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この異世界によろしく -機械の世界と魔法の世界の外交録-  作者: 漆沢刀也
【異世界生活開始編】
103/279

異世界飲みニケーション(2)

ちょっと、各キャラ達の過去話を。

 テーブルの上に、注文した料理と酒が並ぶ。

「それじゃあ、ごゆっくりどうぞ。ほら、シィノもこっちに来て」

 料理を運んできたクムハとシィノが、手を振って店の奥へと消えていった。

「いやお前、そんなに落ち込まんでもいいやんか? 泣くなや?」


「別に、泣いていませんが? 相手は子供ですし、気にしていませんよ?」

 平静に言ってくる月野。

 しかしそうは言っても、ショックは隠しきれないようだ。無表情を装いつつも、声に少し張りが無い。顔もうつむき気味な気がする。


「まあ、折角料理も揃ったことですし。乾杯にしませんか?」

「それもそうですね」

 各自、グラスを手にした。女性陣は果実酒系のもの。月野と白峰は米の酒を頼んでいる。

『かんぱ~い』

 グラスを合わせて、酒を口にした。美味い。


「そういえば、さっきクムハさんも言っていましたが、こちらの世界の外交官や学者の人達もここに到着したんですね」

「そうですね。どんな人達なんでしょうか?」

「近々、顔合わせの席を用意して貰う事にはなるようですが。明日にでもアサさんのところに行って、訊いてみますか」

「分かりました」

 月野の言葉に、白峰は頷く。


「おいお前ら、こんな席でいきなり仕事を持ち込むなや? もっと別の話題とか無いんか?」

「うーん、そうですね。じゃあ、皆さんって引っ越し作業はどんな感じです? もう、片付きました?」

「私は、まだもう少し掛かりそうです」

「うちもやなあ。色々と買い足しに行かないといかんもん。あったわ」


「私もですね。家具の配置は終わりましたが、色々と仕舞うのに時間が掛かりそうです。白峰君はどうですか?」

「自分は、それほど物を置かないので、ほとんど終わりました」

 鶏の唐揚げをつまむ。これも、少しほろ苦い、不思議な味付けだが美味い。


「あの。折角こういう場なので、私色々と突っ込んだことを皆さんに訊いてみたいんですけど、いいですか?」

「内容にもよりますが、私は構いませんよ?」

「うちもや」

「自分もです」

 やったあと、海棠は表情を輝かせてくる。


「皆さんって何で今の職業を選んだんですか? 私、ついこないだまで、ただの雑誌記者だったから、こういう仕事をしている人達って凄いなあって、興味があって」

 照れくさそうに、彼女は笑う。

 しかし、どう答えたものか。白峰は苦笑を浮かべた。月野や佐上も同様だった。


「いえ? 私達も、恐らくあなたと同じですよ? 自分なりに興味がある仕事に就いたら、たまたまこうなったというだけで」

「それでもです!」

 ぐっと両手に力を込めて、海棠は言ってきた。


「じゃあ、逆に訊きますが。海棠さんはどうして記者を目指されたんですか? 異世界に強く興味を持ったというのは、私は聞きましたけど」

「あ、そうですね。訊くのなら、まずは自分からですね」

 海棠は頷く。


「切っ掛けは、そんなに大した話じゃないんですけど。私って昔から色々とニュースとか噂話とか好きな方だったみたいで。いつもあっちこっちから話を拾って回っていたんです。決して、言いふらしたりとかはしませんでしたけど。両親からも言われていましたし」

「せやな。言いふらすのはよくないな」


「それで、ちょっと隠れた美味しい料理のお店とか、あまり知られていなかったけれど面白かった漫画とか小説とかゲームとか。そういうのはしょっちゅう友達に勧めていたんですね?」

 なるほどと、白峰達は頷いた。


「そんなある日、友達に言われたんです。『いつもいいこと教えてくれてありがとう』って。その時思ったんですよ。情報には人を幸せにする力があるんだって。だから、そんな風に情報を人々に伝えて、色んな人を幸せに出来たらいいなって。恥ずかしい話ですけど。異世界に興味を持ったのも、異世界の情報を伝えることで、二つの世界にとって少しでも助けになるかもと思ったからで」

 海棠の話を聞いた面々から、感嘆の声が漏れた。

「いや、いい話だと思いますよ」

 月野の言葉に、白峰や佐上も同意する。


「立派やなあ。せやけど、うちは実を言うと、そんな立派な話って無いんや」

「えー? そうなんですか?」

 佐上は頷く。


「うちなあ、実を言うと英語とか全然分からへんねん。いっつも赤点ギリギリばっかりやったんや。正直言って、イシュテン語も皇共語も分かるようになるかというと、自信無いわ」

「それでも、来てくれたんですか?」

「ま、仕事やからな」

 グビッと佐上はグラスを煽った。


「柴村技研も、別に第一志望だったとかそんなわけやない。ただ、何となくやったんや。音声データでも何でも、何か特化している企業に入っておけば、食いっぱぐれはないやろくらいの気持ちやった。それでも、何か面白そうやとは思ったんやけどな? 確か、面接では、もう亡くなってしもうた声優さんの声を再現する研究とか、そんなのもやっていると言うてたから、それで興味持ったって言ったわ。あと、社長もいい人そうやったしな」

「それから、どうして?」


「んで、そんなんで入った会社やったけど。入ってみたら何や、いい会社やったと思う。給料はどうか分からんけど、生活に困らん程度には貰えるし。少なくともええ人達に恵まれているっちゅうだけで、ええ会社や。うちの知り合い、それで苦労している人多いし。考えようによっては、第一志望よりもよっぽど当たりやったかもしれん」

