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未完結シリーズまとめ  作者: なおほゆよ
その魔道士達はやや弱い
44/77

無力

エイクの初めての討伐クエストの対象はワーウルフの幼体であったサトであった。


サトに出会い、あまりの愛らしさに戦力が失せたエイクはサトを飼うことにした。


それからエイクはサトから魔語を習い、しばらく一緒に暮らしていた。


だが、エイクが牢に入れられていた時に、サトはリーミアの命令によって人間に殺された…はずだった。


だが、サトはなんとかその場をやり過ごし、このデイブラック樹海に逃げ込み、ここで暮らしていたそうだ。


エイク「しばらく見ないうちに大きくなったな…」


サト「ごめんね、なかなか会いに行けなくて…。べ、別に心配かけたくなかったから会いたかっただけなんだからね!!」


エイク「相変わらずツンデレだな」


サト「エイクこそどうしてここに?」


エイクはことの経緯を大まかに話した。


サト「なかなか大変だったんだね、エイクも」


エイク「でももうすぐ帰るつもりなんだ」


サト「帰るって…王都に?」


エイク「ん…どうだろ?」


サト「当てもないんだったらここで暮らしたら?」


エイク「それも悪くないんだけど…」


サト「だけど?」


エイク「俺には、夢があるから…」


サト「夢?」


エイク「うん、大きな夢があるからどうしても力が欲しい。もっと強くならなきゃ、だから王都に帰る必要がある」


サト「そっか…残念ね」


エイク「サトは一緒に来れないのか?」


サト「私もここで守るべきものがあるから」


エイク「そっか、分かったよ」


サト「すぐ出発するの?」


エイク「いや、最後に直接会って一言言いたい人がいる」






その日の夜、魔王城の最上階に位置する部屋で相変わらず一人悩んでいたソフィは窓からノックの音がするのに気がついた。


窓の外には巨大なワーウルフとそれにまたがるエイクの姿が会った。


ソフィ「エイク!!」


エイク「しっ、誰かに気付かれる」


エイクは指を立て、静かにするように促した。


エイク「誰かに気がつかれる前にここを去りたいからあまり時間もないから…俺も一言だけソフィに伝えに来た」


ソフィ「ここを去るの?エイク」


エイク「うん、やりたいことがたくさんあるから」


ソフィ「だったら私も一緒に!!」


エイク「ソフィはもうお姫様なんだから…危ないところには連れていけないよ」


ソフィ「でも…」


エイク「ごめん、もう行くね、護衛に気付かれちゃう。…いままでありがとう、ソフィ」


それだけを言うとワーウルフは城から飛び降りた。


ソフィの胸には伝えたい言葉がたくさんあったが、それらを飲み込んで、最後に伝えるべき言葉を叫んだ。


ソフィ「エイク!!あなたの夢、応援してる!!ずっと応援してるから!!」


ソフィの言葉はなにもない夜の空にこだまして消えていった。


ソフィ「…伝わったかな、私の言葉」


部屋には孤独だけが残っていた。







サト「あれだけでよかったの?エイク」


エイク「うん。サトもありがとうね、わざわざ送ってくれて」


