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己を人と言うならば

「ハッ!!随分と思い切ったことするじゃねぇかっ!!!」


 謁見の間に通された無月は予想外の事態に声を張り上げた。

 謁見の間には玉座に座る国王、そしてその隣には王妃であろう女性。そこから一段低い位置に第一王子と第二王女、扉から玉座のある段まで敷かれた赤絨毯の玉座側の両端にシャルルと壮年の男性。

 さらにはおそらくはこの国に精鋭であろう、煌びやかな鎧に身を包み一様に厳しい視線を無月に向ける兵士たち。

 無月がその気になればアルトニアの頭と切り札をまとめて皆殺しに出来る、そんな状況であった。


(ふむ、話が大分違うようだが。国王は何を考える?)


 ぐるりと中を見回した無月は左手を顎にやり口元に獰猛な笑みを浮かべながらゆっくりと玉座に近づいて行く。

 今までのことを踏まえてそれでも無月をぎょせると思ったか。

 それとも玉砕覚悟の愚行か。

 はたまた、己が無力に向き合えぬゆえの虚勢か。


「初めましてだな、アルトニア国王」


シャルルたちの手前で足を止め玉座の王を見据え口を開く無月、その態度は周りに居る者たちとって不敬以外の何ものでもないのだが非難の声が上がることはなかった。

まぁ、向けられる視線は射殺さんばかりの殺気を纏ってはいたが。


「……んーまぁ何かしらは言い含めてはあるのか、さて」


そこから無月はカランと下駄を鳴らし玉座の真横へ一足飛びに移動したのち玉座の背もたれに手を置き国王を見下ろした。


「姫さんが話したのは父と兄と姉、そして宰相ってことだったがここに居る奴らはどこまで知っているんだ?」


「ここに居る者たちはお主が何者か知っておる」


「ほー」


「まずは、勝手に人を増やしたことについて詫びる。そして此度の会談に応じてくれたことに感謝する。私はアルトニア国王、レオン=アルトニア。横に居るのが妻のソフィア、シャルルと並んで居るのが宰相のアレク。控えている兵たちは国王直属の近衛騎士たちだ」


 無月の行動に怯むことなく言葉を紡ぐ国王、その様子に意外に思いながら無月は玉座から一歩下がる。


「こそこそ覗き見するだけで仕掛けてこないから期待はしていなかったが」


 そこまで言った瞬間、無月の体を青白い炎が覆い隠す。そして炎の中から鬼の姿に戻った無月が現れた。

 その姿を目にした騎士たちが一斉に構えるが、国王はそれを制す。


「王を名乗るだけの気概は持ち合わせているようだな……そうさな、先ほど詫びると言ったな」


「ああ」


「ならばそれを形で示してもらおうか」


 この言葉に一気にこの場に居る者たちの緊張が高まる。

 国王を見据え一層迫力が増した無月がゆっくりと口を開く。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「とびっきりの酒を持って来い」


「……酒、か?」


 無月の要求に皆がかなり間抜けな表情を浮かべ、それを見たシャルルは必死に笑いを堪えようと肩を震わしていた。


「こっちに来てからロクなやつを口にしてなくてな、いい加減ウンザリしていたところだ。王城なら少しはマシなのがあるだろ、まぁ話は呑みながらのんびり付き合ってやるよ」




○●○




「で、結局こんだけ集めて何がしたかったんだ。近衛騎士だけならまだ分かる、王子と王女に宰相おまけに王妃だ。わけがわからん」


 そう無月が口にしたのは空になった酒樽が十を数えた時だった。

 無月の要望に運んでこられた酒瓶を一瞥するや「樽で持って来い」と言った無月は騎士たちが運び込む酒樽の蓋を叩き割り樽の酒を一気に飲み干した。そしてやれ深みが足りん、やれキレが悪いと批評を吐きながら酒樽を転がしていったのである。


「集めたのではない、集まったのだ」


 エリック王子とサーシャ王女が事の次第を王妃に話し王妃が近衛騎士たちを引き連れてきた、そしてエリック王子、サーシャ王女、宰相までがやってきた。誰もが戻れという国王の言葉を頑として聞かず押し問答をしてるうちに無月が来てしまい今に至るということだった。


「ふむ、二人の身を案じて、か。『厄災』相手にもその気概を見せて欲しかったもんだな」


 呆れた表情で酒を呷る無月、この言葉に全員が苦い表情を浮かべていた。


「まぁいい、んじゃ本題だ。話しがしたいってことだったが?」


 無月の視線を受け国王は頷き口を開く。


「教えてもらえぬだろうか、お主の考えを」


「考えねぇ……そんなもん聞いてどうするんだ」


「私は王として選ばねばならない……シャルルも全てを話したわけではないだろうからな」


 国王の言葉で無月の顔から表情が抜け落ちる。


「王として選ぶか……選ぶ、ねぇ。まだ執着・・を捨てられないわけだ。貴様はまだ目の前に居る者が何であるか理解出来ないわけだ。あれだけ見せれば十分かと思ったんだが、まだ足りなかったわけだ」


 言葉は静かだが一言紡ぐ度に無月から感じる圧力が増していく。


「選ぶと言ったがそれがどういう事か本当にわかっているか?」


「――っ、む、無論、わかって、いる」


 それを聞いた無月はため息を吐き、それと同時に不可視の圧力は霧散した。だが


這い蹲れ(はいつくばれ)


 その場に居た者たち、近衛騎士たち、宰相、王女、王子、王妃そして王。

無月が発した言葉に皆が見えない手に引き倒されるように床へと倒れ伏す。


「……抗ってみせろ」


 静かにそう言って無月は樽を呷る、這い蹲った者たちの呻き声を聞きながら、並べられた酒樽を一つまた一つと無言で飲み干していく無月。

 最後の樽を飲み干し床に転がすと静かにしゃべりだした。


「理解したか。お前らはもうどうにも出来ないとこまで来たんだよ。お前らは勇者召喚を選択し結果俺がこの世界に来た。もはや他者に縋ることは俺が許さん。これ以上俺らの世界がこの世界の人間の怠惰のツケを肩代わりすることはない。お前らが歩ける道は一つしかない。生き残りたければ自分らでなんとかしろ、それが嫌なら座して死を待て」


 話は終わりだと言って無月は国王たちに背を向けた。言霊の支配を解かれた国王たちは体を起こすが、しかし、立ち上がれた者は半分もいなかった。

 突きつけられた現実に力なく項垂れる者、未来に絶望しいまだ床に伏している者、そんな者たちを見回しシャルルは悲しそうな表情を浮かべていた。


「……我らには滅びの未来しか残されておらんのか」


 そう言葉を発した国王は立ち上がってはいても王の威厳はそこにはなく、ただ幽鬼のように虚ろで弱々しかった。


「俺は滅べと言ったんじゃない、てめぇらで何とかしろと言ったんだ。お前らが人だと言うなら矜持を持って生きることだ。誰かの後ろに隠れ己の保身の図るだけの下衆に他者の心を揺らすことはできぬ。誰かの手を欲するならまずは己自身が血反吐を吐くまで足掻いて見せろ。それが出来ぬなら畜生以下に堕ちるだけよ」


 振り向きもせずに歩き出した無月の下駄の音だけが部屋の中に響く。


「……貴様らがアイツと同じ人だと言うなら足掻いて見せろ」


 無月はそう言い残し部屋を後にした。





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