異能力軍、戦前演説~7番隊の場合~
「力★力★超力ゥゥゥ!!」
日光が肌を焼き、熱気が脳を湯だたせるとある夏の昼下がり。
日本特殊異能力部異能課、異能力軍は大きな広場に集まっていた。
彼らはこれより、やたらと建造物を破壊する変態組織【力★力】の駆逐作戦を行うのだ。
【力★力】は非常に恐ろしい組織だ。元々は、筋肉愛好家の集まりだったのだが、誰の筋肉が最も強靭かつ美しいかを競っている間に、暴走。
何故か何処かから湧いて出てくる同胞を吸収し肥大し続けた結果、やたらめったら硬いものを壊して悦ぶ変態集団になってしまったのだ。
更にどういう訳か、彼ら変態達はネットの民から中々の支持を持っており、『筋肉兄貴』『ボディオイルの伝道師』などの愛称で親しまれている。
理由はいくつか上げられるが、まぁ彼らの行動が一々面白いからなのが最たるものだろう。
彼ら【力★力】、初めの内はまだ良かったのだ。どこぞの大岩を殴り破壊してみたり、スクラップにする廃車を殴り破壊してみたり、時には建物の取り壊し作業を殴り破壊することで手伝ってみたりと。変態だが、たまには人の役に立つ集団だったのだ。
そんな【力★力】が可笑しくなったのは、今から半年程前。突然白地に『(´・ω・`)』と刻印された仮面に、かなり際どいブーメランパンツをのみを装着して表れてからである。
そして、「力☆力☆超力!」と叫びながら、警察庁に殴り掛かったのが始まりだ。
因みに、彼らには序列があるらしく、ブーメランパンツの色が白なら下っ端、灰なら部下持ち、赤は幹部、青がサポート班、虹色がボスだったりする。
なお、仮面は全員統一である。
今回、異能力軍はそんな変態達を相手にするだ。
士気が上がらないのも、仕方のない事だろう。
隊員達が浮かない顔をしている中、壇上に表れたのは7番隊隊長と副隊長である。そして、何故か非常に楽しそうな表情をしていた。
そして隊長が一歩前へ出ると、口を開いた。
「やあやあ皆さん、御揃いの様だね。私達、異能力軍はこれから、筋肉ダルマを狩りに行くよ。準備は出来てるかい?
まぁ出来ていなくても、作戦は始まるのだけれどね。
ところで皆さん。私の事は知っているよね?
『狩人』こと7番隊隊長、園田 葵漆と言う。
聞いているかい? そこだ、4番隊と9番隊。君たちだ、私の話を聞いているのかい? ほら、そういう態度の事だよ。ねえ聞いているのかい?」
「隊長隊長、話がズレる」
葵漆、彼女は背後に立っている副隊長に声をかけられると、軽く咳払いを1つ。
7番隊隊長の葵漆は、少々子供っぽいのだ。4番隊隊長と大親友でもある。
「全く、颯ちゃんは固いな。もう少し砕けても、誰も怒らないよ」
「隊長?」
「……分かったよ」
本人達はこっそり話しているつもりだろうが、残念なことに全てマイクが拾っていた。集まっている隊員達は苦笑いである。
「さて! 皆さん。改めてまして7番隊隊長、園田 葵漆と言う。
今作戦は、筋肉オバケの討伐。4、6、7、9番隊の合同作戦だ。
何でかは知らないけれど、戦闘メインの部隊が居ない。だけど心配はいらないよ。
脳筋ゴリラは既に、私達7番隊が仕掛けた罠に掛かっているのさ。試作操作式パンジャンドラムと私の異能力<無限軌道>を使ったゴリアテで追い詰めているからね。
残された道は籠城か特攻くらいだろうね。
まぁ、あの筋肉達なら特攻をしてくるはず。
その為の罠も、今回仕掛けてきたのさ!
先ずは私が作った、対人用非殺傷型炸裂拘束式地雷。これは従来の地雷に比べて、火薬の量を大幅に減らして攻撃性能を下げることで非殺傷とし、特殊繊維で作られた破片で敵を傷付けながら拘束する優れもの。
更に颯ちゃんが作った異能力識別型マーカー及び無音ミサイル。敵の異能力に反応してマーカーを自動設置、そしてそこに超小型の無音ミサイルを叩き込む凶悪な兵器だよ。命令に合わせて、今回は火薬弾頭からゴム弾頭に変えてあるのもポイント。
欄ちゃんが作った、お馴染みの化学迷彩搭載シリーズに熱感知シリーズ、条件反応シリーズに加えて、今回新たに用意されたのが実体ホログラムトラップ。これは欄ちゃんが進めていた研究の質量を持つホログラムの試作何だけど、最近遂に形になったのさ!
……えーっと『ホログラムに質量を持たせる事に(以下略)。次の研究が忙しいので、任せました』っていう事で伝言を貰っているのだけれど、まぁいいか。
更に更に、6番隊と共同で作り上げた擬態トラップversion2.1.9〝タイプ昆虫〟300個の使用許可も貰ってきた!
これはあらかじめ設定してある対象に、自律行動しながら近付き内蔵式の兵器を起動させる物で、内9割は拘束具を内蔵しておいた。1割は六道くんの好みで何かが入っているよ。後、異能力軍所属バッジをしている人間には起動しないけれど、もし無くしたり落としたり壊したりしたら……ふふっ。大丈夫、死にはしないよ。
他にも、数えきれない程の罠を仕掛けてきた。
出来ればその全てをここで発表してしまいたいのだけれど、副隊長にそろそろ止められてしまうから止めておくよ。
これだけは伝えたい。
罠の完成度は最高さ、効果は信用してほしい。
あぁそうだ、当然の事だが罠だけではないよ。
後でそれぞれに支給するのだが、武装や防具も用意してある。訓練で使用しているものの上位互換だと思えば扱いは簡単なものばかりさ。
統一のものも個人向けのものも沢山用意してあるから、よく考えて持っていってくれ。
武器や防具は装備しないと効果が無いからね、そこのところを注意するように頼むよ。
そんなわけで、私達がこれから行うお仕事は簡単さ。
罠に掛かった変態筋肉を仕留める、ただそれだけ。
どうだい、ここに居る皆なら難しくないだろう?
ただし、相手は手負いの獣。油断してると足元を掬われてしまうから、そこは十分に注意してほしい。
後、敵の殺害は可能な限り控える事。これは、国の偉い人達からの指示だからね。
きちんと守ること! 9番隊、聞いている? 君達の事だからね。
あっ、罠の設置位置は後で支給するゴーグルのレンズに投影されるし、作戦実行時は場所を把握している人員をそれぞれ配置するから、支持を良く聞いて欲しい。
間違っても、罠に引っ掛かることのないようにね。
私達7番隊が『狩人』と呼ばれている所以を、良く見ていって欲しい。
無駄なく、スマートに、作戦を実行しようじゃないか!」
格好良く宣言し、壇上から降りようとした葵漆だが、階段に躓き前のめりに落下。
スイッチを切り忘れたまま握っていたマイクに、悲鳴と落下の衝撃音が拾われて、何とも言えない雰囲気にした所で作戦は実行された。
尚、7番隊は作戦時、未申請の罠や武装を使って居たことが上層部にバレて、それはそれは面倒な事になったらしい。
ただし、効果や必要経費等を考えるとそれらの道具は素晴らしく優秀で、偉い人達は頭を抱えながら7番隊に厳重注意をすることとなった。
シリーズ二つ目!
順番は気分で決めてます。