「あー、それありますねえ。転職理由って、仕事内容や給料もそうですが、人間関係が上位に来るって聞いたことあります。絶対、いい会社ですよ」


「そうやなあ。うちもそう思うわ。んで、飲み会で社長が言ったんや。実は、コツコツと万能翻訳機の研究しているって」

「柴村社長は、昔は研究者だったんですよね?」

「そうや、その夢を追い続けていたんや。会社を興してな。んで、うちは思ったんや。うちみたいな英語がさっぱり分からんアホでも、そんな翻訳機があれば安心して世界中を旅出来るようになるんじゃないかって」


「一応、外務省としては各国の渡航については、治安など注意して欲しい点を伝えているので。どこも安心とは思って欲しくないのですが」

「そらそうやけど。少なくとも言葉の心配はいらんやろが? まあともかく、そんな翻訳機があれば、海外旅行はしやすくなるし、世界各国でビジネスチャンスが広がるやろと。人々の大きな助けになると思うてな。やり甲斐があると思ったんや。これが、うちがこの仕事を続けている理由やな。まさか、外務省にメール一本送っただけで、こんな事になるとは思わんかったけど」

「凄い。佐上さんも、立派な理由じゃないですか」

 海棠が佐上の肩を揺する。佐上の顔が赤いのは、アルコールのせいだけではないだろう。


「それじゃあ、白峰さんは?」

「自分ですか? そうですね。でも、あまり大した理由じゃないですよ? 単に、昔から言葉を覚えたりするのが好きだったもので。あと、歴史とか経済とか政治だとか面白かったんですよね」


「優等生やなあ。というか何で、そんなものに興味を持ったんや?」

「言葉は、何でですかね? 英語の存在を知って、その時にちょっと構文を変えると別の言葉を使えるようになるって感覚というか仮説みたいなものに気付いて。じゃあ、それがどこまで通じるのか試してみたくなったんです。歴史は、ひょっとしたら父親から先祖について色々と聞いたことが関係しているかもしれません」

「ご先祖?」


「今は完全に庶民の家庭なんですが。自分の家って昔は武家だったらしいんですよねえ。それで、どこそこの誰に使えたとか。自分は鹿児島出身ですけど、戦国時代の島津家がどうだこうだと。そんな話をよく聞かされました。それで、それがまたドラマめいた感じだったので、少し面白かったんです。歴史の教科書とかと違って」

「ああ、なるほど。物語で聞いた訳か。そりゃ面白いわ」


「そうです。それで、歴史って結局は人の物語だなあって思って。先祖の話だけじゃなくて、世界中のそういった話に興味を持ったんですよ。歴史は昔の物語。政治経済は今の物語だと。幸い、今の時代ってその手の解説動画も多いので、子供の頃からそういうのをよく見ていました」

「なるほど。ああいう動画、面白いですよね。教科書よりも全然面白くて詳しいですし」

 白峰は頷いた。


「それで、そんな感じで身に付けた知識ですけど。じゃあどうすれば一番活かせるかなあって進路を考えたときに。だったら、外交官として働くのが一番かと。本当に、それだけなんです。お恥ずかしいですが」

「そうですか? でも、普通で逆に親近感湧きますよ」

「せやな。取っつきやすく思うわ」

 うんうんと、佐上も海棠も頷いてくれた。


「それでは、月野さんはどうでしたか?」

 しかし、月野は曖昧に笑った。

「困りましたね。実を言うと、私には本当に何も無いんですよ」

「何や? そんなことあるかい。何かあるやろ? 外務省で働こうって思った切っ掛けとか」


 月野は首を傾げた。

「何ででしたっけね? ただ、日本とは違うところで働きたい。世界のあちこちに行ってみたい。そう思っていました」

「そう思った理由って何かあるんですか?」


 しばし、月野は虚空を見上げた。

「地元と違う世界を見てみたい。そう、思った気がします」

「というと?」

「私の出身は青森です。それも、実を言うとかなりの田舎の方です。方言が出ると、まず誰も何を言っているのか分からないと思います。そんなところです」


「ほほぅ? 面白そうやな。ちょっと、方言でしゃべってみ?」

 にやにやと、佐上が面白そうに笑みを浮かべる。

「絶対に嫌です」

 月野にしては珍しく、強めの口調で却下した。


「ともあれ、そんな田舎なので、変化に乏しいんですよ。このまま毎日、同じ景色を見て一生を過ごして、それで一生を終えるのかと。それが、堪らなく嫌に思えたんです」

「確かに一生同じ場所っていうのも、辛いもんがあるかもなあ」

「それを意識したのは、確か修学旅行のときでした。地元とは違う世界が目の前に広がっている。これが私には、とても新鮮な経験に思えました。だから、外交官という仕事に就けば、そういう経験も色々と出来ると思ったんです」


「海外出張の多い企業や、国外の会社に就職するというんじゃダメだったんですか?」

「別に、ダメというわけではなかったと思います。でも、ただ旅をするというよりは、その土地でもう少し足を付けたかったという思いがあります。旅で通り過ぎるだけでは、本当の意味でその土地を知ったとは言えないと思うので」


 月野はグラスを口に付けた。

「外務省に志望動機を伝えるときは、もう少し綺麗で違う理由を言ったと思うんですが。それはもう、本当に忘れてしまいましたね」

「じゃあ、今の仕事は楽しいんか?」


 月野は、静かに小さく笑う。

「はい。きっと、楽しいんだと。そう、思います」

 ゆっくりと、噛み締めるようにそう言った。

次回で、引越編は終わりです。多分?

しかし、ポロッと書いた「鬼籍に入った声優さんの声を再現」っていう研究、どこかやってませんかね?

紛い物だと言われれば、そうかも知れませんが、もう二度と新しい演技を聞く事が出来ないというのは、寂しいものがあるので。

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