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『アルトニア王国』


 魔法の研究開発と人材育成に力を入れ、その技術力は他の追随を許さない。魔王軍との戦争でもアルトニア王国が世界に示した魔法の運用は各国の軍事力を飛躍に向上させた。魔法の運用はなにも戦闘分野に限った話ではない。建築、農業、医療分野など多岐にわたり魔王軍に多くの領土が奪われたにも拘わらず人族が絶滅という最悪の結果に至っていないのはアルトニア王国の魔法技術があればこそだろう。



○●○



「事の起こりは今から180年ほど前、この大陸の北には魔族と呼ばれる種族が住んでいました。彼らは数こそ少ない種族でしたが、強靭な肉体と高い魔力を有していました。ですが争いを好まず、周辺国とも友好な関係を築いていたと伝えられています。ですが、ある者の出現により状況は一変しました。その者は己こそが魔族の王に相応しいと謳いそのケタ外れの魔力と魔物を造り出す異能をもって当時の王を殺し玉座を手に入れました。そして周辺国を瞬く間に滅ぼして北の一大勢力になったのです。魔王はその後も戦を重ね勢力を拡大していきました、魔王の攻勢を危険視した各国は急ぎ同盟を結びこれに対抗したのですが、魔王の勢力を押し返すことは叶わず、このままでは遠からず世界は魔王の手に落ちるだろうと思われました。その時、我がアルトニア王国、西のシュタットガルド帝国、大陸中央のローク皇国の三国に創世の神イシス様より勇者召喚の秘術が授けられ召喚された初代勇者たちのよって魔王は討たれました」


「はっ?ちょっと待って!!え?!魔王倒されてんの?!」


「はい。しかし、魔王がその身に宿していた強大な魔力は消滅することなく魔王の支配下にあった地に留まり続け今もその影響を及ぼしています」


「影響とは?」


 驚愕の表情で「そんな……魔王討伐の大冒険が……旅の出会いが……ハーレムが……」と呟いてるあきらを無視して一樹かつきが話を先に進めた。


「魔物です」


「魔物は普通は存在しないのか?」


「いいえ、魔物は存在します。魔物とは自然界に漂う魔力が結晶化したものですから」


「つまり魔王の領土だった土地の魔物は特殊ということか?」


「そうです。旧魔王領に発生する魔物はどれも尋常ではない力を持って生まれるのです。旧魔王領以外でも特別に強力な魔物が発生することはあります。最上級の魔物、ドラゴンなどがいい例です。ですが、彼の地ではゴブリンやスライムといった一般に最下級とされる魔物が中級あるいはそれ以上の力を持って生まれてくるのです。そしてその発生率も他の土地に比べて高く北の地は中級以上の魔物が溢れかえっている状態なのです」


「つまり、今の状態では北の土地を活用できないから俺たちに魔物を掃除しろということか?」


「確かにそちらの方面でもお力を貸していただけるのなら喜ばしいことなのですが、皆様に助力をお願いしたいのはそれではないのです」


「……今の話より厄介なことがあるの?」


 王子の否定に静葉しずはが返す。目付きが厳しくなっているあたり、あまり回りくどい話は好まない性分のようだ。


「今までの話の延長と言ったところでしょうか。最上級の魔物、当然ですが北の地でもそれは発生します。初代勇者達も数回討伐していますが、初代が評するには単純な力なら魔王と並ぶと、我々はそれを『厄災』と呼んでいます」


「はぁ、……その魔王クラスの魔物の相手をさせるために私たちをこの世界に呼んだわけね」


「そんなっ!無理です!!化物と戦うなんて私っ」


 遥香はるかは不機嫌なのを隠すことなく確認を取るが王子の返答を待たずあずさが声を上げる。その眼は恐怖に染まっていた。


「異世界から召喚された勇者たちは皆、強大な魔力をその身に宿しています。初代勇者が魔王を撃てたのもその魔力があってのもの、それは皆様にも言えることです。我らはそのお力に頼るしかないのです。虫のいい話であるのは承知しております。ですが!どうか!我らの未来のためお力をお貸しください!!」


 そう言って立ち上がった王子は頭を下げた。二人の王女もそれに倣う。それを明は嬉しそうに、遥香は迷惑そうに、一樹と静葉は探るように、見つめた。梓は下を向き震えていた。無月は話の途中から呆れた顔で明後日の方を見ていた。王子達の懇願に沈黙が続いた。


「……魔力とか言われてもよくわからない。私達の世界には魔法なんて無かった」


静葉の言葉に王子たちが顔を上げた。


「そのようですね。それに関しては口で話すより実際見ていただいたほうが早いでしょう」


 王子はそう言うと後ろに控えていた兵士に目配せした。兵士は抱えていた箱から手のひらサイズの紙を取り出すと六人の前に置いていった。


「その紙を使い魔力を測ります。使い方は紙を手に持ち息を吹きかけます。このように」


 王子が同じような紙を持ち息を吹きかける、すると紙が発光し宙に浮いた。それを見た明は「おおっ!」嬉しそうな声を上げる。紙は徐々に光を強めていき黄色い炎をあげ燃え尽きた。


「そして炎の色によって魔力を測ります。色は魔力の弱い順に黒、紫、緑、黄、赤、青、白となります。大体の者は黒、少し素質のある者で紫の炎となり、冒険者や兵士を生業にしている者たちは緑がほとんどです。騎士団長や上位神官、宮廷魔導師になる者は黄色以上であることが絶対条件になります。召喚された勇者達は青か白の炎であったそうです」


「よしっ白!白来い!」


 王子の説明を聞き明は興奮しながら息を吹きかけた。光は徐々に強さを増していき出た炎の色は――


 白


「きっったああああああああああああああああああああ!!!!」


 出た炎の色に明のテンションは最高潮に達した。他の五人はそんな明に若干ひいた視線を送っていたが、やがてそれぞれに息を吹きかけていった。

 遥香、梓は青い炎が。一樹、静葉は白い炎が上がる。そして無月はというと。


「んー燃えないんだけど」


 光はするが一向に燃える気配がない。その様子に一緒に召喚された五人を除き部屋に居た全員が絶句していた。


「そんな、……有り得ないわ。これは……」


 第二王女サーシャが信じられないといったように呟いた。無月は「何が?」と説明を求めサーシャを視線を送る。


「……そもそもこれは魔力を測る魔法なのです。予め施された魔法が『息を吹きかける』という行為を鍵として発動し測定対象の魔力に反応して炎が発現します。浮いたり光ったりするのは魔法を施した者の魔力によるものです」


「あー……ということは」


 無月は結果に思い至った様子で返した。


「この状態は無色……」


 そこでサーシャは言葉を切りどう伝えるか悩んだように視線を伏せた。そして意を決したように無月の目を見つめ告げる。




「その身に一切の魔力を宿していないということです」




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