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異世界の衣装

 王都に出た無月たちは目的の服屋に向かって通りを歩いていた。


「しかしムツキ、わざわざ服を作る必要なんてあるのかい?」


「おう、やっぱり身に付けるものは少しでも馴染む物じゃないとな」


「どんな服なんですか?」


「あっちの世界の服なんだがな、まぁ大分古いものなんだが……っと、見えてきた彼処に頼んだんだ……ん?」


 目当ての店に近づいて行く無月たち、店の前では店員らしき女性と壮年の男性が何やら話し込んでいた。


「よー、女将」


「おや、あんたかい。丁度良いとこに来たね」


「てぇことはやっぱ俺が頼んでたやつか?」


 そう言うと無月は女将と呼んだ女性ではなく男性の方に問いかける。


「あぁ、ハナオと言ったか、それに使う生地をな。頑丈なだけでは足を痛めるだろうし、繊細な生地では強度がなぁ。何がいいかマーサと話してたとこだ」


「間を取ればそれでいいと思うがな。どのみち交換が必要になってくるもんだからな、鼻緒に詰める物さえちゃんとしてれば・・・綿を使えばまぁ大丈夫だろ。あとは太目に作れば足に食い込まないから痛めることも少ないかもな」


「なるほどな。というわけだマーサ」


「あいよ、色はどうするんだい?」


「地味な感じのやつがいいな、派手なのは落ち着かん」


「わかったよ、ちょっと待ってな。あぁそれと頼まれた服だけど出来上がってるよ、後で確認しとくれ。それから教えてもらったデザインもいくつか作ってみたんだ、そっちも見てくれるかい」


「あぁ、わかった」


 生地を取りに店の奥へ引っ込んだマーサ、無月はそれを見送り視線を男性へと移す。

 その表情には若干の困惑が浮かんでいた。


「しかしジョシュア、値引きしてもらっといて言うのもなんだが本当にいいのか。買うやつがいるとは思えんのだがなぁ」


「何言ってる、勇者様の世界の物なのだろう。だったら売れないわけないだろ、勇者って肩書きにはそれだけの価値が有る。派手好きの貴族なんかは喜んで金を出すだろうな」


 無月の言葉にジョシュアと呼ばれた男性は自信に満ちた表情で笑った。

 服屋のマーサと木工職人のジョシュア。目的の品を探した結果王都には無いとわかった無月が制作を依頼したのがこの二人だった。

 当初は経費と手間賃を払ってそれで終わりと思っていた無月だが依頼した品に二人が予想以上に食いついてきたのである。

 無月が注文した以外の形はあるのか、色は、女物は、そして決定打となったのが何処の地域の装束かという質問。

 これに無月が勇者が居た世界の物だと答えた。これを聞いた二人の目は気の良い服屋の店主でも頑固な職人でもなく銭を積み上げる商人のそれへと変わった。

 そして二人が言ってきたのが代金は要らないその代わり知ってることを全て教えろというものであった。

 当然だが試作した品を確認するのも含めてのことだ、そんなものに付き合っていたら何時異世界観光に出れるかわかったものではないと近々旅に出る旨と柄や生地の色は客の好みに合わせればいい事を伝え幾つかのデザインとそれをどういった者が着ていたか、どういった時に着ていたかを教える代わりに割引仕事ということで落ち着いた。


「待たせたね、今ある物だとこんな感じだね」


「悪いな……んー」


戻ってきたマーサが持ってきたいくつかの生地を見比べる無月。


「これかな」


 そう言って無月は暗い藍色の生地を指さした。


「これだね。で、太目って言ってたけどどれくらいにすればいいんだい?」


「あぁ、これくらいかな。あとは長さだが……ジョシュア、そっちのはもう出来てるのか?」


「出来てるぞ」


「悪いが持ってきてくれないか、そのほうが話が早い」


「そうだな、ちょっと取ってくる」


 無月の言葉に頷いたジョシュアはマーサの店の斜め向かいにある自分の工房へ戻っていった。

 この近さが無月がジョシュアと縁を結んだ切っ掛けでもある。

 鼻緒は木工職人だけでは時間が掛かると思った無月が服とは別に協力して作って欲しいものがあると話しマーサが紹介してくれたのが近くに工房を構えるジョシュアだったいうわけだ。


