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王の器

「王を……選ぶ、だと?」


「そうだ」


 無月の言葉に皆が一様に沈黙する、いきなりの無月の問いに言葉は聞こえていても理解が追いつかなかった。

 その中で一番に反応したのは、やはりと言うべきか……現アルトニア国王だった。


「ふ、ふざけた事をっ、王は私だっ!選ぶも何もないっ既に定まっておる!誰でもないっ、この私こそがアルトニア王国の国王なのだっ!!魔物の分際で王を選べだとっ!何を吐かすか!!そんなもの貴様には関係な――」


 怒りにまかせ捲し立てる国王を視線で射抜き黙らせると無月は「阿呆が」と吐き捨てる。


「誰かの上に立つ者は常に問われ続ける、昼も夜も無く、寝ていようが起きていようが、飯を食っていようが糞を垂れていようが関係なく何時如何なる時も問われているんだよ。お前は本当に自分の上に立つ者なのかとな、今この時にもな。貴様がいくら我が王だと吠えようがそんなもの関係あるか、王とはその座へと押し上げられた者が成るものだ」


「……王は私だ。レオン=アルトニアこそがこの国の王なのだっ!私を措いてアルトニアを背負える者がいるものかっ!!!」


「ならば証明してみせろ」


 その言葉と共に無月は殺気を放つ。それはミーアたちを相手にした時よりも、苛立ちにまかせギルドで放ったものよりも冷たく重い、時すら怯え止まってしまうのではないかと思うほどのモノだった。


「王とはただ一人で成るものではない」


 その殺気を当てられ動ける者は居なかった。


「貴様を王と定める者が居るなら」


 てつき止まってしまった空間で動ける者は無月のみ。


「俺を止める者が居るはずだ」


 無月は金棒を床から引き抜き破片を払う。


「さぁ、貴様が王足る器であることを示せ」


 ゆっくり、ゆっくりと無月は国王へと歩を進めていく。だが、その歩みを止める者はなく国王の前に立った無月は静かに金棒を振り上げる。


「わかったか。示せるものが無ければ、応える者は居ない。まぁ、当たり前の話だ」


 無月を前に、国王は力なく膝をつき表情が抜け落ちた顔で無月を見上げていた。

 もはや語る言葉はないと金棒を振り下ろそうとする無月。

 しかし、それを止めようと悲鳴にも似た声を上げる者がたった一人。


「やめてえええええええええええっっ!!!!」


 呼吸すら止まってしまいそうな空間で、シャルルだけが無月を止める声を上げた。


「お願いっやめて無月っ、私はそんな事を望んだんじゃないわっ!!私は前へ進みたかっただけ!!」


 だが無月はその声に振り向くことも答えることもせず、金棒を握る手に力を込める。


「だめええええええええええっ!!!」


 止まる気配のない無月に近衛騎士の剣を奪い取り駆け出すシャルル。がむしゃらに走り背を向ける無月の心臓に向けて剣を突き出す。

 だが、その刃は心臓を貫くことはおろか皮膚を切り裂くことも出来ず、振り返った無月に握り潰された。

 鉄の砕ける甲高い音が響き、ついでシャルルの苦しそうな声が上がる。無月はシャルルの細い首を握り、表情を動かすこともなく絞め上げた。

 その光景にミーア、リーナ、カインが近衛の剣を手に駆け出し、シアは持てる魔力の全てをつぎ込んだ氷の矢を放つ。氷の矢は無月の額に、ミーアとカインはシャルルを中釣りにしている腕に剣を振りおろし、リーナは無月の喉を狙い剣を突き出す。

 そのどれ一つとして無月に傷つけることは出来なかった。


「ううっ」


「シャルル様!ムツキっ頼む離してくれ!!」


「ムツキさんっ、なんで!!」


「頼むよムツキさんっ!やめてくれ!!」


「……ムツキさん、やめてください」


 殺気を緩めることも、シャルルを解放することもない無月に三人は剣を振るい続ける。魔力を使い果たし膝をつくシアも懇願の声を縛り出す。

 絶望的な状況、その中で必死になる四人の姿に突き動かされたのか一人の騎士が声を上げ駆け出した。


「殿下っ!!!」


 いまだ無月が殺気を緩めることのない中、駆け出した騎士に引っ張られるように残る騎士たちが続き無月に向けて剣を、槍を突き立てた。

 しかし、無月に傷を負わせることは出来なかった、無月は自分を取り囲み刃を突き出しくる者たちを一瞥くれるとシャルルを床に放り投げ金棒を軽く後ろに振った。そこから僅かなタメをおき、前に居る者たちに向かって横薙ぎに振るう。無月の視界の端にいた騎士が金棒を剣で受けるが、金棒は止まることなく間合いの中に居た騎士たちをまとめて薙ぎ払った。