サト「べ、別にエイクのためならアレくらい構わないんだからね!!」


エイク「ははは、本当にツンデレだな、サトは」


サト「エイク、これを受け取って」


サトはエイクに小さな笛を渡した。


サト「その笛はどこで吹こうとも必ず私に聞こえるようになる魔法をかけてある。もし何かあったらそれで私を呼んで。必ず助けに行くから」


エイク「ありがとう、サト」


サト「べ、別にあんたのためじゃないんだからね!!ただ心配だから渡しただけなんだからね!!」


エイク「じゃあ、行ってくるよ、サト」


サト「うん、行ってらっしゃい、エイク」


こうしてエイクは王都に戻るために一人、歩き出した。


エイク「大丈夫、届いたよ、ソフィの言葉」


最後にエイクは魔王城を見上げてつぶやいた。


これがエイクの夏の出来事であった。


ただ、エイクは知らない。






インフェルノ「夜分遅くに失礼します、ソフィ様」


ソフィ「あなたは…インフェルノさん…」


インフェルノ「以前、エイクを治した時に一つお願いを聞いてもらうという約束を覚えていらっしゃいますか?」


ソフィ「え、えぇ…」


インフェルノ「そのお願いなんですが…あなたに一つ、ちょっとした手品をお披露目したいのです」


ソフィの身に迫る青い炎の素顔を…







ところ変わってここは王都アンセム


ルシフェル「エルムドメギルが王都アンセムの東の森に…」


モニカ「はい、確かにこの目で確認しました」


ゼル「危ないところだったんだぜ?」


ルシフェル「とにかくお主らが無事で何よりだ。撤退は賢明な判断であった」


リーミア「一体なぜエルムドメギルが東の森に?」


ルシフェル「エルムドメギル、闇魔法の使い手…恐らくは新たな魔王を迎えに、と言ったところだな」


リーミア「新たな魔王…」


ルシフェル「それもエルムドメギル本人が直接出てくるほどのな…」


リーミア「これは…なにか嫌な予感がします」


ルシフェル「そうだな…八年前のアトラスの二の舞にならぬように対策を立てねば…」


リーミア「…新たな騎士団を募りましょう」


ルシフェル「騎士団?」


リーミア「権力もランクも問わず、ただ実力があるものが集まった騎士団を結成するのです」


ルシフェル「どうやって?」


リーミア「武術大会を開きましょう、騎士団のメンバーを決めるための」


ゼル「つまり…新たな戦力を確保するための大会を開くと?」


リーミア「はい、そしてその大会で優秀な成績を収めた者が王国魔道騎士団となるのです」








ライド「ハッハッハッハッハッハ!!!!」


あたり一面、血に塗れたその村の中心でライドは高笑いをしていた。


ライド「これがメディシア…これが魔人化…素晴らしい力だ!!」


ライドの全身は黒い痣のようなもので覆われていた。


ポルク「約束だ…娘を…離せ…」


全身ボロボロにされながら地に這いつくばるポルクはライドの傍で眠る魔族の少女に手を伸ばしながら言った。


解魔導師のポルクによって、エイクに封印された魔力を取り戻したライドは村を襲い、村人を容赦なく皆殺しにし、さらにはポルクの娘を人質にとってポルクからメディシア…人間が魔人化と呼ぶ、魔族専用の強化魔法の方法を聞いていたのだ。


