愛は男を病弱に変えた
端的に言って、リア充が嫌いだ。
…いや、憎いと言っても過言ではない。
理由は簡単、奴らは害悪だからだ。
奴らは存在するだけで害をなし、近くにいるだけでお一人様に精神的ダメージを与えてくる。
そんな見ているだけで辛い奴らを俺はずっと近くで目の当たりにしてきたせいか、リア充に対する精神的ストレスが限界を超え、ある日…突然吐血した。
トラウマとでも言えばいいのか、ろくな中学時代を過ごせなかった俺は高校生2年生の新学期を目前にリア充へのハッキリとした拒否反応が現れたのだ。
イチャイチャしてるカップルを見たり、甘酸っぱい他人の恋愛を見ると妬みや嫌悪感、果ては殺意にも似たドス黒い感情が込み上げ、そして最終的に吐血してしまうのだ。
特に友人やクラスメートなどの同年代で親しい人物がイチャイチャしているのを見ると、それは顕著に現れる。
要するに話をまとめると、俺は青春を謳歌しているリア充を目にすると、憎しみの炎に悶え苦しむハメになるのだ。
そしてこれから始まるのは華の高校生2年生、高校生になって一年が経ち、高校生活にも慣れて、そろそろ本格的に青春を楽しもうとする時期、男子も女子も盛る時だ。
このリア充が死ぬほど嫌いな俺は、果たしてこの恋愛灼熱地獄の世界を生き残り、俺をこんな体質に陥れたリア充共に復讐の果たす機会を探るべく、今日も重い足取りで学校に行くのである。
音鳴「ほら!朝だよ!起きてよ!ナカ」
鳥のさえずりが鳴り響く静かな住宅街の朝、とある一室で音鳴はベッドで眠る長内を起こそうとしていた。
長内「う〜ん…あと五分…」
しかし、長内も寝起きが悪いのか、なかなか起きようとはしなかった。
音鳴「そう言っていっつも30分は起きないでしょ!?ほら!起きた起きた!」
そう言って音鳴はベットで眠る長内から布団を引っ剥がした。
長内「うっ…返せ…布団!」
布団を引っ剥がされた長内は音鳴から布団を取り戻そうと引っ張り返した。
だが、思っていたよりも強く引っ張ったせいか、勢い余って引っ張られた音鳴は「キャッ!」という可愛らしい声とともに長内に覆いかぶさるように倒れてしまった。
長内「お、おい、スム…大丈夫…」
長内は倒れた音鳴に声をかけようとしたが、倒れた拍子に手がガッツリ音鳴の胸を揉んでいたことに気がついた。
長内「あ、いや、これは…」
意図的に揉んでしまったことに対して長内は弁解しようとしたが、それを聞くこともなく音鳴は顔を真っ赤に染めて、そして…。
音鳴「ナカのバカァァァ!!!!」
長内の顔面に右ストレートを決めた。
長内「イッタ!…別にこれはわざとじゃ…」
音鳴「ご、ごめん…私も思わず…」
長内「いや、いいんだよ。わざとじゃないにしろ触った俺が悪いんだし…」
音鳴「う、ううん。倒れた私が悪いし…ナカは悪くないよ。それに…ナカになら別に触られたって…」
長内「え?なんか言った?」
音鳴「べ!別に!なんでもないんだからね!!。ほら、朝ごはん作っておいたから、早く食べよ!!」
長内「おう、いつもありがとな、スム」
そんな感じで照れ臭そうに朝から騒がしいほど微笑ましいラブコメを繰り広げる二人。これがいつもの光景だ。
そして…そんな光景が窓の外から見えてしまうのが、愛無生の朝の日課である。
愛無「…へへへ、今日も絶好の吐血日和だな」
そう言って彼は口からたらりと流れ落ちる血を手で拭った。
その後、黙々と学校に行く準備をして、真新しい制服に袖を通した頃、家のインターホンが鳴り響いた。
僕がため息をついて玄関の扉を開けると、そこには先ほどラブコメを繰り広げていた長内と音鳴の姿があった。
愛無「…おはよう、二人共」
長内「おう、愛無」
音鳴「おはよう、一緒に学校行こ?愛無」
この二人は長内仲と音鳴清、一応、愛無の幼馴染だ。
と、言うのも、愛無は小二の時にこの町に引っ越してきたので、二人との付き合いはそれからなのだ。
