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「海外初旅行」

作者: 長根兆半

「海外初旅行」


トンチンカン・トンチンカン

トンチキ・トンチキ

トンチキカン


えー、二度目のお会いとなります。

旅は道ずれ世は情け、なんてぇ事を申しますが、三人で旅するな、一人が必ずはぐれる。なんて事も言います。

そのわりにゃ、旅って字にゃ、なんだって人が三人いるんだ。

ま、そんな事言うシトも居ますが、難しいことは学者さんに任せ、この節、海外旅行も盛んになりました。景気がいいのか、どぉにもお金の使い道に困っての事か、なんでしたら、お手伝いいたしますが、いずれにしましても、このぉ、知らない国へ行って見たいというのは、お迎えの来る前までに、一度はやってみたいものです。

なかでもお年寄りのツァーなんかは、なかなか楽しそうでいいもんです。

心ペぇの種のドラ息子も、気ぃもんだ不良娘も、ま、今じゃ一人前に育ち、自分は会社も終わり、さてと思えば、やっぱり外国でしょう。

楽しい中にも、現地へ行って見ますと、日本人は鮪を捕り過ぎだとか、鯨を殺すな、なんて事を聞かされます。動物を虐待するな。と、言ってる訳なんですが、なにかこう、解るようで解りません。そんな話なんざぁ、よく知ってるガム公なんかに言わせますてぇと、ってやんだい、こっちゃ生活だぃ、手めぇらなんざ、遊びで、殺してんじゃねぇか。ッて事になるんですが。で、ガム公、チョコ坊、グミ助の三人も、しょっこりと、四週間も、エゲレスへ行ける事になりました。

なんですかこのぉ、エゲレスってぇ国は、遠いんですが、身近に感じます。

地球儀を見ましても、日本から、八・九時間の時差ですから、ほぼ、ま、地球の反対側にある国。

「おおい、何で郵便ポストは赤いんだ」

「エゲレスのが赤かったからだい」とか

「じゃ何か、人は右車は左ってのも、そうなのか」なんてまさかと思うようなことを言ったつもりが

「そうだよ」とガム公が言うとグミ助が、電話のベルな、何でベルか、知ってるか、ベルが作ったからだ。蒸気機関車はワット、背広はセービーロードって町で作られた。なんてグミ助が喋ってると

「よく知ってんなグミ助」

「そらぁ、俺だって義務教育ぐれぇ出たからな」などと、自慢にならない自慢話をしながらも、成田に着いてみますってぇと、シトでイッパイ、ゾロゾロ、ゾロゾロ並んで、チンタラ荷物の検査かなんかがあって

「あらやだ、全部見られる」

「んな事言ったって、しょうがねぇだろチョコ、何ンか不都合な事でもあンのかい?」

「ありゃしないけど」

「じゃ、いいじゃんえぇか」

「よかぁないわよ」

「なにが?」

「若いのしか入ってないから・・・」

「何が、何ンか、その、若いとまずいのか」

「年に合ったもんならさ、どっかで開き直れるもんだけど、照れちゃうじゃないか、くっくって、なに笑ってんのよ、ね、ガムちゃん、なんか言ってよ、このグミに」

そのガム公も、下ぁ向いて笑ってるもんだから、チョコ坊が

「ったく、男って皆こうだから、やんなっちゃう」

そうやってる間に、検査も終わり、し行機に乗ります。窓際にグミ助、通路側には、慣れたガム公、その間にチョコ坊、三人オシナ様のように掛けた。掛けたはいいが、じっとしていられない。何がどうというわけじゃないんですが、目の前の簡易テーブルを上げたり下げたり、そわそわしています。やはりなんですね、嬉しい。

それにしましても、あの鉄の塊がふわっと空に浮かぶんですから、初めてん時にゃ、落ち付かない。落ちないか・・・なんて心配するもんです。グミ助とチョコ坊も初めてらしく、落ちねぇよなぁ、なんてガム公に聞いたりする。

「そん時にゃそん時、設計ミスだから、でぇ丈夫だ」なんてガム公がヘンな事を言ったりするもんですから、

「なんだよ、その設計ミスってのは、おっかねぇ事、言うなよ」とグミ助がガム公にすがり付いて聞くと、チョコ坊が

「何で、設計ミスで、大丈夫なわけ」

「自動車の設計ミスで、空ぁ飛んじゃったから」

「なんだい、そらぁ・・・」とか何とか、分けの解らん駄洒落なんか言ってる間に、シートベルトの確認があって、グイッと機体が動き出す。ゆぅっくりと、小窓の景色が変わっていき、乗務員が救命具の使い方を、スピーカーから流れる声に合わせて、ジェスチャーで説明する。さて、いよいよ離陸滑走路に入ると、エンジンの音がいきなり大きくなったかと思うと、ググググッと、後ろから押されるように体が持っていかれる。