そしてそれによってメディシアを習得したライドはゴミを見るような目でポルクの娘を一瞥した。


ライド「ああ、これね。確かにメディシアを俺に教えたら返してやる約束だし…そうだな、もういらないし…返してやるよ」


そう言うとライドはその少女を杜撰に投げた。


それを見たポルクは全力を使って娘を受け止めた。


ポルク「ミカ!よかった…ミカ…」


ポルクが最愛の娘を抱きかかえたその瞬間、目の前で何かが地面にこぼれ落ちた。


血に濡れた地面に叩きつけられ、鈍い音を立てて地面に転がるそれをポルクはしばらく理解できなかった。


それも当然だ、最愛の娘の首が目の前で胴から転がり落ちたことなど理解できるはずもない。


ポルク「ミ…カ?どうしたんだ?ミカ?」


ライド「プハハハハハ!!!おいおいマジかよ!!。なにが起きたか理解できてないのかよ!?」


ポルク「ミカ!?返事をしてくれ!!」


ポルクはあるはずのないミカの顔に必死で語りかける。


ライド「やっぱいいね!!言葉が分かるって最高だわ!!。魔族の絶望した顔が簡単に拝めるしな!!」


ポルク「ミカ!!ミカアアアアアア!!!!」


ライド「はぁ、もう飽きたわ」


ライドは持っていたナイフを振り回した。


そして、そこにいたはずのポルクはただの肉片と化した。


ライド「魔族風情が…家族ゴッコなんかしてんじゃねえよ」


もうやることがなくなったライドはトボトボと歩き出した。


ライド「あー………すっきりしたぁ…」







数日後…


エイクはとうとう王都に戻って来た。


ただ、エイクな顔には不安な表情が見られた。


それもそのはず、エイクは新緑の守護者と呼ばれ、クエストの討伐対象となっている。


しかもその正体をライドとモニカには見られているのだ。


2人が俺の正体を他の人に教えていたら…もう俺はただのお尋ね者、王都に入ろうものならば殺されるのは目に見えていた。


しかし強くなるなら王都に戻ってくる必要がある。


とりあえずエイクはなるべく目立たぬように、さりげなく顔を隠しながらギルドに向かった。


自分がお尋ね者になっていないか確認するためである。


ギルドにたどり着いたエイクは真っ先に手配書のリストを眺めた。


とりあえず自分の手配書がないことに安堵したエイクはそのままギルドを後にした。


エイク「とりあえず…お尋ね者ではないな」


ライドやモニカが自分の正体を明かしてないのか、それとも死んだと思われてるからか、とにかくエイクはいまのところお尋ね者ではない。


だが、ライドやモニカに直接会った時にどうすればいいのか…。


答えも出なかったので考えても仕方がないと思ったエイクはとりあえず久しぶりに家に帰ることにした。


ライドやモニカ…特にモニカ姉さんにあった時はどうすればいいのか…。


とにかく、今日は疲れたし、明日考えよう。


モニカ姉さんと会うことなんて滅多に無いんだから…。


エイクはため息をしながら家の玄関を開けた。


モニカ「おう、愚弟。帰って来たのか」


エイク「ただいま、モニカ姉さん」


エイクは何事もなかったかのように家に入り、上着を脱いだ。


エイク「…って、ええ!!モニカ姉さん!!」


そして何かに気がつき、いきなり叫び声をあげた。


モニカ「うっせえぞ、愚弟が!!」


エイク「え?なんで?モニカ姉さんなんで?」


モニカ「たまたま休みが取れたから帰って来たんだよ、いちいち騒ぐな、愚弟が」


エイク「………」


モニカ姉さん…もしかして…


俺を刺したこと忘れてる?。


いやいやいや!いくら俺に興味ないからって忘れるか!?。


一応俺死にかけたんだぞ!?それを忘れるか!?。


エイク「モニカ姉さん…この前のこと、覚えてる?」


モニカ「あぁ!?この前のことだぁ!?知らねえよ!愚弟が!!」


モニカは敵意むき出しで返事をした。


エイク「………」


やっぱり、忘れてますわ、この人。


普通実の弟を殺しかけたこと忘れるか?。


つい先日のことなのにそんな印象に残らなかったのか?。


まぁ、何にしても…その方がいいな。


エイク「いやなんでもない、おやすみ。モニカ姉さん」


モニカ「………」









マスカ「久しぶりだな、諸君」


夏の長期休暇も終わり、エイク達は久しぶりに魔導師教育施設『インプス』に来ていた。


マスカ「このクラスも少し寂しくなったな…」


インプスの教室には空いてる席がチラホラ見受けられた。


マスカ「諸君らも命あっての魔導師だ。あまり無茶をしないように」


結局この日は連絡事項だけで授業は終わってしまった。


ライド「久しぶりだな、エイク」


エイク「そうだな、ライド」


授業のあとライドはエイクに話しかけてきた。


エイク「魔力、戻ったんだな」


ライド「まあな」


エイク「…俺が憎くないのか?」


ライド「憎い?なんでだ?」


エイク「だってそれは…あんなことがあったし…」


ライド「確かに色々あったが…俺はむしろ感謝してるんだぜ」


エイク「感謝?」


ライド「お前のおかげでこの夏はいろいろなことを手に入れたからな」


エイク「俺のおかげ?」


ライド「ああ、お前のおかげで魔族を見る目も変わったよ」


エイク「お前…もしかして…」


エイクはもしや、ライドが魔族が悪い奴らではないことに気が付いてくれたのかと希望を持った。


ライド「おかげで魔族を殺るのも楽になったよ」


エイク「…え?」


ライド「いや、魔族のやつに馬鹿なやつがいてさ、俺が人間なのが分かってるのにわざわざ助けてくれたんだよ。そいつのおかげで魔語も覚えてさ。それからというもの魔族を騙していろいろ利用できるようになってな!。おかげでお前の魔力の封印も解けたし、あと俺もメディシアできるようになったぜ!。メディシアを教えてもらうために魔族の娘を人質に取ったりしてさ、しかも最後は殺して返してみたんだよ!。そのときの魔族の顔といったらさぁ…」


