解答編②
「六年前、放送テレビではある企画が上がっていたの……。火の上を歩く老人を撮影してそれを流そうというね。それで、私のおじいちゃんは以前趣味でそういうことをしたことがあり、私がおじいちゃんに許可を取ってそれを撮影してテレビ局に投稿したの。それが放送テレビだった。その投稿動画を思い出した放送テレビはこれをお茶の間で流したらウケると考えた。そしておじいちゃんに連絡して許可を取ったの。おじいちゃんは孤独な老人で、会いに行くのは私くらいだった。その時私は期末テストがあって勉強で忙しくてなかなか会いに行けなかった。人に会えなくて寂しかったおじいちゃんは二つ返事で返したわ。それで私に電話でとても嬉しそうに話してた……今でも鮮明に覚えてるわ。あんな楽しげなおじいちゃん、久しぶりだったもの。あの時おじいちゃん、何て言ったと思う? 『放送テレビの人がワシにテレビに出てほしいって頼んできたんじゃ! これでワシも有名人じゃ!』ってそれはそれは楽しそうに話してたわ! 私は本当に嬉しかった……。おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなって元気が無かったから……孫の私が時々顔を見せに行ってた時も笑ってたけど、心からは笑ってなかったから。その電話を聞きながら、私は泣きながら一緒に笑ってた記憶がある。それから一週間後、放送テレビの––––金塚が率いるクルーが来たわ。それで火の上を渡ってほしいって頼んだの。おじいちゃん達は外に出て準備したわ。でもね、放送テレビのバカ共は更に面白くするためにスタッフのクソ野郎が勝手に持ってきた灯油五ℓにライターを付けて燃やしたの。その上を渡れって言うのよ? クッ。バカバカしいにも程があるわっ! 自分も相手の立場になってちょっと考えたら危険かどうかすぐにわかるのに! 狂ってる! けど、おじいちゃんは有名になりたいからそれでも構わず歩いて行った……今思えばそこも奴らにつけ込まれていたのかもね。おじいちゃんは初めは軽く火を板に炙るくらいで歩くものだと思ってたけど……。おじいちゃんはゴウゴウと燃え盛る板を歩かされたわ。それも、金塚らに笑われながらねェ! 結局、おじいちゃんは渡りきった……。けど、おじいちゃんは大火傷を負い、足の裏は皮がベリベリにめくれあがったわ。痛すぎて歩くことができなかったおじいちゃんを金塚らが乗ってきた車に乗せて送ってもらったの。けどね、あいつらは出演料の三万をおじいちゃんにポイッて捨ててゴミみたいに放って去って行きやがった…………! あいつらがそのまま病院に連れて行ったら……もしかしたら! もしかしたら……うぅ……。く……おじいちゃんは動けない足を引きずりながら自宅に戻った。けど、やっぱり動けず五日間自宅でジッとしてたけど、いよいよ容体が悪くなったの。偶然隣に住んでた家族が海外旅行から帰ってくると、隣の壁からおじいちゃんのうめき声が聞こえてきて中に入ってみると驚いて救急車を呼んだわ……当然の反応だけどね。救急搬送されて病院に行くと、医者は本当に驚いてたわ。だってこんなの、事故か何かでできる火傷じゃないもの。足は完全に焼かれて呼吸の一時停止、多臓器不全、胃の出血……そして吐血……おじいちゃんは面会謝絶になったわ……先生からその話を聞いて想像して私……私……ああぁ……涙が止まらなかったの。本当に許せなかった! それで事件性を疑った病院側が警察に連絡し、調査してもらったわ。その時やっとおじいちゃんが放送テレビの依頼で火の上を渡ったということを知った。私もそのことを聞いていて、私も証言した! そしておじいちゃんの話が本当かどうか警察は放送テレビのスタッフを事情聴取したけど、放送テレビの幹部以上の人間が『調査の結果、該当する企画はなかった』……って言ったわ! それを信じた警察はこれはおじいちゃんが勝手にやった自己責任……自傷事故として処理されたッ! 