お、お、おって勇気が湧いてくる気がしますが、慣れますと、し行機に乗って、この時が一番気持ちのいいもんです。

スピードが上がって、離陸した瞬間、何んかこの、し行機がズルッと尻から落っこちるんじゃないかと思ってしまうのも、おかしなもんです。

機内を見ますと、いかにも空へ登ってるふうに、前の方が坂上に見える。

小窓から見えていた地球の表面が、だんだんと小さくなって、雲を破って雲海の上。

ここまで来ますってぇと、墜落の心配にも、諦めが出てきます。

機内ではワゴン車が、弁当と飲み物を配りはじめます。

口々に皆、豪勢だのケチだのと言いながら、ガサゴソ食べ始める。

グミ助なんぞは、出てきた酒は只なもんですから、何度もお代わりをし

「こう、只で酒ぇ飲ましてくれんだから、ええなぁ」

「し行機代に入ってんのよ」

「そうか、飲まなきゃそんだな」なんて、親の敵にでも会ったように飲む。いじましい食い意地も出てくんですが、腹ぁ一杯になって、酒が回れば、白川夜船ならぬ、浮世離れの雲の上、あー極楽極楽ってな事で、誰もがトロトローッてぇ眠る。

雲ってのは、下から見てると、モクモクしてるんですが、上から見ても、同じなんで、それがかえって新しいものでも見つけた気にもなります。目ぇつむって、ウトウトして、この間に、日付変更があったんですが、お三人気付きません。

と、グミ助がいきなり、ガバッーと起きて

「なんだいあの音ぁ」とガム公を起こすと、雷の音だって平気でいたんですが、チョコ坊が、落ちないかい、なんて言って一緒ンなって小窓を覗いて心配するもんですから、グミ助が、「チョコ坊、あのな、落ちるってぇのは、上から下にだろ、俺たちゃ今、上にいる、だからよ言

うんなら、昇ってこねぇかって、心ぺぇしろよ。で、ガム兄ィ、こねぇよな」なんて、分けの分からない事言って自分もビビッてる。ガム公はガム公で、ああ、とか何とか言って、ばかばかしくって話し相手になってられない。

「わ、なんだありゃ」いきなりグミ助が小窓に顔を貼り付けています。

「どうしたのよ、また」なぁんとなく、不安なチョコ坊も小窓に寄って行きます。

「見てろ、見てろよ・・・くるぞ・・・来る、ほら来た。見たかチョコ坊」

「アア、見たよ。ネプタだね、ありゃさ」

「何騒いでんだ、二人して」

「ガム兄ィ、青森のネプタ、見たことあんだろ」

「ある」

「あれやってんだ、雲が」

ガム公も小窓から見てますってぇと、眼下の雲がいきなり、パパッパパッっと、蛍光灯に電気のスイッチを入れた時のように光って、ゴロゴロォ。し行機慣れのガム公も、さすがに、これには驚きました。

そうこうしている間に、北極回りの直行便は、やがてスカンジナビア上空にさしかかり、いよいよエゲレスです。着陸の衝撃が、ブンと体にしたきり、スーっと景色が見えたんですが、ここでいきなり乗客が拍手した。

「何で、手ぇ叩くんだ」

「そらぁおめぇ、設計ミスが、ちゃんと来たんだ、ああ良かったって言う拍手だ」

し行機から降り、シトの後ろにくっついて、キョロキョロ歩いて目に入るのは、英語の案内ばかり。

「ネネ、ちょっと、時計見てよ、四時間で来たの、日本から」いきなりチョコ坊が言ったかと思うてぇと、今度はグミ助が

「うわぁ、なんだこりゃ、仮装行列か」

そりゃまぁ、人種の坩堝、メルテンポットのヒースローですから、日本の仮装行列じゃないですが、色々います。頭からすっぽりと黒い布かなんかを被って、ウルウルの目ェだけ出してる女のシト。見てるだけで、頭が痒ぃくなりそうなターバンを巻いた髭モジャのシト。中ぁ透けて見えるわけじゃないですが、ネグリジェか天女の羽衣のようなのを着て、見てるこっちがブルッとしそうな女のシト。カッパじゃあるまいし、つむじにお皿のような帽子を乗っけてる男のシト。仮装の遊びか、お祭り騒ぎと、思ってしまうのも、いやはや、世間知らずの海外発旅行。お後がよろしいようで・・。さて、終わって一服、ラドッコイ。


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