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王女との対話

「ほんで?」


「本題に入る前に一ついいかしら?」


 ここはシャルルの執務室。

 無月とシャルルは机を挟んで向かい合いソファーに腰掛けていた。

 ミーアとカインはシャルルの、リーナとシアは無月の後ろにそれぞれ控えていた。


「なんだ?」


「その格好は?」


「俺が居た世界の物だが」


「へー、異世界の。でもこちらに来た時の物と随分雰囲気が違うわね。初めて見たわ」


「まぁ大分古い物だからな、最近じゃ普段から着てる奴はそういねぇよ。知らんのも当然かな」


「そういえば、異世界の文化がこっちで広まった事って話聞いたことがないわね」


「そらぁ、ここの奴らは武力として勇者を召喚してるんだ。異世界の武器に興味を持つ奴は居ても衣服に興味を持つ奴はいないだろうさ。勇者にしたって、いきなり見知らぬ世界に連れて来られた挙句化物と戦えじゃそんな余裕もないだろさ」


 無月のこの言葉にシャルルは唇を噛み俯いてしまう。

 その様子に無月は頬を掻いてシャルルに言葉をかける。


「すまん、今のは意地の悪い言い方だった。別に姫さんを責めてるわじゃねぇから」


「……いえ、実際ムツキの言うとおりなのよね。ごめんなさい、気を使わせて」


「いいさ、じゃ本題に入ろうか」


「ええ」


 そう無月に言われシャルルは毅然とした表情で無月と向き合う。


「まず、無月が人ではない、という事なんだけど」


「あぁそれなら」


 そう言って無月は人化の術を解き、シャルルに鬼の姿を晒す。

 人ならざる異形の姿に加え黒で統一された羽織袴、そして脇には金棒。

 言い表せぬ圧力を放つその出で立ちにシャルルは数瞬声を失う。


「まっ、こういうことだ」


 無月の言葉にハッと我に返りシャルルは言葉を続ける。


「・・・本当に人じゃないのね」


「そうだ」


「……勇者召喚が使えなくなるだろうって言うのは?」


「ああ、それについては訂正する」


無月の言葉に五人はグッと息を呑む。


「召喚は既に使えなくなってる、再度使えるようにしようと動いても潰されるだろうな。というか場合によっては俺が出張ることになってる」


 それを聞いた五人は目を見開き無月を見つめた。

 無月が敵になるとも取れる発言にシャルルは静かに無月に問う。


「どういうことなのムツキ、貴方はこの世界に手を出さないんじゃなかったの?」


「そいえばリーナがそんなこと聞いてきたな、この際だからハッキリさせとくか。その世界・・についての認識が俺とお前らでは決定的に違う」


「どういうこと?」


「お前らの言う世界は人が生きているって前提がある。だが俺はこう言った。この世界の人(・・・・)がどうなろうと知ったことじゃないと、俺にとっては人が居ようが居まいがそこに在るならそれが世界だ」


「……人が滅びようと世界が存続するなら構わないと言うのね」


「そうだ、そして召喚術式を残せば世界が消える」


 無月の言葉に五人は黙って次の言葉を待つ。


「お前ら人は破壊神を怒らせた。召喚術式を残せば破壊神は、この世界を害悪とみなし跡形もなく消し去るだろうな。俺としてはこの世界を消させるわけにはいかんのよ」


「そんな貴方がミーナたちに力を与えると言ったのは何故?」


「気に入ったからだ。強くなりたいと言った時のこいつらは良い目をしていた。卑屈に歪むでもなく、憎悪に曇るでもなく、今は届かぬモノへ直向ひたむきに手を伸ばす真っ直ぐで澄んだいい目をしていた。そういう奴を久しく見てなかったからな、つい贔屓したくなったんだ」


 そう嬉しそうに語る無月の声音はあまりに穏やかであり、シャルルは今まで強張っていた体の力を抜く。


「贔屓、ね」


「ああ、贔屓だ。俺は全てに平等を、なんてこと言う聖人じゃねぇ。鬼だからな、俺は。好かねぇことは力で潰し、気に入ったのなら笑い、酒を酌み交わす。鬼ってのはそういうもんだ」


「そう、それなら私とは……私は貴方と酒を酌み交わすことは出来るのかしら?」


 少しおどけながらシャルルは無月にそんな事を言ってみる。


「ハハッ、姫さんほどの美女が相手なら断る理由はねぇな」


「フフッ、案外口が上手いのね」


 そう言ってからシャルルは表情を改める。


「人を捨てる事になる、というのはどういう事?」


 この問に無月は笑顔を引っ込め少し苦い表情を浮かべながら答えた。


「そのままの意味だ。人のまま力だけを与える、なんて芸当は俺にはできない。そんな事ができるのは神だけだ。ただそれをせずに勇者召喚なんてことをした事を考えるに。おそらくはこの世界のでは力を受ける器が足りなかったんだろうな」


「どういう事?」


「神から力を与えられても器に収まらない力は垂れ流されるだけで身にならん。無理に止めようとすれば器はいつか壊れる。神の得手は創ることで器、魂と言ってもいいか、それを変質させるのは神の領分からは少し外れる。出来ないわけじゃないだろうがな、半端じゃ足りんかったんだろうな魔王には」


「んー……よくわからないわね」


「まっそうだろうな、要するに力の性質の違いだな。でだ、さっき言った人を捨てるってのはその在り様を人から妖しに変質させるってことだ」


「でもさっき神でも難しいみたいなこと言ってなかった?」


 そう言って無月の言ったことを思い返しシャルルは首を傾げる。


「性質の違いだって言っただろ、変質だのは俺ら妖しの領分だ」


「なんか信じられないわね、神ですら魔王に届かせることができないんでしょ」


「そこらの奴らがやるなら半人半妖止まり、半端なことになるだろうな」


「だったら――」


 シャルルの言葉を手で制し、無月は堂々たる笑みを浮かべ口を開く。


「俺なら人を完全な妖しにすることが出来る。まぁどんな妖しに成るかまでは分からんが相応の力を持った者にはなれるだろうさ。これでも月を砕き神々と渡り合った大妖だぜ俺は」


 そして無月はシャルルではなくミーア、カイン、リーナ、シアへ言葉を向ける。


「それを踏まえた上でよく考えな。なぁに、損はさせねぇよ」


そう言って無月は金棒を持ち立ち上がると人化の術を使い人の姿をとる。


「話はこんなもんか、姫さん」


「最後にこの話は秘密にしたほうがいいのかしら?」


「別に口止めはしねぇよ。話したきゃ話せばいい4人にも口止めはしなかっただろ?」


「ムツキを殺そうと思う者が出てくるかもしれないわよ?」


「そうなっても皆殺しにはしないから安心しろ、まっ程度によるがな。勇者だろうと俺は殺れんよ」


 そう言い笑いながら無月はドアへ向かい、ドアノブへ手をかけたところで小さく呟く。


「この首を誰かにくれてやるつもりは毛頭ない」


 静かだが今までのどの言葉にもない重い覚悟のようなものを感じさせる、そんな声だった。

 そうして無月は部屋を出て行った。

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