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6.

 コンコン

 窓を叩く音。

 康太が隣にいるから声はかけられないようだ。

 カーテンをレースのカーテンごと一気に開ける。そこにはカーテンが全開になった部屋にもうすでに制服に着替えた慎一がいた。そして、窓ガラスに映る私も制服に着替えている。

 慎一は三十分後と大きくマジックでノートに書いていた三十に二重線を引いて十五と書き換えててこちらに見せる。大きく頷きアドレス交換しないといけないなあ、と思った。これはこれで何だか楽しいんだけどね。


 玄関を出ると慎一も出たところだった。バッチリ十五分後だった。

 少しだけ離れて歩くつもりみたいで先に歩き出してしまった。近所にはアピールしないんだね。バス停で一緒になってはじめて慎一は私の方をむいた。

「渚、おはよう」

「おはよう」

 何となくぎこちない会話になる。意識してしまう。私の部屋じゃない場所での会話。二人だけじゃない場所での会話。


 バスに乗って話をしていたら、少しずつぎこちなさがなくなってきた。まあ、ぎこちないのは私だけだったみたいだけど。バスを降りる頃にはすっかり楽しい気分で登校している。昨日この門を出た時には考えられない状態だなー、と、のんきにしてたのが気に入らなかったんだろうな。後ろから思いっきりぶつかって来られた。

「痛っ!! 」

「渚、大丈夫か」

「うん」

「あいつって……」

 何も言わずに通り過ぎて行ったんだからワザとやったにちがいない。ワザとぶつかって来たのは北原先輩だった。別の男子と一緒いるの見たよ。ひどいじゃない。もうすでに慎一から他の人に乗り換えといて!! まあ、あんまりそこの話は出来ないんだけど。人のことを言えないから。誰も私の気持ち知らなくてよかった。



 慎一と別れて教室へと歩いて行く。ぶつかって来られたけど、気持ちは晴れやかなままだった。


「渚!! どういうことよ?」

 教室にはいるなり、友美と沙也加に両脇を抱えられて運ばれるように自分の席に連れていかれる。

「どういうって……その……」

「なんで藤堂先輩と登校してるのよ!? 」

 あ、慎一が隣の家だって二人は知らないんだった。慎一とは高校生になってほとんど口を聞いてなかったから。

「その……いろいろあって、しんい……藤堂慎一と付き合うことになったの」

「いろいろー? いろいろって何よ!?」

 いろいろはいろいろだよ。ややこしい説明になるし……倉田君の話から姫川さん、果てはさっきの北原先輩の説明にまで話は及んで行くんだから、言えない! いろいろ過ぎて言えない。

「いろいろはいろいろだよ」

「意味わかんない! 」

 友美、完全に怒ってる? なんで?

「どっちの告白よ!?」

 その点、沙也加は余裕だな。どっちの告白か……あれは先に言ったのは慎一だよね。

「慎一から」

 あ、しまった。

「慎一ー!?」

 友美怒ってる? 本当に怒ってる?

「いきなり下の名前? 向こうも渚って呼んでるの?」

 沙也加は反対に楽しそうだけど! 大きく話がズレてる!

「あーもう! そうじゃないの!」


 ということで、慎一はお隣さんの幼馴染だって説明でなんとか沙也加の好奇心と友美の怒りは収まった。友美はどうやら慎一のファンだったらしい。全く気づかなかった。が、あくまでファンだと言い張っていた。なにがどう違うのかわからないけど北原先輩のような恨みを持たれなくてよかった。


 こうして、敵意のある北原先輩のことは気がかりだけど、楽しい学園生活が送れるなんて思ったのが甘かった。


 昼休みに静寂は破られた。姫川さんに呼び出されて小突き回されるという、意味がわからない展開になった。どうやら鬼の形相で私に文句を言っている姫川さんの話を順番良く意味の通るように並び替えていったら……倉田君に振られたのは私のせいだという話になった。いったいどんな思い込みなのか? そして、挙句に私が慎一付き合ってるってどういうこと? と攻められています。どういうこと? も姫川さんの行動が全てここにたどり着かせたんだけど。

