うしろからこっそり見守り隊
「ねぇ、ハルカ。私、海外に留学することにしたから」
ある日、姉が家に帰ってきて突然私に告げた。
ちょっと、まて、留学だよね?それって、普通、結構準備をかけてやるもんだよね?
隣の県に旅行するのと違うんだよ!!
いや、もしかしたら、人間関係が嫌になって、国外に飛び出したいのかもしれない。
私は、ちらっと、姉を見上げた。
学校から帰ってきたばかりの姉は、希望に満ち溢れていた顔をしていた。
私からは、何も言うまい。
姉の望美は、見かけは普通だが、友達が多い。
私の心配は彼女の彼氏候補だ。
以前、ネットゲームで知り合ったという男性を家に連れてきたが、わたし的にはアウトだ。
せっかく、お金持ちの学校にいるのだから、クラスメートを彼氏にすればいいのに。
「あぁ、ハルカ!前、いっしょにやったオンラインゲーム覚えてる?」
「えーと、『クラナドxクロス』だったよね?」
「そう、それでね、私、海外からアクセスできないんだけど、私のアバター代わりに使う?」
姉が話しているのは、テストプレー期間だけプレーしたオンラインゲーム『クラナドxクロス』のことだ。
どうやら、運営企画のコンテストで、彼女は週一回ログインするだけで、無料でゲームができるそうだ。
私もテストプレー期間の1週間だけ、やっていたが、3Dは疲れるし、課金ゲームには興味がない。
というか、上の兄と姉と一緒の時以外は、あまりゲームというものをやらない。
この場合、もし、私が姉のアバターを使うと(キャラ名は忘れた)、姉の妙な信者もいっしょについてきてしまう。
別に、ゲームとかしなくていいしな。いや、待てよ。この件をうまく使えば、姉にきちんとした彼氏さんを見つけてあげれるかもしれない。
「おねぇちゃん、私やるよ!」
私はよく考えずに、元気よく返事をした。
「そーぉ?じゃぁ、ログインIDとパスワードを教えておくね」
姉がさらさらとノートの切れ端に記号を書いていく。
「公式サイトは今メンテ中だけら、接続しにくいと思うけど、まぁ、楽しんでね!」
「うん、よくわからないけどわかったー、サンキュー!!」
「じゃ、私、ちょっと荷物をパッキンしないといけなから?」
「パッキン?」
「スーツケースに詰め込むってことね」
「んー、そうなの?」
「まぁ、何かあったら、ケータイにメールして」
「てか、おねぇちゃん、海外ではネットつかえないんじゃない?」
「んー、今はWiFiの時代なの。スマートフォンならカフェでネットできるわー」
へぇー。そうなんだー。すごーい。
「といっても、世界展開しているとこに限るけど。ま、どうにかなるっしょ。」
「おねぇちゃん、前向きだね。さすがだわ〜」
別れを惜しむこともなく、姉はさっさと外国へ旅立った。3日後のことだ。
兄も両親もそこまで驚かなかったようで、私としてはそこの方が意外だった。
今頃、新たな領土に足を踏み入れていることだろう。リアルの方で。
さて、静かに過ごしていた我が家だったが、問題が一つ。
「あれ、朝ごはんにパンがないんだけど」
「ちょっ、ハルカ、しーっ!」
少し不思議なごはん風景に疑問を持った私を兄が一生懸命止めた。
「おかーさん!パンないよー!」
「あるでしょ、そこに」
「そうじゃなくて、フワフワパン!」
「あれはねー、望美がつくってたのー」
「へー、って、え?」
ずっと、どっかで買ってきたものだと思ってた。
「ちょっと、ハルカ相談があるんだけど」
「どうしたの?お兄ちゃん?」
「どっちが晩御飯つくる?」
「どういうこと?」
「お兄ちゃんとしては、コンビニ弁当でもいいんだけど?」
ちょっと、雲行きが怪しくなってきた。
てか、もしかして、姉がずっとご飯を作っていたのだろうか?
「今日の晩御飯、何があっても文句いうなよ?」
兄が深刻そうにいうので、とりあえず、今日は黙って従うことにした。
私はその夜ほんとのナイトメアを体験する。