理由
『冒険者ギルド』
依頼主と冒険者、双方の橋渡しとして設立された組織。
ギルド設立以前は金額交渉、依頼料の支払い方法など全て依頼主と冒険者の直接交渉によって行われていた。
このため多くのトラブルが発生していた。
依頼主はとにかく安く、冒険者はとにかく高く、依頼料の額が決まらず依頼に取り掛かれないなど事はよくあること。
依頼料の踏み倒し、依頼達成後の支払い額のつり上げ、護衛対象の持ち逃げや誘拐、冒険者を嵌めて多額の損害賠償の請求、被害にあった者からの報復、双方の認識不足からの刃傷沙汰と上げていけばキリがない程に。
それらの問題に自らの行く末を、あるいは後に続く者達の歩む道を危惧した一部の商人組合と冒険者たちが協力し立ち上げた組織が冒険者ギルド。通称ギルドと言われている。
ギルド創設の際しいくつかのルールが設けられた。
一つは依頼主と冒険者のギルドへの登録制、ギルドに登録しなければ依頼を出すことも受けることもできない。これにより双方を監視し悪質な者には相応の罰則を科すことで詐欺、窃盗誘拐等の犯罪抑止とした。
一つは依頼の発注方式、依頼主は依頼内容と依頼額を提示し冒険者がこれを受けるか否か判断する。
これにより交渉の際に起こるトラブルを解消する。
一つは冒険者と依頼内容のランク設定、これにより身の丈に合わぬ依頼に手を出しリタイアする冒険者を減らし、護衛依頼などある程度の信頼を必要とする依頼を実績の無い者が受けられないようにする。
他にも素材の買取流通システム、冒険者の等級に応じた優遇処置など、これらの設定によって人材の育成と信頼の獲得を成したギルドは大陸全土に支部を持つ国家にも匹敵する組織となった。
○●○
「そういえば、ムツキさん。ギルドに依頼は見に行かないの?」
ギルドに向かわず、王都の外へ向かう無月にリーナがそんな事を聞いてくる。
「ギルドなぁ・・・登録しようとはしたんだがな、拒否された」
「えっ、なんで?!」
「最低のランクでも魔物との戦闘の可能性があるから無色には依頼を回せない、よって登録に意味は無いということらしい」
「あーそういえばムツキさん無色なんだよねー。規格外の事ばっかりするから忘れてた」
「まぁ換金は出来るからな。依頼料と登録者の優遇が無い分、実入りは落ちるが数こなせばいいだけだし特に問題ないけどな」
「でも魔石換金してるんだから魔物が出ても討ち取れるって証明にはならないの?」
魔石は魔物の体内からしか採取できない。
よって魔石を換金に持ってこれるということは能力の証明ではないのかと考えたリーナは疑問に思った。
「俺に聞かれてもなぁ、拒否されてからは登録申請してないしなー、俺よりお前らの方がその辺のことは詳しいんじゃないのか」
「んー」
異世界から来た自分にこちらの組織の事情を聞かれもわかるわけがないと無月はリーナに返す。
「あたしらは軍属だからギルドには登録できないんだよ」
無月の返しにリーナは首を傾げ考え込んだ。彼女に代わってミーアが無月に答えた
「そうなのか」
「登録すると少なからずギルドから干渉を受けるからねぇ、揉め事を防ぐために軍で禁止してるんだよ。そんな訳だからさ、あたしらも知らないことのほうが多いんだよ」
「そういう訳なんだよムツキさん」
「リーナ、お前わりとお調子者か」
「根は真面目なんだけど普段の言動がねぇ」
「ちょっと?!ムツキさんもミーアさんも酷いよっ!」
プーっと頬を膨らませて抗議するリーナの姿にミーアは顔を背け肩を揺らしながら笑い、無月は笑いながらリーナの頭を撫でた。
「ちょっとした冗談だ、そんな怒るな」
「もぅ、子供扱いしないでよぉ……」
扱いに抗議するリーナだが気持ちよさそうに目を細めながら言ってくるあたり宥めることに成功したようである。
そうしてリーナを宥めていた無月だがふとあることが気になった。
「そういえば、お前らの炎って何色なんだ?」
「炎、あぁ魔力っすか。俺とシアとリーナは黄色でミーアさんが赤っすよ」
さらっと答えるカインだがこれを聞いた無月は少なからず驚いていた。
騎士団長や宮廷魔導師のような上位の役につくための条件が黄色以上であること。
つまり。
「お前らエリートじゃねぇか・・・」
そう、この若さで既に条件を満たしているカイン、シア、リーナ、そして勇者に次ぐ魔力の持ち主であるミーアは紛う事なきエリートなのである。
本来なら無色である無月の世話役をやるような人間ではない。
「そうだよ!凄いんだよ!……ムツキさん、手が止まってる」
「まぁ、そういうことになるのかね……」
無月の手を頭に乗せながら胸を張るリーナ、ミーアはなぜかバツが悪そうに答える。
「それがなんで俺の同行なんだ、お前ら馬鹿なのか」
「馬鹿はひどいっすよ」
「いや、道楽の同行とか有り得んだろ」
「別に偉くなりたいから軍に入ったわけじゃないっす。大事なもの守りたいから、だから軍に入ったんです。強くなるために」
そう言うカインの瞳には強い光が宿っていた。
「強くなりたい、か」
その光を見た無月は何かを懐かしむような表情を浮かべていた。
「そうっす」
「そうか」
そう短く答え、さり気なくミーア、シア、リーナの表情を見る無月。
三人の瞳にもカインと同じ光が宿っていた。
それを見た無月はどうしようもなく楽しくなってしまった。
(ったく。こういう性分なのかね)
王都の外壁にある門を通り街道に出たとき無月は四人に笑いながら言葉をかけた。
「ものを教えるなんてのはガラじゃないんだがな。見たいなら見せてやる、知りたいなら教えてやる。全てを呑み込んで強くなる気概があるなら、俺も出し惜しみはしねぇよ」