「どうって言われても……倉田君のことは知らないし……私は倉田君は姫川さんと付き合っていると思ってたし」

 事実はそうだった。

「そうよねー。あそこまでしたのに、今さら水樹さんが好きだなんて言われても」

 そう倉田君に言われてこうなってるんだね。慎一のアドバイスにしたがって倉田君そう言ったんだろうけど、何もそこに私を入れてこなくてもいいのに。

「それは……知らなかったし……もう慎一と付き合ってるんかだら」

 そう、そこを私が責められるのは違うでしょ? 倉田君と姫川さんの問題なんだし。

「そうよねえ。じゃあ、水樹さんは知らないってことよね。うん、うん」

 さっきの小突き回したことなど忘れて親しそうに手を握ってくる。嫌なんだけど。付け回して平気なだけあるね。私の気持ちなんてお構いなしなんだから。

「じゃあ、あの行くね」

 振り返ると、そこに当の本人の倉田君が来ていた。沙也加か友美が呼んだんだろうか。そんなことするより加勢してよ。余計に話がややこしくなるじゃない。

「姫川! こんなところで水樹と何してるんだよ!」

「ああ、倉田君。なんでもないただの話だよ」

 極上の笑顔で答える姫川さん。さっきの鬼の形相を倉田君にも見てもらいたくなったよ。

 そして、普通話をするだけでこんな体育館の裏なんていかにもな場所を選ばないって姫川さん。

「本当にか? 水樹」

 あの憂いのある色気がバンバン伝わる目でこっちを見ないでよ。そんなんだから姫川さんが勘違いするんじゃない。そして、私も。

「あー。うーん。まあ、話は終わったから。私は戻るね」

 何か知らないけど姫川さんの付きまといに巻き込まれてめちゃくちゃ迷惑だよ。小突かれたところは何気に痛いし。さっさとこの場を去ろう。倉田君の横を通る時に言われた。

「藤堂先輩と付き合ったの? 」

「え? あ、うん。だから、巻き込まれても効果ないよ」

「巻き込んだんじゃなくて、本心なんだけど……」

 そう言って腕を掴まれた。返事なしではかえしてはくれないってことだね。本心か……遅い、遅いよ倉田君。あれがなければ付き合ってたな。

「私も本心で慎一と付き合ってる」

「そう、そうか」

「そう」

 やっと手を離してくれた。

「ちゃんと言わないと姫川さんには伝わってないみたいだよ。倉田君がその気じゃないならはっきりした方がいいよ。じゃあね」

 倉田君もまんざらじゃなかったんじゃないかって気がしてたから、一応言っといたけど。あの満面な笑みで倉田君を見てる彼女を説得するのは難しそう。

 慎一はどうやったんだろう。まだ北原先輩は根に持っているというか、忘れられてないみたいだけど。


 と、体育館の角を曲がったところに、慎一がいた。

「あれ? どうしたの?」

「いや、心配になった渚の友達が来てくれたんだよ。なんか絡まれてるって聞いたからてっきり北原かと思ったけど。違ったみたいだね」

 嬉しそうな笑顔。さっきの私の言葉を聞いてたな慎一! ちょっと恥ずかしい。


 私達が校舎に向かって歩いているとバタバタと後ろから走って来る音がした。振り返ると涙ぐんでる姫川さんだった。さっきの笑顔は消え去り私を睨みつけながら去って行く。

 ドンって!

「痛っ!」

 またぶつかってくる!! あの顔はワザとだよ。また怒らせてるよ。知らない間に。倉田君は何を姫川さんに言ったんだろう。

「渚大丈夫か? 」

「もう、最悪!! 」

 ……あの時の最悪……今の私……最悪じゃあないね。今の私には慎一がいるんだから。

「どうした、渚? 」

「ううん。最悪じゃないなと思って。慎一がいるしね」

「ふーん」

 さっと慎一に手を握られる。

「また北原先輩の怒りを買いそうなんだけど」

「どうせ買ってるだろ? 諦めるまで見せつけたらいいんじゃない? 」

「諦めるまでねえ」

「すでに別の奴が標的になってるはずなんだけどな」

 標的って……殺し屋みたいだよ。北原先輩。確かに怖いけどあの目は……。



 慎一の言う通り北原先輩の嫌がらせはすぐに終わった。標的が変わってたからだろうな。殺し屋みたい。

 そして、姫川さんも。すぐに違う男子にアピールをはじめて私の存在なんて完全に無視されている。女って怖い。同じ女だけど。



 慎一とは登下校したかったのに、倉田君の想いを知った慎一は下校まで軽音部の第二音楽室の前で待つことを許してはくれなかった。どうせ倉田君とは教室で毎日会うのに。変なところを気にするな慎一は。まあ、窓越しにいつでも会えるからだろうな。放課後、私は窓もカーテンも開けて慎一の帰りを待っている。毎日慎一の窓をノックする音が聞こえてくるまで。



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