私は信じられなかった。その三日後、私は驚いたわ……。おじいちゃんがテレビに出ていたんですもの! それもおじいちゃんが言っていた火の上を渡るっていう企画よ? しかも……しかも……その苦しそうに震えているおじいちゃんを小馬鹿にしたりバックで笑っている声を編集したりしてたの! 私……ショックで寝込んだわよ。それを見た視聴者がさすがに不謹慎なのではないか? って炎上したわ。さすがにヤバくなったのか『企画はなかった』っていう舌の根も乾かないうちにようやくロケが行われたことを認めたわ! 笑えるわよね? 何が調査よ! ふざけてるわ! それから二年後、おじいちゃんは一切帰ることができず、私の誕生日を一緒に祝ってもくれずに死んじゃったの……おじいちゃんの年に一度の楽しみが私の誕生日だった……中学生で自立しかけていた私はちょっと恥ずかしかったけど、おじいちゃんの嬉しそうな顔を見てるとなんていうか……胸がポ〜ってあったかくなるの。多分、おじいちゃんもそうだったと思う。わかる? そんなおじいちゃんの楽しみも奪ったのよ? それで放送テレビは事故として警察に届け出たわ。けど、スタッフは全員不問に付された。なぜだと思う? 当時警察OBだった人が口出ししてもみ消し工作を行い、不問に付されたらしいの……。おじいちゃんは警察に言ったりして制裁を加えようという気は全くなかった。警察に『どうしてこんなに火傷をしたのか』って聞かれたから答えただけ。わかる? おじいちゃんはそういう人だったの。私たち遺族はおじいちゃんが勝手にやったと思い込んでいて、それに漬け込んだ金塚らが私たちを騙し、会社ぐるみで隠蔽に成功した。私もその時はそうだと思っていたの。脅迫まがいなことをされて渡らされたなんて夢にも思ってなかったわ。けどその数年後、この事件のことを編集した動画がyoutubeにアップされ、それを見て私はふつふつと怒りがこみ上げてきた。騙されていたことに気づいてね! それで証拠を見つけるために放送テレビに潜入し、金塚に近づいて調べたわ。そしてついにその資料を入手した! 真相を全て知った私はこいつらを殺すことを計画した。これが私の過去」
一気に話し、久保はハァハァと荒い息を立てる。
そんなことが……。
木下は胸くそが悪くなった。想像しただけでも吐き気がする。こみ上げてくる胃液を何とか戻さずに耐える。
「でも……真相を知られたから、もう終わりよね」
と言うと、久保は来ていたジャケットを脱いだ。そこには、身体中に巻かれた爆弾がついていた!
「なっ!」
木下は久保を取り押さえようと足を動かした。
「動かないで! それ以上くると……スイッチを押す!」
久保は爆弾のスイッチのような突起物を持ち、木下達に見せつける。久保の表情や態度から本当に押しそうで、木下達は後ろへ下がった。
「や……やめてください。久保さん」
と、多田野は後ずさりしながら言う。
「大丈夫。安心して。これは自殺用なの。みんなを巻き込むつもりはないわ。あなた達が私に飛びかかったりしなければね。そのまま私はこの旅館を出て一人になったのを確認して、スイッチを押す。だからみんなには迷惑はかけない」
全てを話し、楽になった彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。この数年間、こうして愚痴など言ったことがなかったのだろう。全て自分に押し込んで、そして二人を殺害した。しかし、どんなことがあっても間違っている。そののとを彼女に教えないと。
などと考えていると、廊下がドタドタと騒がしくなる。
「長野県警だ! その爆弾を捨てなさい!」
ようやく除雪作業が終わり、くることができた長野県警の刑事二人が警察手帳を見せて言った。
