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#3 plata o plomo(鉛か銀か)

「さてパブロくん、彼女を誘う為にはどうすればいいと思う?」

先ほどいい加減な誘い方で悪印象を植え付けたであろう張本人、

アドラーが問う。まるで生徒に問題を出す教師のように。

アドラーとパブロが丸いテーブルを挟んで向かい合って着席している。

収容施設の図書室に案内され作戦会議が始まった。

「というかそもそも仲間集めてどうするかを教えて下さいよ」

『もう一度作ろうじゃないか我らのメデジン・カルテルを! 我らの……第三帝国を』

これだけの啖呵を切ってパブロに近づいていたのだ。

勝算皆無という訳でもないだろうし無策と言う訳でもないだろう。

……と、少なくとも思う。

しかし先ほどの無計画極まりない誘い方と言いそもそも張作霖を誘う事自体が行き当たりばったりであった。怪しくも思うのは当然だ。

「あー……全部は言えないん……だが……」

アドラーが口籠る。

「まさかないってことは……」

「いや、それはない。と言うより”やらねばならないこと”があるからな」

「”やらねばならないこと”?」

「まずはカポネファミリーって奴らをズタボロにしなければならない。

この施設を牛耳っているアル・カポネを前世に持つ奴の組織さ」

そう言えば先ほどの張作霖との喧嘩の最中外野が「カポネのとこ」と言っていたような……

「奴らを崩すには2つ、奴らの兵隊を片付ける武力

そして奴らをこの収容所の管理者に逮捕して貰わなきゃいけない」

「逮捕?」

「この収容所はあくまで「前世に問題がある”だけ”の人」が連れてこられる施設だ。その中で犯罪を犯せば……人を殺したり他人の物を盗んだりすれば「普通の刑務所」に送られる。一般の犯罪者と同じとこで懲役を全うしてまたこちらに送られることになるのだよ。」

「なるほど……」

どのみち前世に問題ある奴は自由にはなれそうにないと言う事も含めて理解した。

納得はしてない。

「カポネファミリーはこの収容所にいる囚人を「人身売買」しているらしい。その収益はここの管理者にそのまま行くから管理者も奴らをほとんど放任しているのさ」

「人身……売買……」

「有益って認められて外に出たって半分以上が嘘っぱち、そのまんま「売られた」ってことだろうね」

「奴らを逮捕するネタはある。だから後はさっき言った2つが必要なんだ」

張作霖は先ほど複数の男達を軽く一蹴していた。

アドラーはどうやら彼女を武力の方面で誘いたいらしい。

「さて、張作霖くんの誘い方だが……キミに任せたいのだがどうかね?」

「……はいぃ?」

「私は悪印象を与えてしまった。故にキミが適任だと思ううのだが」

「でもどうやって?」

「それはキミが自由にやって構わない」

「そんな無責任な……」

「でもそうだね……「plata o plomo(鉛か銀か)」と言っておくよ」


アドラーはその後

「気分転換に絵を描きに行くよ」と図書室を出て行ってしまった。

自由奔放で無責任な人……しかしどうにもおろかとは言いにくい何かがある。

「あんな武道派相手を誘うって……」

”plata o plomo(鉛か銀か)”

これは確か正確には「お金か銃弾か」って意味合いだった。

お金……銃弾?

「ヒントがヒントじゃねぇなぁ……」


夕食の時間帯に食堂に顔を出したがアドラーは見当たらなかった。

もう先に食べてしまったのだろうか? そういえばアドラーの個室の場所を知らない……

今日アドラーと会うのは無理なようだ……

「呼びだされたから出てきたよ」

張作霖だ。向こうから声をかけてくるとは……呼びだされた?

「ちょ、張さん?」

「そんな馴れ馴れしい仲じゃないだろ? 謝りたいって手紙、読んだよ」

手紙……アドラーだ。なるほどこうする為に昼間あんないい加減な誘い方をしたのか?

末恐ろしい女だ。どうやらここは自分が手紙を出したと思わせる方が得策らしい。

「あ、昼間はアドラーがすいませんでした」

「いいよ、奴らに絡まれるより嫌悪感は無いさ」

「ど、どうも……」

なんとか悪印象は和らいだ様だ。

「しかしあんたも妙な奴だね、あんな勢いだけのガキに付き添ってるとはね」

「まぁ……成り行きで」

「もしかして付き合ってる?」

「違います!」

つい大声が出た。

「……フフッ」

張作霖が笑った。笑うんだな、この人も。

「お、おかしいですか?」

「いや、気が弱い奴に見えたからさ。あんな大声出すんだね、前世がパブロ・エスコバルなだけはあるのかも」

関係ないだろう。

「久々に人と話したって感じだ。じゃあな、エスコバル」

「オイオイ、誰だその男」

新参のパブロにも理解が出来た。

カポネファミリーの男達だった。

「ちょっと顔だしなネーちゃん、昼間の借りを返せてねぇ」

「あたしはなんも借りてないよ」

「まぁまぁ落ち着けよ……俺らだってこう言う事はしたくねぇがよ」

1人が胸元から紙のようなものを出した。

「あんたらぁ!!!」

食堂にいた者の大勢が張の方を見た。

「俺らのいいなりになってくれりゃこの子はなんもなんねぇよ、安心しな」

この子? 子供??


『悪いなァ坊や、全部このお父ちゃんが悪いんだ』

『まぁこれを乗り越えればお前さんは強い大人になれるってこった。頑張んな』


「子供をどうしようってんです?」

つい声が出た。と言うより腹の底から湧きあがる何かについ声を出させられたという感覚だ。

「あ? なんだニイちゃん」

「お前ら子供をどうするってんですか?」

「お前にゃ関係ねぇよ、すっ込んでろ」

張の方を見るとどうにも抵抗する気がないようにも見えた。

”plata o plomo(鉛か銀か)”

これを本当に言うべきなのはアドラーではない。

これは元々パブロ・エスコバルの言葉だ。

それでもってこの場はどうやら金では収まらないらしい。

残っているのは……

パブロは張の手を取りダッシュで食堂から走り去った。

「追え!」

当然だ。

「ちょっとエスコバル!? いきなり何のつもりだい!?」

こっちも当然だ。

「とりあえずここは逃げます! 後であいつらはぶっ飛ばします!」


「”平和は剣によってのみ守られる”私は正しかったようだな、ヒトラー」

アドルフ・ヒトラーが笑みを見せた。


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