旅の連れ
燃え上がる炎、赤く焼けた鉄、筋骨隆々のおっさん達が鉄を叩く音。
目を閉じて想像して欲しい。・・・・想像してもらえただろうか?
つまり何が言いたいかというと。
「・・・・・・・・・・・あっつい」
こういうことだ。鬼だろうがなんだろうが暑いものは暑いのである。というか暑苦しい。
無月はシャルル達に連れられ鍛冶場に訪れていた。
「鍛冶場になんの用があるんだ?」
「あなたの武器を作るのよ」
「それ、わざわざ作る必要あるのか?」
「今、城にあるのは魔法の使用を前提として作られた物でそのための機構が組み込まれています。ムツキが使ってもその部分が完全に無駄なものになるので武器としての性能は並以下となってしまします」
「だからそういう機構を排除した物を一から作ったほうがムツキが使うには都合がいいのよ」
「時間かかりそうだしそこまでしてもらわんでもいいんだけどな、城の連中だっていい顔はしないだろ」
「・・・いいのよ、そんな事は気にしなくて。私たちがやってる事なんて結局人攫いなんだから。こんなこと罪滅ぼしにもならないわ」
このお姫様はどうやら被害者面したいだけの莫迦ではないようだ。
「気にかけてもらえるのは正直ありがたいがね。そう卑下しなさんな」
無月としても事実をみれる人間は嫌いではない。
「ありがとう。それでムツキの希望を言って欲しくてきてもらったの」
「なるほどね。・・・そうだな、鈍器がいいな。金棒なら言うことないんだが、兎に角強度を追求して欲しい」
「カナボウ?」
「鉄の棍棒と考えてもらっていい。手元から先端に向かって質量が増していくあれだ」
「それならハンマーでいいんじゃなの?」
「ピンポイントの打撃は性分じゃなくてね。薙ぎ払う方が合ってんだ。だからサイズも長めのほうがいいなぁ、これくらいは欲しい」
そう言い無月は胸の高さに右手の手のひらを下に向け挙げた。
「わかったわ。鍛冶師に伝えとく。あとムツキの握り型が欲しいのだけど」
「ああ、了解だ」
そうしてシャルルは親方に要望を伝えに、無月はラピスに連れられ握り型をとりに別れた、そして用を終え合流した無月が気になっていた事をシャルルに告げる。
「で、こん人らはなんでいるんかな?姫さん」
「ああ、実はね・・・」
無月の問いにシャルルは言い淀む。
「ムツキの旅に同行したいそうです」
シャルルの代わりに答えたラピスに無月の反応は。
「断る」
当然、こうである。
「あなたならそういうと思ったわ・・・彼らは模擬戦でムツキの相手をした者達よ」
あの少女も混ざっていたのでそんなとこだろうと見当はつけていた。だが、わからない。
「ついて来てどうすんだよ。俺は異世界を見て回りたいだけだ、なにか特別なことをやるわけじゃないぞ」
そう何のためについて来るなんて言ってるのかがわからない。
「強くなるためにムツキに同行したいそうよ」
「は?意味がわからん、何考えてんだ」
そう言って無月は兵士達をみる。無月の視線を受けて一人の兵士が歩み出る。
褐色の肌、灰色の瞳に銀色の髪、頭の上に付いている犬のような耳が特徴的な女性である。
「名乗りが遅れたことをお詫びしますムツキ様、私はミーアといいます。彼らは」
「カインっていいます」
「シアです」
「リーナです」
ミーアに続いて名乗る兵士達。4人とも強い意志を感じさせる瞳をしている。しかし模擬戦で無月が話しかけた少女はリーナというらしいが、それにしてもと無月は思う。
「リーナもそうだがカインとシア、若すぎないか。中里くんとそう変わらないだろ」
「そうですね。3人ともアキラ様と同じ歳です」
「はぁ・・・そうかい。なぁ、この世界ではこのくらいの歳の兵士は普通なのか?」
「15歳になれば兵士に志願できます、まぁ多くはないですが。かくいう私も15の時、故郷を出て兵士になりました」
無月の疑問にミーアが答える。
(まぁ北から魔物が押し寄せて来るって思えばしかたないのかね)
「なるほどねー。っと、そんな話じゃなかったな。強くなりたいってことだが、それがどうして俺に同行って話になるんだ」
「あの時の殺気、あのようなもの並みの者が放てるとも思えません。それにムツキ様はあの夜、魔力など武器の一つに過ぎないと言われました。我らにしてみれば魔力は絶対の武器、それを貴方は数多ある物の一つと言ってのけ、それを実践してみせた。我らの知らない強さ、それを知りたく王女様にムツキ様の旅への同行を願い出た次第です」
「俺の強さねー、参考になるとも思えんがね」
ミーアの瞳に宿る意志がその強さを増す。
「そうかもしれません。しかしついて行けばあなたの戦いを間近で見ることができます。魔力を持たないあなたの戦いを。そこから何を掴むかは我ら次第」
「ただの観光のつもりなんだがなー」
「それなら尚の事我らはムツキ様のお役に立てると思いますよ。異世界人のムツキ様ではこちらの世界の勝手が分からないこともあるでしょうし、それに我らは王都から離れた地方の出、各地の案内もできましょう」
「んー」
確かにこちらの世界の者がいれば何かと便利だろうとは無月も思う。護衛というわけでもないのだからそう堅苦しいことにはならないだろう。だが首輪という可能性もある、それは正直ウザイ。
(どうしたもんかねー)
「お願いします!絶対に旅の邪魔になるようなことはしません!!」
「私たちに出来ることは雑用でもなんでもします!どうか!」
「お願いです!俺たちも連れてってください!!」
悩んでいた無月に今まで黙っていた3人が真っ直ぐな瞳で必死に頼み込んでくる。
そう、若者らしい澄みきった実に真っ直ぐな瞳で。
(それはちょっと狡くないかね君たち・・・・)
「「「・・・・・・・・」」」
「どうでしょうか?ムツキ様」
ミーアは少し不安そうな表情で聞いてくる。
(美人さんは憂い顔も絵になるねぇ・・・)
無月は現実逃避気味にそんなことを思う。だんだん考えるのが面倒になってきたようだ。
「・・・・・・わかったわかった、りょーかい。好きにしてくれ」
「「「「っ!ありがとうございます!!ムツキ様!」」」」
同行の許可を無月から得たことで4人は満面の笑顔で礼を言ってくる。
「ただし『様』は無しだ」
「わかりました。道中よろしくお願いします。ムツキ殿」
「「「よろしくおねがいします」」」
「あーよろしく」
(まぁー首輪なら振り切っちまえばいいか)
旅の連れができましたとさ。