「離れてくださいっ! そうしないと……本当に爆弾を爆破させます! この爆弾はあなた達が来るときに仕掛けたのとは威力がはるかに違うわ。ざっとあの十倍の威力よ?」
「なっ」
中年の刑事は一歩、また一歩とすり足で下がる。
「菅原警部……」
「遠藤……ここは刺激すれば逆効果だ。流れに従うんだ」
若い刑事が遠藤、中年の刑事が菅原というようだ。菅原の耳打ちで、遠藤も菅原に続きゆっくり下がってゆく。
「お願い。私は無関係の人を殺したくないの……押させないで」
「くっ……お……落ち着いて、久保さん! そんなことをしても、何も解決しない。あなたはまだやり直せる。罪を償って、新しい人生を––––」
「そんなことできないわよ! 私は大切なおじいちゃんを殺されたあとの人生はゴミみたいなもんだったわ! どうせあのyoutubeに流してたユーザーだって、私のおじいちゃんをバカにして投稿したものだろうしね!」
「そいつは違うぜっ! 久保さん」
部屋の外から声が聞こえ、一条がひょこっと顔を出す。それを見た久保が一瞬驚いたが、すぐにスイッチを握り、それを一条に見せつける。
「大丈夫。あんたを取り押さえようとなんか考えてない。ただ、俺の話も聞いてほしいんだ。わかったらその物騒なもんを降ろしてくれ。なーに、この刑事や長野県警の二人があんたを捕まえようとするのに少なくとも二秒かかる。その二秒があれば瞬時にスイッチを押してみんなを巻き込むことはできるさ」
一条の饒舌に全員聞き入っていた。
「久保さん、あんたが今言ってたおじいちゃんのことを取り上げて編集していたアカウントはおれだよ」
「なっ––––」
一条の告白に、久保の目は焦点が合っていなかった。
「あなたが……あなたもおじいちゃんをバカにしていた一人だったのね!」
「だから違うって言ってるだろ! あんたのじいさんが奴らに殺される二年前、俺の父ちゃんは奴らに乗せられ足を折って治らない重症になったんだ。それでもあいつらは俺たち家族に何にも謝罪すらしなかった。それでその後、あんたのじいさんと同じさ。お茶の間でさんざんコケにされたよ。俺たち家族は怒り震えて裁判沙汰になった。けど、証拠がないからって俺たちは負けたんだ。その二年後、あんたのじいさんのことを知った。そしてそのことをyoutubeにアップし続け、事件が風化しないように操作した。けど、どうしても許せなかった俺たち家族は母ちゃんに頼まれ、必死で勉強して放送テレビに潜入……金塚のパソコンにクラッキングし、ついに証拠を突き止めた。それを使ってyoutubeにアップしようとしたさ、けど、それはトロイの木馬だった」
トロイの木馬とは、有用なプログラムに見せかけたマルウェアの一種のことだ。
「そうとは知らず、俺は動画にアップしようとした。それがこれの発動条件だった……あいつは誰かがこれを取りにくると読んで事前に細工しといたんだ。それで俺のデータは全て消えた……もうどうすることもできなかったけど、週刊誌があんたのじいさんのことを取り上げていたことに気づきこれを使って小説にしようと考えた。ペンは剣よりも強し……てね。それで、その事実を世間に発表するつもりだった」
「あなたも……金塚の被害者……」
ショックで久保は爆弾のスイッチを落とした。しかし、木下、遠藤、菅原は決して久保を捕まえようとはしなかった。彼女の毒気が引いたのを感じ取ったからだ。もう彼女は自爆行為はしないと悟り、静観することにした。全ては一条に託すことにした。
「ああ。俺も最初はあいつらをぶっ殺そうと考えたよ。でも、それをすればあいつらとやることが同じだからな。俺は違う形で奴らに制裁を加えようとした。絶対に言い逃れできない形でね。でも……君は違った」
「ああ……ああぁ……」
彼女は足の力が抜けたのか、地面に倒れこんだ。遠藤と菅原と視線があい、木下は静かに頷いた。そして彼女は長野県警に連行された。大量の涙を流しながら––––。