それに対して、音鳴と長内は本当に小さい頃からずっと一緒で、愛無は正直なところ、疎外感を感ていた。
そして、愛無がリア充に対してこんなにも憎しみを抱いているのはおそらく、この二人のせいなのだろう。
愛無の隣の家に住んでいるのが長内、そしてさらにその隣に住んでいるのが音鳴。長内の両親は仕事が忙しく、なかなか家にいないため、音鳴が長内の家を訪れて、毎朝毎朝長内を起こしてあげているのだが…長内の隣の家に住む愛無にはその光景が丸見えになってしまうのだ。
毎朝毎朝先ほどのように古典的なラブコメを繰り広げる二人を見せつけられて育ってきた愛無は『いつしか俺にもそういう女の子が現れる』と考えるようになるのが当たり前となった。
しかし、待てども待てども、その兆候は一向に見られず、幼い頃から幼馴染とリア充している長内と決定的な違いを感じるようになった愛無はいつしか真の幼馴染という生まれ持った才能を持つ長内に嫉妬するようになった。
そしてその憎しみにも似た嫉妬は日を追うごとに強くなり、愛無の心を蝕みながら歪ませ、そして溜まりに溜まったリア充へのストレスは吐血という形で愛無に牙をむいたのだった。
そういう経緯もあってか、表面上は取り繕っていても、愛無の腹の中は長内と音鳴に対する復讐心で埋め尽くされていた。
スム「もう、ほんとナカは朝の寝起きが悪くて困るんだよね。起こす身にもなってよ」
ナカ「わざわざ起こされなくても、一人で起きれるっての…」
スム「仕方ないじゃない。私はナカの両親に頼まれてやってるだけなんだから…」
ナカ「ほんと毎朝毎朝律儀なやつだよな」
スム「…それに、ナカと夫婦になったみたいで嬉しいし…」
ナカ「え?なんか言ったか?」
スム「べ、べつになんでもないんだからね…」
愛無「………」
登校中もラブコメを見せつけられ、吐血しそうになる愛無。
本当ならば人目もはばからず『リア充爆発しろ!!』と叫びたいのだが…一応、良識は持ち合わせているのでそんなことはしない。
リア充共への溢れそうになる殺意は人の迷惑にならないように毎晩夜中に家を抜け出して近所の公園で物凄い形相で藁人形に五寸釘を叩きつける程度に抑えているので問題ない。
…ここまでリア充が憎いのなら二人との付き合いをやめればいいのにと思うかもしれないが、音鳴以外にまともに会話ができるほど仲のいい女子がいない愛無にとって音鳴は唯一残された女子とのパイプなのだ。
ここで音鳴まで手放してしまったら、その後に残るのは捻じ曲がった心を満たすほどのリア充への憎しみだけ…それだけは絶対に避けたいと考えた愛無は身体に毒と分かりつつも二人との付き合いを続けているのだ。
だが、音鳴との付き合いを続けるにはもれなく長内も付いてくるわけで…。
どこからどう見たって相思相愛の二人…誰かこの二人の仲を引き裂いてくれないかなぁ…。
愛無が咲達と出会ったのはそんなある日の出来事であった。
長内がとうとう音鳴に告ることをなんやかんやで察した愛無はそれを阻止しようと告白現場である屋上で隠れて待っていたのだが、告白を阻止した時のリスクを考えた結果、結局なにもできずに物陰でうろちょろしていた時、咲は現れたのだ。
まるで神が愛無を救うために差し出した救世主が如く『ドッキリ大成功』のプラカードを掲げて颯爽と現れた咲は愛無にとってヒーローであったのだ。
おまけに可愛い女の子ということもあって、リア充殲滅に協力するという形ではあるが、女子とのコミュニティを築くことが出来たのは愛無にとって、ひじょ〜うに幸運な出来事であった。
多少物騒とは言えど女子は女子、『殺す』とか言われて何回か脅されたが女子は女子。
そんな彼女らと共に憎きリア充を駆逐できることに、愛無は両手離しで喜んでいた。
『同じ目的を持って、行動を共にしていれば俺もそのうち…』などと愛無は期待に胸を膨らませていた。
果たして…彼は今回の騒動で念願の彼女が出来るのか?。
愛無のリア充への旅が、いま…幕を開ける。