ヤンデレお嬢様の読者についに捕まりました。
処女作です。ぶっちゃけ駄文かも。
『~ので、体のことも考えて今日は早く休んでください。』『“テネ”さん、いつも長文ありがとうございます。おっしゃる通りきちんと休みますね。』
「・・・はぁ。」
ダルさとコメントに対する頭痛に溜め息を吐く。俺の名前は黒川 高。ネットで小説なんかを書いている痛い高2だ。自分で言うのもなんだが、以外と評判は良い。
そして、一人、ヤンデレ?な読者さんがいる。
“テネ”さん。初期の初期からコメントをくれている、良い読者さんなのだが。
「分かりすぎだよなぁ・・・。」
全ての作品の中で書かれているコメント。その中で、まるで見てでもいるように的確にリアルでの俺の体調や事情を100%言い当ててくるのだ。
例えば、『ここ、他より練りが甘いですね。サボりましたか?まぁ、この文章でも好きなんですけど。』とか、『ここ、機嫌良さそうですね。なにかいい事でもあったんですか?』とか、『全体的に練りが甘いんですけど、これ、わざとじゃなくて体調も関係してませんか?』とかetc。
・・・この人本当に凄い。けれど、ぶっちゃけ止めて欲しい。作者読者の関係上あまり強く言いたくないのだけど。
「・・・もういいや。寝よ」
体調が悪いのは事実なので、早く寝る事にした。スマホをスリープして、目を閉じる。スヤァ。
翌日、昼休み。
「黒川君。少しよろしいかしら?」
今日も一人寂しくボッチ飯を謳歌しようとしていたら、急に声をかけられた。確か・・・天堂さんだっけ?
黒髪で赤い目をしている、良家のお嬢様だった筈だ。・・・興味ないけど。人を気にするぐらいなら小説を気にする。って今は関係ないか。
「どうしたの?天堂さん。」
「ここでは、少し話しにくいの。校舎裏まで付いてきて下さる?」
普通なら、えっ?告白?などと思うだろう。だが俺はここで告白なんて期待するほどアホではない。なのでリアクションなどとらずに素直に了承しておく。「いいよ。」
これが、間違いだったのだ。それも、人生の中で、一番の。
校舎裏に着いた。と思ってから意識がない。絶賛知らない部屋の中。
地下室かな?そう思えるくらいには薄暗く、窓もない。手錠と鎖で左手と壁が繋がれている。
「ヤンデレ系の監禁じゃん。」
もう、正にテンプレ。自分がなるとは思わなかった。
「あ、和光 可黒先生。 起きましたか?・・・もう逃がしませんけど。」
天堂さんだ。ペンネームまで知られている。
しかも、逃がさない。・・・やっぱこの状況の犯人はこの人か。でも、何故?
「何故?とか思ってるかもしれないけれど、君が悪いんだよ?私・・・僕に、希望なんてもたせるから・・・。」
「希望?」
「『お嬢様が小説家に幸せにさせられてしまうお話。』」
・・・そのタイトルには心当たりしかなかった、っていうか俺の処女作(おとこが言っていいのかしらんが。)じゃん。
「この話、初めてあのサイトで読んだ話なんだ。これを見てね、僕は希望を持ってしまった。家柄だけで、“僕”なんて言っちゃう、女の子らしくない女の子。」
「ほんっと、僕そっくりだよね!」
「・・・僕も助けてほしくなってしまった。話のなかの女の子みたいに。だから、作者さんの事を調べてみたんだよ。アナグラムだったから簡単だったよ?」
「・・・。」
「なにも言わないんだね。まぁ、いいけど。それでね、今日、君の受け入れ準備が整ったから・・・」
「あー。もういいわ。目的は?俺を拐って、何がしたい?」
暫くの沈黙の後、望みが彼女の口から発せられた。
「一緒に居てほしい。僕を幸せにしてほしい。・・・助けてほしいんだ。」
「そうか。」
対する俺の返答は。
「嫌だ。早く帰せ。犯罪だぞ?」
「・・・フフフ。嫌だよ。まぁ、拒否権なんて黒川君にはないんだけどね?状況忘れてない?」
「鎖がついてる時点でもうオシマイ。一生一緒に、ね?黒川君。」
俺を見つめる光のない赤い目に恐怖を覚え、シャーペンとスマホをいれている右ポケットを探る。この2つさえあれば、大概の事はなんとかなる・・・のだが。
「シャーペンとスマホは預かったよ。これで僕からもう逃げられないね。」
・・・詰んだ。終わった。
「・・・いつか、君は僕の事を幸せにしてくれると信じてる。・・・もう一人は嫌なんだ。」 冷めた目。抑揚の消えた声。殺されるのかもな。嫌だな。怖い。
恐怖心がさらに煽られたように感じた。
ここで何故か彼女のフルネームを思い出す。
天堂 音々。頭文字が“テネ”・・・。恐らく、彼女が・・・。
「じゃあ、これからもよろしくね。ご飯、持ってくるから。・・・いい子で待っててね?」
・・・この分だと餓える心配は無さそうだが。
諦めるしか・・・無さそうだな。
そして、俺とヤンデレお嬢様の奇妙な同棲生活?が始まってしまった。