 そしてそこで一歩踏み込んだ無月は振り抜いた金棒を返し一文字に薙ぐ、薙ぎ払われ宙を舞う騎士たちに目を向けることなくミーアたちによって下がらされたシャルルを見据え歩き出す。


「何をしているお前たちっ!早く殿下をお連れせぬか!!」


 いまだ逃げることなく留まっていたミーアたちに騎士たちが叫ぶ。


「ここは我らが引き受ける!」「殿下を早く!!」


 シャルルを避難させようとする騎士たち、だが無月はそれを許さない。

突然、青白い炎が燃え上がり四方の壁を覆い尽くした。


「ぐっ、これは!?くそっ!」「おのれっ化物めぇぇぇっ」「はああああああああっ」


 必死に無月を止めようと騎士たちは剣を振る、槍を突き出す、魔法を放つ、そしていつの間に参戦していたのかその中にはエリック王子の姿があった。


「あなた達っ!」


 首を絞められたせいで意識のはっきりしないシャルルを庇いながらも逃げることが出来ず、出鱈目な力を見せつける無月に視線を奪われて居たミーアたちの視界をドレス姿の背中が遮る。


「……お、お姉様」


「シャル、良かった意識はあるのね」


 この場にそぐわない柔らかく優しい声音で妹に言葉を向けるサーシャ王女。顔だけ振り返り妹を見下ろすその碧眼は優しげに細められていた。


「……どうして」


「可愛い妹がひどい目に遭わされたんだもの、黙って居られるわけないじゃない。お兄様なんてバーサーカーみたいに猛り狂ってるわ」


 それからサーシャ王女はキッと無月を睨み据え力強い声でシャルルに言葉を向けた。


「大丈夫、お姉ちゃんたちがシャルを守ってあげるから……ミーア、リーナ、シア、カイン」


「「「「はっ!」」」」


「妹をお願いね」


「「「「御意!」」」」


 ミーアたちの返事に満足したサーシャ王女は腰まである金褐色の髪を揺らし無月に向かって走っていた。



○●○



 意識はあれど身体は動かず首だけを巡らし射殺さんばかりの視線を送る者たち、その視線の先にはシャルルを見下ろす無月が居た。

 シャルルはシアに抱えられながら力なく無月の瞳を見返し、ミーア、リーナ、カインが二人を庇うように無月の前に立っていた。


「ムツキ……」


 シャルルの呼びかけにも無月は応えない。国王とのやりとり以降、無月は一言も言葉を発していなかった。


「私は間違えちゃったかしら、でもね……貴方がどんなに蔑もうと私のお父様なの。私は貴方を恨みなくなかったの」


 弱々しい笑みを浮かべながらシャルルは無月に語りかける、しかし無月はそれに応えることなくゆっくりと金棒を振り上げる。


「ムツキっ!!」


「お願い!ムツキさんっ!」


「ムツキさんっ、どうして!!!」


 ミーア、リーナ、カインは手に持つ剣を、そしてその身をシャルルの盾とするべく無月の前へ立ちはだかりシアはシャルルを庇うように覆いかぶさる。

 そして金棒が振り下ろされた瞬間、ミーアたちは身体にグッと力を込め視線を送っていた者たちから絶叫が上がる。


――やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!!!


 その場にいた全員の頭に浮かんだ惨状、肉片となって飛び散ったシャルルの無残な姿。

 しかし、それが現実となることはなかった。

 振り下ろされた金棒はミーアたちの構える剣に当たる直前で止められていた。


「やはり俺の見立ては間違っていなかったようだな」


 金棒を担ぎ玉座に振り返った無月はその顔に笑みを浮かべながら呆然とするアルトニア国王に言い放つ。


「小僧っ!これが王の器というものだっ!!!」





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