても、出来ればイシュテン語の勉強やクオン町の散策など、こちらでの生活に慣れる行動をして欲しいと伝えている。
「分かったわ。ところで、日本はここに領事館のようなものを用意する予定は無いのかしら?」
「当面のところ、そのような予定はありませんね。まだ正式に国交を樹立したわけでもないのに、領事館を置くというのもおかしな話ですし。それに、日本からこちらに来る人達というのも限られています。我々が集まる場所としては、現在建設中の渡界管理施設で十分だろうという認識です」
「それもそうね」
「ただまあ、渡界管理施設以外で集まる場所が必要となれば、月野さんの部屋に集まろうという話になってます。あの人、そのために広めの部屋を借りたようなので」
「分かったわ」
外務省から予算が出ている以上、白峰達の部屋も、正式には外務省のものということになるのだが。場合によっては、月野の部屋がそのまま日本の領事館にされてしまうのかも知れない。
どうも、月野はそこまで考えていた節がある。
「ところで、そのような質問をされるという事は、こちらに来た人達は領事館のような物を設置する予定だと。そういうことでしょうか?」
アサは頷いた。
「そうね。こちらも国交を樹立したわけでもないのに、いきなりそちらに領事館を設置するというのはちょっと筋が通らないと考えているわ。けれど、マスコミ関係者とか学者とか、結構な人数が日本に行きたがっていることもあるから。そういう人達をそれぞれの国として面倒見ないといけないから。だから、そこまで大きくはないけれど、領事館のような仕事をするところを用意するみたい。あと、イシュテンはこの屋敷がその役割を果たす事になるわ」
「分かりました」
ちらりと、白峰はティケアの様子を見た。無表情だが、心なしか機嫌がいいような気がする。どう考えても、仕事と責任が増えて大変な事になると思うのだが。これからの大仕事に、胸が躍っているのだろうか? ふと、そんな気がした。
視線をアサへと戻す。
「こちらに来て頂いた、マスコミ関係者や学者の方々、ほぼ全員が日本での居住を希望された件ですが。正式な回答は、明日には自分達にも伝えられると思います。皆さん、好奇心旺盛ですよね。ただ、あまりにも人数が多いので、体制を整えて段階的に行っていきたいという具合ですね」
「受け入れ拒否ということはないのね?」
白峰は頷いた。
「はい。興味を持って頂けるのは、こちらにとっても有り難いですから」
「その、具体的な受け入れ方法みたいなものは、明日伝えられる。そういうことかしら?」
「そうなります」
「分かったわ。それなら、明後日にこちらに来て私達に教えてくれないかしら、そうしたら私から各国に伝えるわ」
「分かりました。よろしくお願いします」
白峰は頭を下げた。
「ところで、こちらに来られた各国の外交官の方も、今は引っ越し作業中だと思いますが。そちらはどのような具合でしょうか?」
「うーん。さっきも言ったけれど、領事館に相当する場所を用意しようとしているのもあるから、少し時間が掛かりそうね。でも、一週間くらいで落ち着くと思う」
「一週間くらいですか。分かりました」
「それで、詳しいスケジュールは調整しないといけないんだけれど。お互いの国の事を知るためにも、私達で懇親会を開きたいと思っているの。どうかしら?」
「懇親会ですか。いいですね。ですがそれは、そちらの外交官の方達もご存じの話なのですか?」
「ええ。もう知っているわ。何しろ、私達が互いに自己紹介したときに出てきた話ですもの」
「そうなんですね。では、場所はどちらですか?」
「この屋敷で開こうと思っているわ」
「分かりました」
「それでね? 各国がそれぞれの国の一般的な料理を出し合おうと考えているんだけれど。どうかしら?」
にっこりと、アサが笑みを浮かべた。
「それはいい考えだと思います。料理を通じて、お互いの国の事がよく分かるかと思います」
「でしょう?」
うんうんと、満足げにアサは頷いた。ひょっとしたら、彼女の提案だったのかも知れない。
"それでね? シラミネにも何か作って欲しいのよ"
ギクリと、白峰の心臓が跳ね上がった。
瞬間、アサとミィレの視線を強く意識する。二人とも、期待に満ちている。
白峰は咳払いをした。気を取り直して、質問する。
「わ、分かりました。ご期待に添えるか分かりませんが、持ち帰って検討します。希望する料理とか、ありますか?」
「カレーとニクジャガね。ニクジャガはサガミから教えて貰って作った事はあるんだけれど。そのときにカレーも簡単に作れるって聞いたわ。それに、とても一般的で国民にも人気があるって」
「そうですね。確かに、その料理は二つとも難しくはないですし、好きな日本人も多い料理です。材料もほとんど流用出来ますし」
「じゃあ、決まりね。ミィレと一緒に行った事あるそうだけれど、クムハの夫もその料理には興味あるから、作り方教えて欲しいのよ。よろしくお願いね」
「はい、分かりました」
白峰はにこやかな笑顔を返した。
背中には、冷たい汗が流れていたが。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【異世界ジョーク集:異世界と情報収集の優先度】
※各国の特徴については、40話の【外伝的小話】異世界ジョーク集を参考にして下さい。
異世界と世界が繋がったときの事。
異世界について、まず何から情報を集めるべきか各国の外交官は話し合った。
アルミラ「学術だろう。互いの世界の文明レベルを知らないことには、何を学び何を教えなければならないのか、話にならない」
シルディーヌ「芸術に決まっている。芸術こそ、その土地の人間性が最も如実に表現されるものだ。芸術を通じて、人は互いの精神の奥深くまで知り合う事が出来る」
ティレント「建築やインフラ。そしてその歴史だ。それらを知る事で、その土地がどんな土地でそこに生きる人達がどのように生きてきたのかを知る事が出来る」
ノルエルク「法と経済でしょう。それを知らなければ、どのように交易をすればよいのか。そもそも交易が可能なのか分からない」
イシュテン「食材と料理です。生きるという事は食べるという事。食を通じてこそ、その土地と人々の生活が分かります」
激しく言い争う各国の代表。
ミルレンシア「それじゃあ、各国はタイミングを見計らって、それぞれが重要と考える情報収集を担当するということでお願いします。私は適宜、優先度を決めてリソースを配分しますから」
何か、そんな感じで話は纏まった。
大使館と領事館の違いをわかりやすく解説
https://elite-lane.com/embassy-legation-consulate/
大使館と領事館の違いは、上記のサイトが分かりやすいですね。
抜粋すると、以下のような感じ。
大使館:接受国へ外交使節が外交のために使う施設
領事館:外交の為ではなく、自国(派遣国)民のための施設




