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裏野ハイツの心霊事情  作者: 人見絢音
2/3

─住人たち─

「あのー、すいませーん!誰かいませんかー?」

お隣の部屋のドアをたたきながら、わたしはずっと叫んでいる。原因は、人の気配があるのに、ちっとも住んでいる人が出てくれないことだ。

参ったな……。早くかえってユリの様子を見たいのに。

「お嬢さん、203号室に引っ越してきた人?」

「ほえぇ!?」

変な声がでて、話しかけてきたお婆さんもかなり驚いたようだ。

「ご、ごめんなさいね。驚かせるつもりはなかったの」

「いっ、いえ!あの、この部屋、誰も住んでいないんですか?」

「住んでいるわよ。ただ、出ることは出来ないわ。……ごめんなさい、これ以上はいえないの」

お婆さんは申し訳無さそうに口をつぐむ。

「い、いいんです。あの、それより、201号室の方ですよね?わたし、引っ越してきた山里花梨です」

手を口に当ててほほえむお婆さんは、優しそうな雰囲気をまとっていた。

「201号室の城崎恭子です。花梨ちゃん、よろしくね」

「こちらこそ!恭子さん、色々教えてくださいね!」。

ふふふと笑った恭子さんは、70代前半だろうか。まだまだ元気そうだ。

「じゃあ、私はこれで。このハイツに住んでいる全員に挨拶しに行くんでしょ?頑張ってね」

そう言って立ち去ろうとした恭子さんのポケットから、紙が落ちた。

拾ってみると、その紙は写真だった。四隅が丸まっていて、若干黄ばんでいる。大切にし続けている証拠だ。

写真には私と同じくらいの年の男の人が写っていた。お孫さんだろうか。

「恭子さん、落としましたよ?」

振り向いた恭子さんは、電光石火の速さで写真を奪った。

ビックリしているわたしに、あわてていう。

「ごめんなさい!この写真、大事なものだから……、つい必死になっちゃって。ごめんなさいね」

それだけいうと、逃げるように201号室に駆け込んでいった。

──変なの……。普通、あそこまで必死にならないよ。

変だ変だと思いつつも、一階の住人たちに挨拶にいくこととした。


103号室には、三人家族が住んでいた。

「私が優奈で、旦那が加藤歩。今はねている息子が、悠よ」

穏やかそうな奥さんは、そう言って微笑んだ。

「わたし、山里花梨です!よろしくお願いします」

「はいはい。これからよろしくね。旦那は今出掛けているから、話しておくね」

短い挨拶を終えて、ドアが閉まった。

良かったー、普通の挨拶だった。ほっとしながら、次のドアを叩く。

「引っ越してきた山里花梨です。いらっしゃいませんか?」

すぐに返事が来た。

「帰ってくれ」

「え?」

「だから、帰ってくれ。人と関わりたくないんだ」

感情のこもっていない、くぐもった声……。何故かぞくっとし`て、逃げるようにして201号室に向かった。


「はい、ぼくが丸谷政人だよ」

「引っ越してきた山里花梨です。よろしくお願いします」

101号室の丸谷さんはこれから仕事があるそうで、早めに切り上げた。

ドアが閉まる寸前に、丸谷さんは言った。

「それと、ぼく、同居人がいるから」

深く意味は考えず、ユリの様子を見るため、階段を駆け上がった。




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