楽しそうに語るライドの言葉をエイクはなに一つ理解できなかった。


いや、理解したくなかった。


エイク「…ライド」


ライド「なんだ?」


エイク「メイを殺したのは…お前か?」


ライド「そうだが?」


エイク「ライドォォ!!!!」


エイクは怒り狂い、ライドの胸ぐらをつかんだ。


ライド「お、怒るなよ、エイク。もしかしてアレはお前の獲物だったのか?。だったら悪かったよ。代わりに他の獲物見つけてくるからさ、それでチャラにしてくれよ」


エイク「な、なにを言って…」


ライド「しっかしお前も趣味悪いよな。散々騙して信用させてからじっくり楽しんで殺す気だったんだろ?。気持ちはわかるけど、ほどほどにしろよな」


エイク「黙れよ…」


ライド「あのワーウルフのサトだっけ?。あいつもいずれ殺す気なんだろ?。お前があれだけ必死になって守ろうとしてたのも納得だわ。で、いつ殺すの?。できれば俺も加わりたいんだけどダメか?。あの絶望に満ちた顔がもう一回見たいんだよ」


エイク「だまれ!!」


ライド「…エイク?」


ライドはエイクが怒鳴った理由が分かっていなかった。


エイクはなにも言わずに胸ぐらから手を離し、その場を後にした。








エイクはアンセムの町を見下ろせる小高い丘の上に立てられた訓練施設の近くに来ていた。


エイクの心は怒りに満ちていた。


煮えたぎるように、燃えるように熱い怒りに…。


ただ…この怒りに矛先はなかった。


メイを殺したのは他ならぬライド。


必死で自身の介護をしてくれたメイを何のためらいもなく殺し、あまつさえそれを楽しんでいた。


だが、これはライドだけの問題ではない。


もし仮に、他の人間がライドと同じ立場に会ったらとしたら結果は違ったか?。


いや、結局メイは殺されるのではないか…。


魔族が悪い奴らじゃない…それだけを分からせても意味がない。


もっと根本的に…この国を…この世界を…。


エイク「クゥッッソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」


エイクはアンソムに向かって叫び声を上げる。


だがその声もこだますることもなく虚しく消えていくだけ…。


レイ「まさに負け犬の遠吠えってやつね」


どこからともなく現れたレイはエイクにそう声をかけた。


エイク「レイか…久しぶりだな」


レイ「今のあなたがなにを騒ごうが負け犬の遠吠え…なにかを訴えたいのならまずは力をつけることね」


エイク「力か…」


レイ「力といっても、それは純粋な強さだけではない。権力、知名度、人脈、信頼…それら全てを含めて力…」


エイク「でもそんなのどうやって…」


レイ「近頃、そのためのいい機会がある。せいぜい足掻きなさい」


エイク「…なんでレイはそんなの知ってるの?」


レイ「…それって、重要なこと?」


エイク「別に…」


レイ「じゃ、そういうわけで。…まぁ、エイクの場合、最初が一番の難関かもね」


エイク「?」





翌日、王都アンセムの町はいつもとは違う賑わいを見せていた。


王都の広場にはたくさんの人が集まり、そのときを待っていた。


なんでも王女リーミアから重大な発表があるとか…。


そうこうしているうちに城のバルコニーからリーミアが姿を現し、口を開いた。


リーミア「アンセムの民よ、私の声が聞こえますか?」


リーミアの気品ある声が町中に響き渡る。


リーミア「この中にはとある噂話を聞いたことがある人もいるでしょう。そう、このアンセムの東の森にて大魔王エムルドメギルが目撃されたという噂を…。その噂は本当のことです」


エムルドメギルの出現情報に広場はざわついた。


リーミア「ですが安心してください。エムルドメギルは恐らくはまだアンセムには攻めてこないでしょう。目的はおそらく…新たな魔王の確保。そう、8年前にこのアンセムを襲ったあの魔王のような恐ろしい存在が現れたのです」


リーミアは聞いてる人の様子を見ながら少し間をおいて続きを話した。


リーミア「8年前の悲劇を繰り返さないため、私は新たに騎士団を立ち上げようと思います。その名も…王国魔道騎士団。そしてその騎士団のメンバーを決めるべく…一ヶ月後、王国主催の魔導師の大会を開きます。大会に参加する資格はただ一つ、三人組を作りエントリーすること!!。ランクも年齢も身分も、種族さえも問いません!!。必要なのは魔族を討ち滅ぼす力だけ!!。国を救わんとする者よ!集え!!。魔族を討ち滅ぼさんとする者よ!戦え!!。この大会でその実力を見せよ!!」


リーミアの声と共に広場には雄叫びのような声が響き渡った。


こうして、王国魔道騎士団のメンバーを決めるための魔導師の大会か幕を開けた。

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