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1.

 学校からの帰り道。

「最悪……」

 独り言も出てくるよね。……あんな場面に出くわすなんて!



 それは二ヶ月前に倉田遼一と同じクラスになったことから始まる。


 高二になりクラス替えがあった。同じクラスになった倉田遼一は一年生の頃にたまに見かけたりしたことあるなというぐらいだった。クラスが一緒になっていきなり一目惚れをしたわけじゃなかったが、タイプだなぐらいの存在であった。倉田遼一はそこそこモテていた。周りの女子の反応が華やかだった。そんな彼は私の中で少しずつ気になる存在へと変わっていった。

 それが一気に好き! に変わったのは、あの瞬間だった。


 三週間前のある日。日頃からドジな私は階段を下りる直前に友達に話しかけられて、そのまま振り返りながら前へと進んで足を滑らせて階段の最上段から転がり落ちるところだった。

「キャ」

 その私の腕を掴み引っ張りって助けてくれたのが倉田君だった。しかも、そのまま倉田君の胸に抱きかかえられるという事になってしまった。勢いがついたせいもあって、すっぽりとみんなの前で倉田君の腕の中に入ってしまった。

「大丈夫? 」

 覗き込み私にそう聞く長身の倉田君の顔が近い。この胸のドキドキが聞こえてしまうんじゃないかと心配になるくらい私の胸は高鳴っていた。

「ごめ……。ありがとう。倉田君」

 私の気持ちはどんどんと彼へと傾いていった。

「いいよ。気をつけてね。水樹さん」

 いつもの爽やかな笑顔で言う倉田君。

「うん」

 そんな会話を彼の胸から出ながら言う。みんなに気づかれてない? 顔が熱い。きっと耳まで赤いはず。階段は他の場所よりも暗い、だからみんなには見えてないのかな? ドキドキは止まらない。はあー。ダメだ。私は完全に倉田君を好きになった……。


 それと同じ時期に同じクラスの姫川さんと倉田君が仲良くしてるのを見かけることが増えていった。はじめは猛烈な姫川さんのアプローチだったのがだんだんと、二人は付き合ってるんじゃないかと女子の間で噂されはじめた。どうか、ただの姫川さんの一方的なアプローチであることを私は祈っていた。


 放課後になり友達と話をしながら帰っていた時に数学の宿題のプリントの話題になった。難しい、あれはないという友達の話を聞いていて、数学のプリント……あれ? カバンに入れたっけ? と、なんとなく不安に思った私は歩きながらカバンの中を探した。ない……。

「ちょっと待って! 」

 と、他の二人友達の歩みを止めて、カバンを地面に置いてカバンの中を探る……やっぱりない。

「ない! プリントない!」

「また? もう、渚ってば忘れ物多いよ!」

「えー! また戻るのー、教室まで?」

 プリントを取りに戻る道のりを考えてゲンナリする私。もう門を出てしまって、そこからも歩いてしまっている。

「自分で忘れたんでしょ? 早く取りに戻らないと教室に鍵かけられるよ!」

「えー!」

「えー! じゃない! 行っといで。私達は先に帰ってるからねー」

「えー!」


 まあ、忘れたのは私だし。どうせここからあと少しで友達と別れる。友達に待っていてもらう必要もないし、悪いし……だけど最悪だよー!



 しぶしぶ友達と別れて教室へと戻る。上靴に履き替えるのもめんどくさいなとウンザリしながらも、トボトボ一人で教室に向かう。教室の手前で声が聞こえてきた。楽しそうな女子の声が。誰かまだ残ってるんだ、ぐらいに思っただけで教室のドアの前に来た。私は中も確かめずに

 ガラガラ

 と、一気に教室の扉を開けた。

「あ……」

 思わず声が出てしまった。

 そこにいたのは、私の声でこちらを向いてる姫川さんと……倉田君だった。二人はさっきまでキスしてた。姫川さんが長身の倉田君に抱きつくように。今も倉田君の首に姫川さんは手を回したままだ。

「水樹! あのこれは……」

 と、姫川さんの手を離しながら倉田君が言うのを遮って

「忘れ物! 数学のプリント忘れちゃって」

 と話ながら、私は二人の横を通り過ぎて自分の机を探る。良かった。プリントはすぐに見つかった。

「じゃあ、ごめん。お邪魔して」

「水樹、あの……」

「バイバイ、水樹さん」

「バイバイ」

 と姫川さんの言葉に答えて、また二人の横を通り過ぎて廊下へと出る。

「じゃあ」

 ガラガラ ガン

 勢いよく教室の扉を後ろ手に閉める。


 最悪……


 というわけで今ここにいる。トボトボではなくスタスタと家に向かっている。こぼれ落ちそうな涙を流すまいと必死で堪えながら。




 やっと家にたどり着いた。玄関の鍵を開ける。良かった今日で。今日は母が出かける用があるから夕食の時間まで帰らないと朝に話していた。だから、今朝は鍵を持って家を出てきた。一つ年下の弟はいつものように部活で遅いだろう。鍵を開けて入った我が家に私一人だけなんだけど、それでも泣くのを我慢して自分の部屋に向かう。自分の部屋に入りドアを閉めて、カバンを置いて……ベットに座る。パタンと横向きに体を倒す。すぐにでも涙が溢れて号泣するんだと思ってたのに。部屋に入ったらさっきまで私の中にあった涙が引っ込んでしまった。


 その時、私の部屋の窓を

 コンコン

 と叩く音がする。

 こんなことができるのは一人だけだ。起き上がって振り返りベットの上にある窓を見るが、向こう側が見えないレースのカーテンがかかっているのでなにも見えない。


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