「さて、ジョシュアが戻ってくるまで頼んでたのを見とくかね」


「あぁそうだね、こっちだよ」


 そのままマーサについて店に入っていこうとした無月に待ったがかかる。


「ちょっとムツキ?!」


 店に着いたとたん無月がマーサ達と話し込んでしまった為、放置状態だったミーア達だがこのまま待たされっぱなしでは堪らないとミーアが無月を呼び止めた。


「ん、どうしたミーア」


「どうしたじゃないよ、放ったらかしはちょっと酷いんじゃないかい」


 配慮に欠ける無月の扱いにミーアが抗議する。

 さすがに無月も悪いと感じたようで後ろ頭を掻きながらマーサにお伺いを立てる。


「女将、悪いがこいつら俺の連れでな、一緒でもいいか?」


「あぁ、一緒に見ればいいさ、こっちとしても有り難いしね」


「すまねぇな、んじゃついでに意見でも聞かしてもらおうか。ついてこいよ」



○●○



「どうだい?」


 マーサの問いに無月は満足げに頷き答えた。


「上出来だ、正直不安もあったんだがこの出来は申し分ない。まぁ後は好みの問題だな……どうだ? 折角付いて来たんだから意見の一つも有っていいと思うが?」


 無月たちの前には着物、羽織に袴、浴衣や半被はっぴ、足袋などの和服が数点並べられていた。


「これがムツキさんの世界の服なの?」


「あぁそうだ、どうだリーナ」


「どうだって言わられも……なんかマントみたいだけど、これじゃ丸見えになっちゃうよ」


 浴衣を見ながらそう言うリーナ。


「あぁ着方がわからないとそう考えるか。それは開いたとこを重ねて帯で締めるんだ。」


「帯?」


「ベルトみたいなもんだ」


「へぇ、なんか面倒だね」


 リーナはコテンと首を傾げてそんな感想を言う。

 それに苦笑いを浮かべた無月はマーサの方を向いた。


「これは実際着ているところを見せないと売り物にならないと思うぞ。好奇心だけじゃ金は出さないだろうしな」


「そうかもしれないねぇ、店の娘にでも着せて店番させてみようかね。あっちの娘は随分気に入ってくれたようだけどね」


 無月と同じように苦笑いを浮かべなら売り方を考えるマーサの視線がシアの方へと向く。

 先程から熱心にある品を見ているシア。

 無月が気になってシアの視線を追ってみるとそこには緋袴と白衣びゃくえが並べられていた。


「随分熱心に見てるな、シアはそれが気になるのか」


「へっ?!あっその、はい。このスカートの赤と上着の白が綺麗だなって思って」


 無月に声をかけられ恥ずかしそうにシアは答えた。その頬はほんのり赤く染まっている。


「そいつは袴、緋袴って言うんだ。緋っていうのは赤って意味だ」


「そうなんですか」


「あぁ、どうだ着てみたいと思うか?」


「あの、はい、着てみたいです」


 はにかみながら無月に着てみたいと答えるシア。


「そうか。そっちはどうだ、なんか気になるものはないのか」


 ポンポンとシアの頭を叩きながら笑った無月はミーアとカインの方へ話しかけた。


「ムツキさんの世界では皆普段こういう服を着てるんすか」


「いや、これは俺が居た国で着られてもんでな。世界中ってわけじゃない、しかも古い型だから今では普段から着るやつは少ないな」


「じゃあムツキさんは何でわざわざ作ろうと思ったんすか?」


「そりゃ俺がその少数派だからだな。やっぱ身に付けるのもは馴染んだものに限る」


「ムツキの着るのはどれなんだい」


「俺のはあそこにあるやつだ」


 ミーアの質問に答えた無月が指さした先にあったのは白襦袢に黒の着物と袴そして黒地に裾、袖口などに赤い線の入った羽織だった。


「なんというか・・・地味じゃないすか」


それを見たカインが微妙な表情でそんな感想を漏らしていた。


「いいんだよ地味で、派手なのは落ち着かん」


 そんな感じで服を眺めているところに工房から小さな木の板を持ったジョシュアが戻ってきた。


「おぉ、持ってきだぞ。どうだ」


「ありがとな、女将こっち来てくれ。さっきの話の続きだ」


「あいよ、それが言ってたゲタってのかい」


「そうだ、でな鼻緒の長さなんだが――」


 ジョシュアから下駄の台を手に二人に話し始めた。

 鼻緒の長さと台に開ける穴の位置、鼻緒を付けるときの注意点といったことを伝えていった。


「なるほどな。じゃあ明日の昼には仕上げておく」


「そうか、じゃあ服もその時にするか。それでもいいか女将」


「あぁ構わないよ。その時に着方を教えとくれ」


「わかった、んじゃ明日な」


 そうして用事を済ました無月たちは店を後にした。


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